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第四十話

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「かはっ、かはっ……、このバカ女共! もっと早く僕を助けろ! クソッタレ!」

 マークスの煽り文句のせいで暴力は一層酷くなりましたが、何とかこの場を納めて彼は解放されました。
 血反吐を吐き出しながら、悪態をつくマークスからは異臭が漂っています。
 もはや、王子だったときの面影は一切無くなっていました。

「おい、何をボサッとしている。早く飯をもってこい。気が利かないバカ共だな」

 何でしょう。この方、凄いですよね……。
 あれだけ、凄惨なリンチに遭って、傷だらけなのにも関わらず……、もう王子などと誰も認めていないにも関わらず、こんな態度が取れるのですから。
 
 この方、どうしたら心が折れるのでしょうか……。

「ルージア様、どうします?」

「もちろん、拘束して牢獄に入れます。その後、死刑になるとしても我が家が決着をつけるべきですから」

 改めてマークスの処遇をどうするのか尋ねてきたリリアに私は牢獄に彼を閉じ込めると告げました。
 この人を牢獄に入れたとて、反省などしないことは分かっています。
 しかし、それでも国家君主が変わるまでの騒動に発展したこの事態。
 その中心人物であったマークスを放置するなどあり得ないです。

 父の言うとおり放置しても野垂れ死にするだけだと分かっていても、悪事を企む者を釣る餌になりうると分かっていても、人々に迷惑をかける可能性を無視する訳にはいきません。

 今回は死者が出ていないから良かったものの、お金で解決出来ない問題は必ず出てきます。
 結果的に国の為になるとしても見過ごせません。

「な、何だ!? お前ら! 僕を誰だと心得る! 真のハウルトリア王国の王、マークス様だぞ! 縄を解け! ルージア! お前、ボサッと見てないで助けろ!」

 マークスは憲兵に縛られて、涙目になりながら助けを求めます。
 ですから、助けて差し上げているのですよ。こんなところで、こうしているより牢獄の中の方が余程居心地がいいでしょうし。

 
 ◆ ◆ ◆


「なんだ、もうマークスを見つけて拘束したのか。仕事が早いのは結構だが、真面目すぎるのう」

「お父様の撒いた種で、これ以上の被害が出るのは看過できませんから」

「ワシが間違っていると主張するのだな……」

「今回の件に関してはそうですね」

 父はマークスを捕らえたことを告げると、つまらなそうな顔をされました。
 どうやら、思った以上に早く拘束したことが気に入らなかったみたいです。

 バーミリオン財閥が悪徳貴族と隣国から受けた損害額がかなり多かったらしいですから。

 ですから、父が国王になって一番力を入れていることが隣国に利権を売ろうとしている貴族の特定でした。

「まぁ、よかろう。ズルース伯爵を捕らえたし、他の連中も同じ餌には簡単には食いつかんだろうし」

 無表情でそんなことを呟いて頷いた父の執務室から私は出て、自室に戻ろうとしました。
 しかし、その途中で息を切らせた兵士に私は呼び止められます。

「ま、マークスが脱獄しました……!」

 いや、さっき投獄したばかりですよ。
 いい加減、疲れてきました――。
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