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不自然な追放(オーウェン視点)
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昔から面倒な男だと言われていました。
王子という身分の人間が神経質だと国民が不安がると父上にもよく怒られましたっけ。
ですが、私の性分なのです。気になったらとことん調べなくては気が済まない。
悪癖なのは分かりますが、こればかりは治せる気がしません。
そう、癒やしの術を得意とする聖女の力をもってしても。
「ルシリア・フォン・ローエルシュタインが実家を追放されたのですか? 聖女になったその翌日に……」
その知らせはにわかに信じられませんでした。
私の婚約者のエキドナ・フォン・ローエルシュタインの姉君、つまり義姉になる予定だったルシリアさんが追放されたという話。
彼女は努力家で魔法の厳しい修行を重ねている様子を友人のアークハルトさんと見たこともあります。
そんな彼女はついに努力が実を結んで聖女になることができた。称賛すべきことだと思います。
そんな彼女がその晴れの日に即座に追放処分を受けたなど、どう考えても妙な話ではないですか。
「お姉様は家宝でわたくしが大事にしている“神託の杖”を壊してしまったのですわ。それはもう、見るも無惨な光景でした。追い出されて当然です」
そのことを私に報告したのはエキドナさんでした。
会食中に突然、ルシリアさんが私たちの結婚式に欠席すると言われ、訳を聞くと彼女が追放された顛末を話されたのです。
あの宝具と言われているローエルシュタイン家の家宝“神託の杖”。確かにそれを壊したのがルシリアさんなら、家を追われても仕方ないかもしれません。
「“神託の杖”をルシリアさんが壊す、ですか。……動機はなんですかねぇ」
「えっ?」
「いえ、動機ですよ、動機。ルシリアさんは何も考えずに物を壊すような獣ではないでしょう? ならば、そのような行動を起こしたのには必ず動機があるはずです」
では、何故に“神託の杖”が壊されなくてはならなかったのか。
ルシリアさんには壊さなくてはならないような理由があったのか。私にはそれが疑問でした。
「お姉様はわたくしに嫉妬していたのです。ですから、嫌がらせとしてやったに決まっております。そういう人でしたから」
「ルシリアさんはエキドナさんに嫌がらせをするような方だったのですか?」
「それはもう。しょっちゅう、わたくしのことを虐めていましたわ。聖女にいつまで経ってもなれないからって」
「なるほど」
なんと、ルシリアさんがエキドナさんを虐めていた。それは初耳でした。そして驚きました。
なんせ、エキドナさんは神童と呼ばれたほどの天才です。その力の大きさはルシリアさんを大きく凌ぐ。
そんな彼女が姉に虐められていたなんて、ちょっと想像が出来ませんでした。
「ルシリアさんは虐めの一環として“神託の杖”を壊した、と。……それを目撃したのは使用人の方の誰かとか、ですか?」
「いえ、このわたくしがこの目ではっきりと見ましたわ。お姉様の悪事をそれはもう、じっくりと言い逃れが出来ないくらいに」
「えっと、ちょっと待ってください。ルシリアさんが“神託の杖”を壊すところを目撃したのはエキドナさんなんです?」
胸を張って、自信満々の表情を作りルシリアさんが杖を壊したシーンを目撃したというエキドナさん。
これはまた変なお話をされますね。まさか、目撃者がエキドナさんとは。
私の頭の中に次から次へと疑問が飛び出してきます。
それはいかにも変な話でしょう。だって、エキドナさんが見ていていたのなら――。
「なぜ、ルシリアさんを止めなかったんですか?」
「ぷぇっ?」
「いえ、ですから。普通は家宝が無残な姿になるまでじっくりと見るのではなく止めますよね? エキドナさん、大切な杖だと仰っていましたし」
「そ、そうですね。ですから、そのう。ええーっと……」
どう考えても納得出来ないんですよね。
だって、大切な杖が壊されている様子を力が無いならまだしも、国一番の魔法の使い手だと言われているエキドナさんが黙って見ているなんて。
エキドナさん、先程まで自信満々だったのに焦ったような表情を見せていますが、何か私が都合が悪いことを言ってしまったのでしょうか。
「こ、怖くて動けなかったんですよ」
「ふむ。エキドナさんほどの方が怖くて動けないなんてあるのですか?」
「あ、ありますよ! わたくしだって、そんなことくらい。というか、オーウェン殿下酷すぎますわ! まるで尋問ではありませんか! あまりにも失礼ですよ!」
うーん、怒り出してしまいましたね。
尋問するつもりはないのですが、そう聞こえてしまったのなら、質問のしかたがまずかったんでしょうね。
エキドナさん、あなたが怒っているのは本当に私が失礼な態度だからなのですか?
ダメですね。どうも、すぐに人を疑いたくなるのは。
ましてや、彼女は私の婚約者であり、聖女として十二歳の頃より国に多大なる貢献をしている英雄です。
「私が不躾でした。何から何まで疑問に思ったことをすぐに口にしてしまうのは悪癖だと認識しているのですが。不快にしてしまって申し訳ありません」
「わ、分かってくだされば良いのです。オーウェン殿下はわたくしの婚約者ですから。どんなの時も、わたくしの味方でいてほしいものですわ」
「ええ、私もそう願っています」
何の証拠もないのに失礼なことを言ってしまいました。
私も聖女であり、敬愛もしているあなたの味方でありたいです。
それは本音ですよ、エキドナさん。
◆
「ルシリアさんの追放には奇妙な点が多いのは事実。調べてみますか……」
何事も疑問に思ったことは真実を解き明かさなくては気が済まない。
自分の悪癖にも困ったものです。
私はルシリアさんが“神託の杖”を壊したという話が真実かどうか調べてみることにしました。
エキドナさんの話によれば、ルシリアさんが“神託の杖”を破壊したのはローエルシュタイン邸の裏庭であり、時刻は昼過ぎだったとのこと。
ルシリアさんは夕方に教会で聖女の称号を得ている。
つまり昼から夕方までのルシリアさんの足取りを追えば、自ずと真実は浮かび上がるはずです。
そのためには地道に聞き込みするしかありません。私はいつもそうしてきましたから……。
付け髭をつけて、長い黒髪を帽子の中に入れて、安物のコートを羽織り、変装をします。
意外とこれだけで王子だとは気付かれないものなのです。人というのは案外、ぼんやりと他人を認識していますから。
さて、ローエルシュタイン邸付近から探りを入れましょう。
「はぁ、あなたもルシリアのお嬢さんの話ですかい?」
「私の他にも話を聞きに来られた人がいるのですか?」
「あー、あっちの店にいるローエルシュタイン家の使用人。アネッサさんって言ってね。あの子もお嬢さんを見ていないかって聞いてきたよ。一昨日の昼から夕方くらいに、ね」
ふーむ。なるほど、なるほど。
私以外にもアネッサさんという方がルシリアさんの件について疑問に思って調査していると……。
しかし、心配ですね。ローエルシュタイン家の使用人がそのようなことをするというのは。
私の調査がバレるリスクは高くなりますが、接触してみますか……。
王子という身分の人間が神経質だと国民が不安がると父上にもよく怒られましたっけ。
ですが、私の性分なのです。気になったらとことん調べなくては気が済まない。
悪癖なのは分かりますが、こればかりは治せる気がしません。
そう、癒やしの術を得意とする聖女の力をもってしても。
「ルシリア・フォン・ローエルシュタインが実家を追放されたのですか? 聖女になったその翌日に……」
その知らせはにわかに信じられませんでした。
私の婚約者のエキドナ・フォン・ローエルシュタインの姉君、つまり義姉になる予定だったルシリアさんが追放されたという話。
彼女は努力家で魔法の厳しい修行を重ねている様子を友人のアークハルトさんと見たこともあります。
そんな彼女はついに努力が実を結んで聖女になることができた。称賛すべきことだと思います。
そんな彼女がその晴れの日に即座に追放処分を受けたなど、どう考えても妙な話ではないですか。
「お姉様は家宝でわたくしが大事にしている“神託の杖”を壊してしまったのですわ。それはもう、見るも無惨な光景でした。追い出されて当然です」
そのことを私に報告したのはエキドナさんでした。
会食中に突然、ルシリアさんが私たちの結婚式に欠席すると言われ、訳を聞くと彼女が追放された顛末を話されたのです。
あの宝具と言われているローエルシュタイン家の家宝“神託の杖”。確かにそれを壊したのがルシリアさんなら、家を追われても仕方ないかもしれません。
「“神託の杖”をルシリアさんが壊す、ですか。……動機はなんですかねぇ」
「えっ?」
「いえ、動機ですよ、動機。ルシリアさんは何も考えずに物を壊すような獣ではないでしょう? ならば、そのような行動を起こしたのには必ず動機があるはずです」
では、何故に“神託の杖”が壊されなくてはならなかったのか。
ルシリアさんには壊さなくてはならないような理由があったのか。私にはそれが疑問でした。
「お姉様はわたくしに嫉妬していたのです。ですから、嫌がらせとしてやったに決まっております。そういう人でしたから」
「ルシリアさんはエキドナさんに嫌がらせをするような方だったのですか?」
「それはもう。しょっちゅう、わたくしのことを虐めていましたわ。聖女にいつまで経ってもなれないからって」
「なるほど」
なんと、ルシリアさんがエキドナさんを虐めていた。それは初耳でした。そして驚きました。
なんせ、エキドナさんは神童と呼ばれたほどの天才です。その力の大きさはルシリアさんを大きく凌ぐ。
そんな彼女が姉に虐められていたなんて、ちょっと想像が出来ませんでした。
「ルシリアさんは虐めの一環として“神託の杖”を壊した、と。……それを目撃したのは使用人の方の誰かとか、ですか?」
「いえ、このわたくしがこの目ではっきりと見ましたわ。お姉様の悪事をそれはもう、じっくりと言い逃れが出来ないくらいに」
「えっと、ちょっと待ってください。ルシリアさんが“神託の杖”を壊すところを目撃したのはエキドナさんなんです?」
胸を張って、自信満々の表情を作りルシリアさんが杖を壊したシーンを目撃したというエキドナさん。
これはまた変なお話をされますね。まさか、目撃者がエキドナさんとは。
私の頭の中に次から次へと疑問が飛び出してきます。
それはいかにも変な話でしょう。だって、エキドナさんが見ていていたのなら――。
「なぜ、ルシリアさんを止めなかったんですか?」
「ぷぇっ?」
「いえ、ですから。普通は家宝が無残な姿になるまでじっくりと見るのではなく止めますよね? エキドナさん、大切な杖だと仰っていましたし」
「そ、そうですね。ですから、そのう。ええーっと……」
どう考えても納得出来ないんですよね。
だって、大切な杖が壊されている様子を力が無いならまだしも、国一番の魔法の使い手だと言われているエキドナさんが黙って見ているなんて。
エキドナさん、先程まで自信満々だったのに焦ったような表情を見せていますが、何か私が都合が悪いことを言ってしまったのでしょうか。
「こ、怖くて動けなかったんですよ」
「ふむ。エキドナさんほどの方が怖くて動けないなんてあるのですか?」
「あ、ありますよ! わたくしだって、そんなことくらい。というか、オーウェン殿下酷すぎますわ! まるで尋問ではありませんか! あまりにも失礼ですよ!」
うーん、怒り出してしまいましたね。
尋問するつもりはないのですが、そう聞こえてしまったのなら、質問のしかたがまずかったんでしょうね。
エキドナさん、あなたが怒っているのは本当に私が失礼な態度だからなのですか?
ダメですね。どうも、すぐに人を疑いたくなるのは。
ましてや、彼女は私の婚約者であり、聖女として十二歳の頃より国に多大なる貢献をしている英雄です。
「私が不躾でした。何から何まで疑問に思ったことをすぐに口にしてしまうのは悪癖だと認識しているのですが。不快にしてしまって申し訳ありません」
「わ、分かってくだされば良いのです。オーウェン殿下はわたくしの婚約者ですから。どんなの時も、わたくしの味方でいてほしいものですわ」
「ええ、私もそう願っています」
何の証拠もないのに失礼なことを言ってしまいました。
私も聖女であり、敬愛もしているあなたの味方でありたいです。
それは本音ですよ、エキドナさん。
◆
「ルシリアさんの追放には奇妙な点が多いのは事実。調べてみますか……」
何事も疑問に思ったことは真実を解き明かさなくては気が済まない。
自分の悪癖にも困ったものです。
私はルシリアさんが“神託の杖”を壊したという話が真実かどうか調べてみることにしました。
エキドナさんの話によれば、ルシリアさんが“神託の杖”を破壊したのはローエルシュタイン邸の裏庭であり、時刻は昼過ぎだったとのこと。
ルシリアさんは夕方に教会で聖女の称号を得ている。
つまり昼から夕方までのルシリアさんの足取りを追えば、自ずと真実は浮かび上がるはずです。
そのためには地道に聞き込みするしかありません。私はいつもそうしてきましたから……。
付け髭をつけて、長い黒髪を帽子の中に入れて、安物のコートを羽織り、変装をします。
意外とこれだけで王子だとは気付かれないものなのです。人というのは案外、ぼんやりと他人を認識していますから。
さて、ローエルシュタイン邸付近から探りを入れましょう。
「はぁ、あなたもルシリアのお嬢さんの話ですかい?」
「私の他にも話を聞きに来られた人がいるのですか?」
「あー、あっちの店にいるローエルシュタイン家の使用人。アネッサさんって言ってね。あの子もお嬢さんを見ていないかって聞いてきたよ。一昨日の昼から夕方くらいに、ね」
ふーむ。なるほど、なるほど。
私以外にもアネッサさんという方がルシリアさんの件について疑問に思って調査していると……。
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