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第六話
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何だか現実味が湧きません。
あのアルフォンス殿下が私のことをあんなにも長く想ってくれていたなんて。
あの後、怒られて泣いていた記憶しかないことを正直に告げますと、アルフォンス殿下は笑って許してくれます。
『僕の方こそごめん。そうだよね、思い返してみれば君はずっと泣いていた。とても僕の言葉を聞ける余裕はなかったのに、勝手に舞い上がってしまって……。恥ずかしいよ』
私が忘れていたというより、きちんとアルフォンス殿下の言葉を聞いていなかったが為に、彼には十年もの間、待ちぼうけをさせてしまったのに――逆に謝られてしまって、申し訳ない気持ちが込み上げてきました。
しかし、アルフォンス殿下は私の手を握り、別れる間際に――。
『十年なんてどうってことないさ。これから君と同じ時を過ごす数十年を考えれば、ね』
勿体ないお言葉をかけて頂き、私の胸の鼓動は一気に跳ね上がります。
これからアルフォンス殿下と結婚して上手くやっていけるか、の心配よりも彼との生活が待ち遠しいという気持ちが遥かに上回ったのでした。
「アリシア、ようやったのう! あのアルフォンス殿下との縁談を成立させるとは! さすがは自慢の娘だ!」
ヨシュア様との婚約が決まった日にも同じことを仰っていたような気がしますが、父が調子が良いのは今に始まったことではありませんので、気にしません。
私が心配しているのは、エレナのことでした。
あの子、侯爵家の嫡男であるヨシュア様が私と釣り合っていないと言っていましたが、第二王子である彼との婚約を聞けば何を言い出すのやら、不安でなりません。
「あ、あのう。お父様、エレナにこの話は……」
「おおっ! さっき、お前が来る前にヨシュア殿のところから戻ってきたのでな。朗報だと伝えたよ。結果的にお前の婚約者を奪った形になったし、気に病んでいると思ったからな!」
――すでに伝わっていましたか。
まぁ、隠していた所ですぐにバレることですから。どうにもならないのですが。
とはいえ、ヨシュア様と婚約しているエレナが何かするとも思えませんし、そこまで警戒しなくても良いのかもしれません。
「アリシア姉様、聞きましたよ。今度はアルフォンス殿下と婚約されたとか」
「……そうですね。あなたのおかげで二度も婚約をすることになりました」
「ふふ、そんなに目くじら立てなくてもよろしいではありませんか。ヨシュア様よりもアルフォンス殿下のほうが格上なのですから。寧ろ感謝して頂きたいものです」
「格とか、そういう問題ではありません。品性の話をしているのです……!」
悪びれもせずに、自分のおかげでアルフォンス殿下と婚約できたというような言い方をするエレナに私は不快感を抱きます。
この子は本当に微塵も私に悪いことをしたと思っていないのでしょうか?
「ヨシュア様って、本当におバカさんなんですよぉ。ちょっと挑発したら、侯爵様が見ている前で私のこと叩いて、怒られて……愉快な方でしたわ」
「あ、あなた、一体何を――?」
間もなくのことでした。
私がヨシュア様に呼び出されたのは――。
まさか、エレナの本性が彼にバレているなんて。
あのアルフォンス殿下が私のことをあんなにも長く想ってくれていたなんて。
あの後、怒られて泣いていた記憶しかないことを正直に告げますと、アルフォンス殿下は笑って許してくれます。
『僕の方こそごめん。そうだよね、思い返してみれば君はずっと泣いていた。とても僕の言葉を聞ける余裕はなかったのに、勝手に舞い上がってしまって……。恥ずかしいよ』
私が忘れていたというより、きちんとアルフォンス殿下の言葉を聞いていなかったが為に、彼には十年もの間、待ちぼうけをさせてしまったのに――逆に謝られてしまって、申し訳ない気持ちが込み上げてきました。
しかし、アルフォンス殿下は私の手を握り、別れる間際に――。
『十年なんてどうってことないさ。これから君と同じ時を過ごす数十年を考えれば、ね』
勿体ないお言葉をかけて頂き、私の胸の鼓動は一気に跳ね上がります。
これからアルフォンス殿下と結婚して上手くやっていけるか、の心配よりも彼との生活が待ち遠しいという気持ちが遥かに上回ったのでした。
「アリシア、ようやったのう! あのアルフォンス殿下との縁談を成立させるとは! さすがは自慢の娘だ!」
ヨシュア様との婚約が決まった日にも同じことを仰っていたような気がしますが、父が調子が良いのは今に始まったことではありませんので、気にしません。
私が心配しているのは、エレナのことでした。
あの子、侯爵家の嫡男であるヨシュア様が私と釣り合っていないと言っていましたが、第二王子である彼との婚約を聞けば何を言い出すのやら、不安でなりません。
「あ、あのう。お父様、エレナにこの話は……」
「おおっ! さっき、お前が来る前にヨシュア殿のところから戻ってきたのでな。朗報だと伝えたよ。結果的にお前の婚約者を奪った形になったし、気に病んでいると思ったからな!」
――すでに伝わっていましたか。
まぁ、隠していた所ですぐにバレることですから。どうにもならないのですが。
とはいえ、ヨシュア様と婚約しているエレナが何かするとも思えませんし、そこまで警戒しなくても良いのかもしれません。
「アリシア姉様、聞きましたよ。今度はアルフォンス殿下と婚約されたとか」
「……そうですね。あなたのおかげで二度も婚約をすることになりました」
「ふふ、そんなに目くじら立てなくてもよろしいではありませんか。ヨシュア様よりもアルフォンス殿下のほうが格上なのですから。寧ろ感謝して頂きたいものです」
「格とか、そういう問題ではありません。品性の話をしているのです……!」
悪びれもせずに、自分のおかげでアルフォンス殿下と婚約できたというような言い方をするエレナに私は不快感を抱きます。
この子は本当に微塵も私に悪いことをしたと思っていないのでしょうか?
「ヨシュア様って、本当におバカさんなんですよぉ。ちょっと挑発したら、侯爵様が見ている前で私のこと叩いて、怒られて……愉快な方でしたわ」
「あ、あなた、一体何を――?」
間もなくのことでした。
私がヨシュア様に呼び出されたのは――。
まさか、エレナの本性が彼にバレているなんて。
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