9 / 17
第九話
しおりを挟む
私は再び牢獄に行きました。
夫と話し合いをするために。ある決意を抱いて。
出来れば私も無責任でいたくない。添い遂げる約束をして妻になったのですから。
夫が罪を犯せば、彼が心よりそれを悔いて責任を取ると真摯に受け止めるように促すのが妻の役目でしょう。
そして、もしも彼が素直に自らの罪を受け入れると言うのであれば私もエリックが更生する道を模索できるように努力したいと思いました。
親同士が決めた結婚ですから、愛情とかそういったものが欠落してお互いの信頼関係が欠如してたのかもしれません。
私がもしも、もっと激情に任せてあの人を叱責することが出来ていれば、目を覚ましていたのかもしれません。
客観的に見るとエリックは見捨てられて当然くらいのことをしていますから、私も随分と甘い結論を出したと思うのですが、彼をあんなにしてしまった責任が1ミリも無いとは言い切れないので、彼に最後のチャンスを与えることにしたのです。
「エリック、そろそろ頭も冷えたでしょう。あなたも自分の罪と向き合って、罪に対する罰を受け入れなさい。最期くらい反省をするという姿勢と誠意を見せるのです」
なるべく冷静に淡々と……、牢獄の中でぼんやりと仰向けになっているエリックに声をかけました。
聞いているのか、聞いていないのか、相変わらず分からない表情をしています。
「……気持ちいいか?」
「はぁ?」
「夫を嵌めて、上から目線で説教して気持ちいいかと聞いている。君は妹と皇太子殿を使って、僕を嵌めようとしたんだ。僕が不倫していることを知っていることを恐れて、逆にそれを利用したに違いない。じゃないと可笑しいだろ? 妹が皇太子と結婚するなんてニュースを話さないなんて」
この人はあろうことか私が彼を罠に嵌めたみたいな言い回しをしました。
何を言っているのかさっぱり分かりません。
エリックの思考回路が読めなすぎて、頭を抱えたくなりました。
「メリルの事は前にも言いましたが、話しました。あなた、御祝いは適当に選んでくれとまで言っておいて忘れたとは言わせませんよ。それに私は不倫など一切していません。愛人を作ったのはあなたです。それを詫びようともしないとは何ですか」
「適当なことを言うな! 僕は全く記憶にないんだから、そんな事実無いのと同じだ! それに女と男の浮気は別だろう! 僕は男を磨くためにヤッただけだ! 女はこ、子供が出来るじゃないか! 全然違う! 屁理屈を言うな!」
「屁理屈を言ってるのはあなたです。子供が種を撒かずに勝手に出来ると思ってるのですか? あなた、サーシャという女を妊娠させたと言うではありませんか。よくそんな無責任なことを口に出来ますね」
超理論を述べるエリックを見て、私は悲しくなりました。
この人の思考を正常にするのは無理かもしれません。
先程の決意がたったの数分で揺らぎました。
まともな思考が出来ない人との会話がこんなに進まないなんて――。
もう諦めるしかないのでしょうか――。
「ここから出たら覚えてろよ。リムル、お前こそ罰を受けるべきなんだ。僕はお前を許さない」
「あなた、ここから出られると思っているんですか? 極刑になって然るべきという状況なんですよ」
「…………えっ? ぼ、僕が極刑? 勘違いしただけなのに? リムルが嵌めたのに?」
何故か自分が死罪になると1ミリも理解していなかったエリック。
本気で動揺している姿を見て、私は心底呆れました。
「おーう! エリック元気かぁ? ん? こいつは――、ああエリックの女房か」
「ジェクト先輩!」
無精髭を生やした不潔そうな男がエリックとの面会に現れました。
この人がエリックの言ってた先輩?
夫と話し合いをするために。ある決意を抱いて。
出来れば私も無責任でいたくない。添い遂げる約束をして妻になったのですから。
夫が罪を犯せば、彼が心よりそれを悔いて責任を取ると真摯に受け止めるように促すのが妻の役目でしょう。
そして、もしも彼が素直に自らの罪を受け入れると言うのであれば私もエリックが更生する道を模索できるように努力したいと思いました。
親同士が決めた結婚ですから、愛情とかそういったものが欠落してお互いの信頼関係が欠如してたのかもしれません。
私がもしも、もっと激情に任せてあの人を叱責することが出来ていれば、目を覚ましていたのかもしれません。
客観的に見るとエリックは見捨てられて当然くらいのことをしていますから、私も随分と甘い結論を出したと思うのですが、彼をあんなにしてしまった責任が1ミリも無いとは言い切れないので、彼に最後のチャンスを与えることにしたのです。
「エリック、そろそろ頭も冷えたでしょう。あなたも自分の罪と向き合って、罪に対する罰を受け入れなさい。最期くらい反省をするという姿勢と誠意を見せるのです」
なるべく冷静に淡々と……、牢獄の中でぼんやりと仰向けになっているエリックに声をかけました。
聞いているのか、聞いていないのか、相変わらず分からない表情をしています。
「……気持ちいいか?」
「はぁ?」
「夫を嵌めて、上から目線で説教して気持ちいいかと聞いている。君は妹と皇太子殿を使って、僕を嵌めようとしたんだ。僕が不倫していることを知っていることを恐れて、逆にそれを利用したに違いない。じゃないと可笑しいだろ? 妹が皇太子と結婚するなんてニュースを話さないなんて」
この人はあろうことか私が彼を罠に嵌めたみたいな言い回しをしました。
何を言っているのかさっぱり分かりません。
エリックの思考回路が読めなすぎて、頭を抱えたくなりました。
「メリルの事は前にも言いましたが、話しました。あなた、御祝いは適当に選んでくれとまで言っておいて忘れたとは言わせませんよ。それに私は不倫など一切していません。愛人を作ったのはあなたです。それを詫びようともしないとは何ですか」
「適当なことを言うな! 僕は全く記憶にないんだから、そんな事実無いのと同じだ! それに女と男の浮気は別だろう! 僕は男を磨くためにヤッただけだ! 女はこ、子供が出来るじゃないか! 全然違う! 屁理屈を言うな!」
「屁理屈を言ってるのはあなたです。子供が種を撒かずに勝手に出来ると思ってるのですか? あなた、サーシャという女を妊娠させたと言うではありませんか。よくそんな無責任なことを口に出来ますね」
超理論を述べるエリックを見て、私は悲しくなりました。
この人の思考を正常にするのは無理かもしれません。
先程の決意がたったの数分で揺らぎました。
まともな思考が出来ない人との会話がこんなに進まないなんて――。
もう諦めるしかないのでしょうか――。
「ここから出たら覚えてろよ。リムル、お前こそ罰を受けるべきなんだ。僕はお前を許さない」
「あなた、ここから出られると思っているんですか? 極刑になって然るべきという状況なんですよ」
「…………えっ? ぼ、僕が極刑? 勘違いしただけなのに? リムルが嵌めたのに?」
何故か自分が死罪になると1ミリも理解していなかったエリック。
本気で動揺している姿を見て、私は心底呆れました。
「おーう! エリック元気かぁ? ん? こいつは――、ああエリックの女房か」
「ジェクト先輩!」
無精髭を生やした不潔そうな男がエリックとの面会に現れました。
この人がエリックの言ってた先輩?
8
お気に入りに追加
2,383
あなたにおすすめの小説
旦那様と浮気相手に居場所を奪われた伯爵夫人ですが、周りが離縁させようと動き出したようです(旧題:私を見下す旦那様)
めぐめぐ
恋愛
政略結婚をした伯爵夫人フェリーチェはある日、夫レイジィと女中頭アイリーンの情事を目撃してしまう。
フェリーチェがレイジィの言いなりであるのをいいことに、アイリーンが産んだ子に家を継がせるつもりだということも。
女中頭アイリーンに自分の居場所をとられ、持ち物を奪われ、レイジィもアイリーンの味方をしてフェリーチェを無能だと見下し罵るが、自分のせいで周囲に迷惑をかけたくないと耐え続けるフェリーチェ。
しかし彼女の幸せを願う者たちが、二人を離縁させようと動き出していた……。
※2021.6.2 完結しました♪読んで頂いた皆様、ありがとうございました!
※2021.6.3 ホトラン入りありがとうございます♪
※初ざまぁ作品です、色々と足りない部分もありますが温かい目で見守ってください(;^ω^)
※中世ヨーロッパ風世界観ですが、貴族制度などは現実の制度と違いますので、「んなわけないやろー!m9(^Д^)」があっても、そういうものだと思ってください(笑)
※頭空っぽ推奨
※イラストは「ノーコピーライトガール」様より
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる