【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝

文字の大きさ
上 下
14 / 27

傲慢な聖女(エキドナ視点)

しおりを挟む
 まったく、オーウェン殿下には困ったものですわ。
 まるで、わたくしが嘘をついてお姉様を追い出したみたいな言いがかりを。
 そりゃあ、お姉様が新たな聖女に内定したという話を聞いて、調子に乗られる前に濡れ衣を着せてやろうとしたのは本当です。
 あの“神託の杖”、前からデザインが気に入らなかったので、新しいものと交換して欲しかったですし……。

 聖女を辞めるかと思ったんですけど、まさか追放されるのを選ぶなんて、お姉様はバカですわ。あの愚鈍なお姉様が外で暮らすなんて三日も保ちませんの。

「とにかく、全部お姉様が悪いのです。これ以上、詮索しないでくださいまし」

「不快にさせて悪かったと思っています。すみません」

 オーウェン殿下のあの言い草、気に食わないったらありませんの。
 結局、わたくしの言うことを信じるとは言ってくれませんでしたし。
 あんな本ばかり読んでいるような詰まらない男。王子でなければ、こっちから願い下げですのに。
 ああ、腹立たしいですわ。嫌になりますの。

「あ、あのう。聖女様、そろそろ結界の方を。魔物の大群がこちらに向かってきていますゆえ」

「あら、あれくらいの魔物も処理出来ませんの? 仕方ありませんわね」

 この黒髪の護衛の女性。新人さんかしら。わたくしを急かすなんて無礼ですわ。
 最近、呼び出しが多くてイライラしますの。わたくし以外が皆、小さな力しか持たないから仕方ないんですけど。
 そう、この国で唯一の聖女であるこのわたくしに頼るしか手がないのですから。許して差し上げませんと。

極大魔炎砲ヘルフレイム……!」

「な、なんて大きさの魔法陣!? こ、こんなのところで大規模な炎魔法を放ったら――」

 魔物も、人も、全部わたくしからすると虫けらみたいな存在ですわ。
 まったく、こんな虫退治にわたくしを駆出すなんて……。

「あ、あのう。エキドナ様、結界の方は……。それに力任せに森を焼き払うのは如何なものかと……」

「ちっ……、分かっていますわよ。あなた、さっきから、クドいですわ」

「す、すみません」

 結界を張る前にゴミ掃除しただけじゃないですか。
 森を焼かなきゃ、魔物が焼けないんだから仕方ないでしょう。魔物だけ燃やすなんて器用なこと、出来るわけありませんわ。

光の結界ゴールドヴェール

 ったく、結界くらい五分もあればすぐに張れますの。
 わたくしよりも早く結界を作れる者などいないのに。どうして、この人はわたくしを愚鈍な落ちこぼれのお姉様の如く扱うのか理解できませんわ。

「わ、わわ、エキドナ様! あれ、ドラゴンじゃないですか!? 早く、結界を!」

「そんなに早く張れるわけないじゃないですか。ったく、もう。イライラしますわね」

 せっかく張りかけた結界をキャンセルして、わたくしは迫りくるドラゴンの腹に狙いを定めて、魔法陣を作る。
 魔物の量が異常に増えているとは聞いていましたが、こんなにも増えているなんて……。

大地の槍グランドスピア!」

 魔法陣から地面を隆起させて、巨大な槍を生み出して、それをドラゴンに放つ。
 たかが、ドラゴン。私の敵ではありません。せっかくの作業が中断したのはイラッとしますが。

「はぁ、面倒くさい。何か気分が乗りませんねぇ」

「そんなこと仰せにならずに、結界をお願いします」

「あなた、今日でクビで。結界は張って差し上げますから」

「そ、そんな。私の人事権は、王室が――」

「お黙りなさい。わたくしはオーウェン殿下の婚約者ですのよ。人事権など知ったことではありませんわ」

 ムカつく、この護衛の女はクビ確定として。まー、聖女ですから結界を張る作業を再開くらいはしましょうか。
 さて、もう一度、“光の結界ゴールドヴェール”を――。

「ま、またドラゴンです! 今度は二体!」

「えっ?」
「「グルルルルルルルルル!」」

 さっきからうざったいですわ。
 また、結界をキャンセルして――。って、間に合わないではありませんか……!
 ど、どうしましょう。こんなくだらないミスでこの天才であるわたくしが――。

双氷燕ダブルスワロ……!」

 黒髪の女はわたくしに襲いかかってきた二体のドラゴンの心臓部に二体の氷の燕を撃ち込んで、動きを停止させました。
 あ、あれは多重魔法マルチプレイ? 力のない魔術師たちが何とか威力を上げるために考えたという高等技術でしたっけ? 
 
「弱い術でも魔力を収束させれば竜をも穿つ。多重魔法マルチプレイを覚えておけば、あなたもいちいちキャンセルしなくとも魔法で迎撃出来たというのに、その体たらくか」

 わ、わ、わたくしのやり方にケチをつけるのですか!?
 な、な、何という屈辱。何という生意気さ……!
 多重魔法マルチプレイなんて弱い人が使う負け犬の技術ですの。元々、強いわたくしには必要ありませんわ。

「あなた、何者ですか? このわたくしに偉そうに意見を述べるなんて……!」

「これは失礼した。ボクは隣国、エルガイア王国からこちらの国のオーウェン殿下たっての願いで派遣された君の護衛だよ。まぁ、ボクを雇うためにエルガイアに多額の金と資源が送られたのだが、それは君には関係ないか」

 オーウェン殿下の願いによって派遣された護衛? 多額の金と資源と引き換えにわたくしの護衛をわざわざ新しく雇ったと言いますの?
 確かに、さっきは助けられましたが……。それはわたくしの力に対して失礼過ぎやしませんか?
 
「アーメルツの聖女は神童と呼ばれた天才だと聞いていたが、その才覚に溺れて実にお粗末さが目立つ。それで本当に国が守れるのかな?」

「わ、わたくしに向かってそんな口を利くなんて! あなた、生意気にもほどがありますわ……!」

「礼には及ばないよ。先輩としてアドバイスしただけだから。君よりも一年ばかり長く聖女をやっているからね」

 黒髪の女がポケットから取り出して、胸元に付けたのは聖女の証。魔石が埋め込まれて、教会の刻印が刻まれたブローチです。
 こ、この人、まさかエルガイア王国の聖女。あっちの聖女は三人いると聞きましたが、その中でも黒い髪の聖女は――。

「エルガイアの黒髪の聖女――アナスタシア・オルティミス。あ、あの“最強の聖女”と呼ばれている……」

「ボクの名前は知っていたか。お高く止まっていたから、平民出身の聖女の名前など知らないかと思っていたけど」

 知らぬはずがないではありませんか。
 この女のせいで、わたくしがどんなに活躍しても、天才や神童の二つ名の次に、アーメルツのアナスタシアとか、アナスタシアの再来とか、要らぬ名前が付いてくるのですから。
 十二歳で聖女になったわたくしの方が凄いのに。この人は先に生まれて、先に聖女になったというだけで、最強とか呼ばれていて、会ったことはなくとも大嫌いでした。

「なんであなたのような方がアーメルツに? あなたの守るべき国はエルガイアではありませんの?」
 
「もちろん、そうなんだけど。エルガイアには宮廷ギルドもあるからね。人手不足の深刻さはこの国ほどじゃないんだ。国王陛下も資源が豊富なアーメルツからの支援の方が欲しいと仰った。だから、ボクがしばらく君の助っ人になる方向に話が動いたのさ」

 い、意味が分かりませんの。わたくしだってきちんと仕事をこなしていたというのに。
 これでは、わたくしの、聖女としてのプライドが……。

「ああ、あと。ボクが助っ人になる一番の理由。それは、もうじき君が聖女じゃあいられなくなるかららしいよ。詳しくは知らないけど……」

「――っ!?」

 わ、わたくしが聖女ではいられない?
 そ、そ、そんなことって……。こ、これは、どういうことですの? 
 ま、まさか、オーウェン殿下が何かしたという……。
 く、屈辱ですわ。こんなのって、あり得ませんの……!
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

聖女を騙って処刑されたと言われている私ですが、実は隣国で幸せに暮らしています。

木山楽斗
恋愛
聖女エルトナは、彼女を疎む王女の策略によって捕まっていた。 牢屋の前でやって来た王女は、エルトナのことを嘲笑った。王女にとって、平民の聖女はとても気に食わない者だったのだ。 しかしエルトナは、そこで牢屋から抜け出した。類稀なる魔法の才能を有していた彼女にとって、拘束など意味がないものだったのだ。 エルトナのことを怖がった王女は、気絶してしまった。 その隙にエルトナは、国を抜け出して、隣国に移ったのである。 王国は失態を隠すために、エルトナは処刑されたと喧伝していた。 だが、実際は違った。エルトナは隣国において、悠々自適に暮らしているのである。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ
恋愛
私、ミーファ・ヘイメルは、ローストリア国内に五人いる聖女の内の一人だ。 ローストリア国の聖女とは、聖なる魔法と言われる、回復魔法を使えたり魔族や魔物が入ってこれない様な結界を張れる人間の事を言う。 ある日、恋愛にかまけた四人の聖女達の内の一人が張った結界が破られ、魔物が侵入してしまう出来事が起きる。 国王陛下から糾弾された際、私の担当した地域ではないのに、四人そろって私が悪いと言い出した。 それを信じた国王陛下から王都からの追放を言い渡された私を、昔からの知り合いであり辺境伯の令息、リューク・スコッチが自分の屋敷に住まわせると進言してくれる。 スコッチ家に温かく迎えられた私は、その恩に報いる為に、スコッチ領内、もしくは旅先でのみ聖女だった頃にしていた事と同じ活動を行い始める。 新しい暮らしに慣れ始めた頃には、私頼りだった聖女達の粗がどんどん見え始め、私を嫌っていたはずの王太子殿下から連絡がくるようになり…。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】 https://ncode.syosetu.com/n9071il/ 異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。 貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。 イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。 このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん? 別にいっか! 聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね! 重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!

処理中です...