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第五話(ヨシュア視点)
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クソッ! あのクソ女……! 俺を騙しやがったな! 目にもの見せてくれる!
許さない! 許さない! 許さない!
俺は怒っていた。これほどまで怒りを感じたのは、屈辱を感じたのは、初めてだった!
「おいっ! エレナ! いるんだろ!? 出て来い! コラッ!」
力任せに馬車を叩き、エレナを呼び出す。
この女、どう説教してやろうか。この俺を騙したことを目にもの見せてくれる……!
心の綺麗な女を演じて、俺を弄びやがって……!
「あらぁ? ヨシュア様ではありませんかぁ。どうしましたの? そのような険しい顔つきになってしまわれて。大きな声を出されると怖いですわぁ」
「どうしたも、こうしたも、無い! お前、今まで俺のことを騙しやがったな!」
この女、さっきまでの罵声が嘘のように小首を傾げなら出てきやがった。
しらばっくれやがって! ネタはもう上がっているんだよ!
「さっきまで、俺の悪口を言っていただろう!? 全部聞いたぞ! 誰が馬鹿犬みたいだって!? 誰がハズレだって!?」
さっきまでこの女が嘲りながら述べていた悪口を俺は復唱する。
そうだ。俺は全部聞いていたのだ。
謝っても無駄だからな。全部お前の本性はお見通しなのだから。
「……あら、聞こえてしまいましたか。わたくしとしたことが、初歩的なミスをしてしまいましたわ」
「はぁ?」
「別に悪口くらい誰でも言いますでしょう? 本人に面と向かって言わないだけで。その程度のことで侯爵家の嫡男ともあろう方が、子供のように喚き散らして、恥ずかしくありませんの?」
な、なんだ、この女。
きゅ、急に雰囲気が変わった……?
氷のような冷たい目つきで俺を睨みつけてくるその表情は、さっきまでの愛くるしい彼女とまるで別物だった。
「どうした、ヨシュア。エレナさんの忘れ物を届けに行ったと思えば、彼女に大声で怒鳴りおって……」
「侯爵様ぁ……! 申し訳ありません! もう二度と、忘れ物はしませんので……お許し下さいまし! ぐすっ、ぐすっ、ぐすん……!」
「「――っ!?」」
こ、こいつ、いきなり豹変して父上に甘えたような口調で……!
これじゃ、まるでこの俺が忘れ物をしたエレナを過剰に叱りつけたみたいじゃないか。
父上、俺を睨みつけないで下さい。違うのです。
「ヨシュア! 貴様、たかがハンカチを忘れたくらいで、怒鳴るとは何事だ! 可哀想に、こんなにも震えているではないか……!」
「いや、違うのです! エレナが俺のことを悪く……!」
「ヨシュア、申し訳ありません。わたくし、本当に反省しましたからぁ。お許しください……」
「よ、寄るな! この性悪女! くっ……!」
今度は俺の手を握って目を潤ませながら謝罪するエレナ。
こいつ、質が悪いやつだぞ。事実がこのままだと歪曲して伝わってしまう――。
「……やっぱり、ハズレ男ですね。これくらいで取り乱すんだもの」
エレナは耳元で俺にだけ聞こえるようにハズレ男だと呟く。
こ、この女~~~! 絶対に許すもんか!
「――きゃっ!!」
「「――っ!?」」
手が出てしまった。
俺は腹が立って、頭にカーッと血が上って、ついエレナに平手打ちしてしまう。
彼女は大袈裟に倒れ、砂埃まみれになった。
「ヨシュア! 貴様というやつは! 女性に手を上げるとは何事だ! こんな短気なバカ息子だとは思わなかったぞ!」
「侯爵様ぁ……! ふぇぇぇぇん! 怖いですわぁ!」
「よしよし、可哀想に。怖かったな。大丈夫だ。ワシがこのバカ息子をガツンと叱っておくから」
このとき、この女の恐ろしさを知った。
こいつ、泣きながら、俺を見て笑ったのだ。
まるで、自分に逆らうとどうなるのかと見せつけるように。
おのれ、エレナ!
そして、アリシアも許さん! 妹がこんな性悪女だと、何故俺に教えなかった――! 畜生……!
許さない! 許さない! 許さない!
俺は怒っていた。これほどまで怒りを感じたのは、屈辱を感じたのは、初めてだった!
「おいっ! エレナ! いるんだろ!? 出て来い! コラッ!」
力任せに馬車を叩き、エレナを呼び出す。
この女、どう説教してやろうか。この俺を騙したことを目にもの見せてくれる……!
心の綺麗な女を演じて、俺を弄びやがって……!
「あらぁ? ヨシュア様ではありませんかぁ。どうしましたの? そのような険しい顔つきになってしまわれて。大きな声を出されると怖いですわぁ」
「どうしたも、こうしたも、無い! お前、今まで俺のことを騙しやがったな!」
この女、さっきまでの罵声が嘘のように小首を傾げなら出てきやがった。
しらばっくれやがって! ネタはもう上がっているんだよ!
「さっきまで、俺の悪口を言っていただろう!? 全部聞いたぞ! 誰が馬鹿犬みたいだって!? 誰がハズレだって!?」
さっきまでこの女が嘲りながら述べていた悪口を俺は復唱する。
そうだ。俺は全部聞いていたのだ。
謝っても無駄だからな。全部お前の本性はお見通しなのだから。
「……あら、聞こえてしまいましたか。わたくしとしたことが、初歩的なミスをしてしまいましたわ」
「はぁ?」
「別に悪口くらい誰でも言いますでしょう? 本人に面と向かって言わないだけで。その程度のことで侯爵家の嫡男ともあろう方が、子供のように喚き散らして、恥ずかしくありませんの?」
な、なんだ、この女。
きゅ、急に雰囲気が変わった……?
氷のような冷たい目つきで俺を睨みつけてくるその表情は、さっきまでの愛くるしい彼女とまるで別物だった。
「どうした、ヨシュア。エレナさんの忘れ物を届けに行ったと思えば、彼女に大声で怒鳴りおって……」
「侯爵様ぁ……! 申し訳ありません! もう二度と、忘れ物はしませんので……お許し下さいまし! ぐすっ、ぐすっ、ぐすん……!」
「「――っ!?」」
こ、こいつ、いきなり豹変して父上に甘えたような口調で……!
これじゃ、まるでこの俺が忘れ物をしたエレナを過剰に叱りつけたみたいじゃないか。
父上、俺を睨みつけないで下さい。違うのです。
「ヨシュア! 貴様、たかがハンカチを忘れたくらいで、怒鳴るとは何事だ! 可哀想に、こんなにも震えているではないか……!」
「いや、違うのです! エレナが俺のことを悪く……!」
「ヨシュア、申し訳ありません。わたくし、本当に反省しましたからぁ。お許しください……」
「よ、寄るな! この性悪女! くっ……!」
今度は俺の手を握って目を潤ませながら謝罪するエレナ。
こいつ、質が悪いやつだぞ。事実がこのままだと歪曲して伝わってしまう――。
「……やっぱり、ハズレ男ですね。これくらいで取り乱すんだもの」
エレナは耳元で俺にだけ聞こえるようにハズレ男だと呟く。
こ、この女~~~! 絶対に許すもんか!
「――きゃっ!!」
「「――っ!?」」
手が出てしまった。
俺は腹が立って、頭にカーッと血が上って、ついエレナに平手打ちしてしまう。
彼女は大袈裟に倒れ、砂埃まみれになった。
「ヨシュア! 貴様というやつは! 女性に手を上げるとは何事だ! こんな短気なバカ息子だとは思わなかったぞ!」
「侯爵様ぁ……! ふぇぇぇぇん! 怖いですわぁ!」
「よしよし、可哀想に。怖かったな。大丈夫だ。ワシがこのバカ息子をガツンと叱っておくから」
このとき、この女の恐ろしさを知った。
こいつ、泣きながら、俺を見て笑ったのだ。
まるで、自分に逆らうとどうなるのかと見せつけるように。
おのれ、エレナ!
そして、アリシアも許さん! 妹がこんな性悪女だと、何故俺に教えなかった――! 畜生……!
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