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第十二話(エレナ視点)
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アリシア姉様は真面目で気立ても良く、お優しい方ですが、妹のわたくしから見てどうにも危なっかしい方でした。
もう覚えているかどうかも怪しいですが、幼少期なんてわたくしを虐める子を公爵家の娘だと知りながら蹴飛ばしたり、王宮では溺れている王子様を何も考えずに川に飛び込んで助けたり――見返りを求めずに、何の計算もせずに正しいと思ったことを行う、昔からそんな方なのです。
わたくしは幼少の頃から周囲の人間の悪意に人一倍敏感だったのか、人を簡単に信じられない人間でした。
だからこそ、アリシア姉様が危うく見えていたのです。
この方はいつかと言わず、近いうちに悪い男性に騙されたり、嫌な女に嵌められたりしないか、それが心配でならなくなりました。
わたくしが出来る限り、姉様を守ろう。
彼女に擦り寄る男がいれば口説き落として適当に捨て去り、彼女を悪く言う女がいれば共に悪口に花を咲かせて地獄に落とす。
頭はあまり良さそうに見せてはなりませんね。警戒されますから。
その日からわたくしは自分を偽ることを徹底しました。姉様の露払いをするために……。
決して姉様に悟らせてはなりません。お優しい、アリシア姉様はわたくしがそんなことをしていると知ればきっと悲しみますし、何よりもわたくしが勝手にやってることなので彼女の気を煩わせたくありませんから――。
◆ ◆ ◆
「アリシア姉様は真面目すぎてつまらない方ですから、今日のパーティーでも殿方は一人も側に寄りませんでしたね」
「エレナ……、あなたの周りは賑やかで楽しそうですね。きっと縁談も多いのでしょう。誰とも婚約しないのは私の順番を待っているからですか?」
はぁ、パーティーは疲れます。
姉様は気付いていませんが、彼女は男たちからそれなりに注目を浴びています。
大人しくて、口下手ですが、それが淑やかに見て取れて顔も薄化粧が逆に栄えるくらいに整っていますので、彼女に声をかけようと近付こうとする男は最近特に多いのです。
まぁ、声をかける前にわたくしがそれを察知して先手を打つのですが……。
「今日もお疲れでしたねぇ。エレナお嬢様」
「楽しそうな顔しないでもらえますか? ビンセント」
さすがに一人じゃ情報も集められないし、姉様を守ることも難しいから、わたくしは信用のおける二人にだけ秘密を打ち明けています。
一人は執事でわたくしの世話係の一人でもあるビンセント。
元々は王宮で王族の護衛をしていたのですが、足を怪我してからは引退。
諜報みたいなこともしていたらしく、情報収集もお手のもの。
「エレナ様~~! またまた、縁談が来ていますよ~~! さっきまでアリシア様が好きみたいなオーラを出していましたのに、薄情ですね~~!」
「シーラは少しは小さな声で話す努力をしてください」
そしてもう一人の世話係でメイドのシーラ。
秘密は守ってくれるし、言われたことはキチンとこなすから、信用はしているけど声が大きいことがたまにキズです。
「でも~~! 私たちの警戒をすり抜けて~~! チャルスキー侯爵家の嫡男であるヨシュア様がアリシア様に求婚されたみたいですよ~~!」
「「――っ!?」」
あら、いつかはこうなる日が来るかと思っていましたが、遂に現れましたか。
アリシア姉様に求婚される身の程知らずが――。
いえ、身の程知らずかどうか判断するのは少しだけ探りを入れてからにしましょう――。
もう覚えているかどうかも怪しいですが、幼少期なんてわたくしを虐める子を公爵家の娘だと知りながら蹴飛ばしたり、王宮では溺れている王子様を何も考えずに川に飛び込んで助けたり――見返りを求めずに、何の計算もせずに正しいと思ったことを行う、昔からそんな方なのです。
わたくしは幼少の頃から周囲の人間の悪意に人一倍敏感だったのか、人を簡単に信じられない人間でした。
だからこそ、アリシア姉様が危うく見えていたのです。
この方はいつかと言わず、近いうちに悪い男性に騙されたり、嫌な女に嵌められたりしないか、それが心配でならなくなりました。
わたくしが出来る限り、姉様を守ろう。
彼女に擦り寄る男がいれば口説き落として適当に捨て去り、彼女を悪く言う女がいれば共に悪口に花を咲かせて地獄に落とす。
頭はあまり良さそうに見せてはなりませんね。警戒されますから。
その日からわたくしは自分を偽ることを徹底しました。姉様の露払いをするために……。
決して姉様に悟らせてはなりません。お優しい、アリシア姉様はわたくしがそんなことをしていると知ればきっと悲しみますし、何よりもわたくしが勝手にやってることなので彼女の気を煩わせたくありませんから――。
◆ ◆ ◆
「アリシア姉様は真面目すぎてつまらない方ですから、今日のパーティーでも殿方は一人も側に寄りませんでしたね」
「エレナ……、あなたの周りは賑やかで楽しそうですね。きっと縁談も多いのでしょう。誰とも婚約しないのは私の順番を待っているからですか?」
はぁ、パーティーは疲れます。
姉様は気付いていませんが、彼女は男たちからそれなりに注目を浴びています。
大人しくて、口下手ですが、それが淑やかに見て取れて顔も薄化粧が逆に栄えるくらいに整っていますので、彼女に声をかけようと近付こうとする男は最近特に多いのです。
まぁ、声をかける前にわたくしがそれを察知して先手を打つのですが……。
「今日もお疲れでしたねぇ。エレナお嬢様」
「楽しそうな顔しないでもらえますか? ビンセント」
さすがに一人じゃ情報も集められないし、姉様を守ることも難しいから、わたくしは信用のおける二人にだけ秘密を打ち明けています。
一人は執事でわたくしの世話係の一人でもあるビンセント。
元々は王宮で王族の護衛をしていたのですが、足を怪我してからは引退。
諜報みたいなこともしていたらしく、情報収集もお手のもの。
「エレナ様~~! またまた、縁談が来ていますよ~~! さっきまでアリシア様が好きみたいなオーラを出していましたのに、薄情ですね~~!」
「シーラは少しは小さな声で話す努力をしてください」
そしてもう一人の世話係でメイドのシーラ。
秘密は守ってくれるし、言われたことはキチンとこなすから、信用はしているけど声が大きいことがたまにキズです。
「でも~~! 私たちの警戒をすり抜けて~~! チャルスキー侯爵家の嫡男であるヨシュア様がアリシア様に求婚されたみたいですよ~~!」
「「――っ!?」」
あら、いつかはこうなる日が来るかと思っていましたが、遂に現れましたか。
アリシア姉様に求婚される身の程知らずが――。
いえ、身の程知らずかどうか判断するのは少しだけ探りを入れてからにしましょう――。
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