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第二話
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(こんな鏡なんかで……そんなはずはないわ!)
この『真実の鏡』とやらが不思議な力を持っているのは認める。
でもそれがどうして私の本質を映すことになるのかわからない。
(きっと何かの間違いよ。そうに決まっている)
私は自分にそう言い聞かせると、改めてアレンデール様に向き合う。
「ではもう一度お願いいたします。私はアレンデール様を心からお慕いしております。ですから……」
私が必死に訴えかけると、アレンデール様は苦笑いを浮かべた。
「ダメだね。俺は自分を心の底から愛してくれる人と結婚をする。君は俺に相応しくない。婚約破棄させてもらうとする。まったく聖女様としての実績は大したものだと思っていたが、こんな薄情だったとは……騙された気分だよ」
「そんな……私は本当にアレンデール様のことを――」
「もういい。これ以上聞きたくない。出て行ってくれないか? 君と話していると気分が悪くなる」
アレンデール様は私の言葉を遮るように冷たく言い放つ。
私はそれ以上何も言えずに立ち去るしかなかった……。
「失礼いたしました」
私は部屋を出ると扉を閉めた。
そしてそのまま馬車に乗り、涙を拭く。
「嘘よ……。私はアレンデール様にあんな冷たい目を向けられたことがない」
私はショックで頭が混乱していた。
アレンデール様に嫌われたこともそうだが、彼の態度の変化が理解できない。
――ずっとアレンデール様を愛していたのは本当なのだから。
私が神託を受けて聖女になって以来、私は特別な存在として信仰の対象となった。
毎日のように忙しく、王国中の教会で祈りを捧げる日々。
しかしそんな状況に待ったをかけたのが、婚約者になったばかりのアレンデール様だった。
彼は国王陛下に直談判して私が体を壊したら元も子もないと、王都の一番大きな教会のみで祈りを捧げるというようにスケジュールを改善してくれたのだ。
『これで俺との時間が増えるな』
はにかみながら、そう言ってくれたアレンデール様の顔は今でも忘れない。
そんな彼だからこそ私は好意を抱いたというのに……。
(まさかその愛情を疑われるなんて……)
涙が止まらなかった。
なぜ嫌な予感だけが当たってしまうのか、心が壊れていくのを感じた……。
◆
アレンデール様との一件から数日後。
私は辺境に領地を持つ伯父のもとに行っていた父が屋敷に戻ってきた。
「メリルリア。お前が婚約者のベルダンデ公爵に婚約破棄されたというのは本当のことなのか?」
「……はい」
父は娘の不始末を咎めるつもりなのだろう。
当然だと思うし、私にも反論する気はなかった。
だけど私の返事を聞いた瞬間、父の表情が険しくなる。
「どういうことだ? あの男はワシの娘をなんだと思っている!」
意外なことに父の怒りの矛先はアレンデール様に向いた。
「あの男のほうから聖女であるお前を妻に迎えたいと懇願したにもこの仕打ち。たとえ公爵だろうと許さん!」
あれ? アレンデール様からは父に頼みこまれて私を婚約者にしたと聞いていたけど……。
私は聞いていた話と父の話の辻褄が合わなくて首をひねる。
とにかくこのままだと父は公爵家に乗り込みかねない剣幕だ。どうにかトラブルは避けないと。
「お父様、もういいのです。私は――」
「何がもういいものか! あのような男には断固として抗議せねばならん! お前が公爵殿を慕っていたのはワシも知っているのだ!」
「えっ!?」
「公爵殿と婚約してからというものお前は別人のように明るくなった。毎日のように公爵殿の惚気話を聞かされたらワシでなくてもわかる!」
アレンデール様への気持ちまできちんと知られていたとは予想外だ。
どうやら私が彼を愛していたことも筒抜けらしい。
面と向かって言われると少しだけ気恥ずかしい気持ちにもなる。
(うう、そんなに私って惚気話ばかりしていたかしら?)
「とにかくワシは公爵殿に抗議してくる! 立場はあちらが上だが、可愛い一人娘が理不尽に捨てられたのだ! 黙ってはおれん!」
そう言うと父は足早に去って行った。
この『真実の鏡』とやらが不思議な力を持っているのは認める。
でもそれがどうして私の本質を映すことになるのかわからない。
(きっと何かの間違いよ。そうに決まっている)
私は自分にそう言い聞かせると、改めてアレンデール様に向き合う。
「ではもう一度お願いいたします。私はアレンデール様を心からお慕いしております。ですから……」
私が必死に訴えかけると、アレンデール様は苦笑いを浮かべた。
「ダメだね。俺は自分を心の底から愛してくれる人と結婚をする。君は俺に相応しくない。婚約破棄させてもらうとする。まったく聖女様としての実績は大したものだと思っていたが、こんな薄情だったとは……騙された気分だよ」
「そんな……私は本当にアレンデール様のことを――」
「もういい。これ以上聞きたくない。出て行ってくれないか? 君と話していると気分が悪くなる」
アレンデール様は私の言葉を遮るように冷たく言い放つ。
私はそれ以上何も言えずに立ち去るしかなかった……。
「失礼いたしました」
私は部屋を出ると扉を閉めた。
そしてそのまま馬車に乗り、涙を拭く。
「嘘よ……。私はアレンデール様にあんな冷たい目を向けられたことがない」
私はショックで頭が混乱していた。
アレンデール様に嫌われたこともそうだが、彼の態度の変化が理解できない。
――ずっとアレンデール様を愛していたのは本当なのだから。
私が神託を受けて聖女になって以来、私は特別な存在として信仰の対象となった。
毎日のように忙しく、王国中の教会で祈りを捧げる日々。
しかしそんな状況に待ったをかけたのが、婚約者になったばかりのアレンデール様だった。
彼は国王陛下に直談判して私が体を壊したら元も子もないと、王都の一番大きな教会のみで祈りを捧げるというようにスケジュールを改善してくれたのだ。
『これで俺との時間が増えるな』
はにかみながら、そう言ってくれたアレンデール様の顔は今でも忘れない。
そんな彼だからこそ私は好意を抱いたというのに……。
(まさかその愛情を疑われるなんて……)
涙が止まらなかった。
なぜ嫌な予感だけが当たってしまうのか、心が壊れていくのを感じた……。
◆
アレンデール様との一件から数日後。
私は辺境に領地を持つ伯父のもとに行っていた父が屋敷に戻ってきた。
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「……はい」
父は娘の不始末を咎めるつもりなのだろう。
当然だと思うし、私にも反論する気はなかった。
だけど私の返事を聞いた瞬間、父の表情が険しくなる。
「どういうことだ? あの男はワシの娘をなんだと思っている!」
意外なことに父の怒りの矛先はアレンデール様に向いた。
「あの男のほうから聖女であるお前を妻に迎えたいと懇願したにもこの仕打ち。たとえ公爵だろうと許さん!」
あれ? アレンデール様からは父に頼みこまれて私を婚約者にしたと聞いていたけど……。
私は聞いていた話と父の話の辻褄が合わなくて首をひねる。
とにかくこのままだと父は公爵家に乗り込みかねない剣幕だ。どうにかトラブルは避けないと。
「お父様、もういいのです。私は――」
「何がもういいものか! あのような男には断固として抗議せねばならん! お前が公爵殿を慕っていたのはワシも知っているのだ!」
「えっ!?」
「公爵殿と婚約してからというものお前は別人のように明るくなった。毎日のように公爵殿の惚気話を聞かされたらワシでなくてもわかる!」
アレンデール様への気持ちまできちんと知られていたとは予想外だ。
どうやら私が彼を愛していたことも筒抜けらしい。
面と向かって言われると少しだけ気恥ずかしい気持ちにもなる。
(うう、そんなに私って惚気話ばかりしていたかしら?)
「とにかくワシは公爵殿に抗議してくる! 立場はあちらが上だが、可愛い一人娘が理不尽に捨てられたのだ! 黙ってはおれん!」
そう言うと父は足早に去って行った。
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