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第九話

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 私は再び牢獄に行きました。
 夫と話し合いをするために。ある決意を抱いて。  
 出来れば私も無責任でいたくない。添い遂げる約束をして妻になったのですから。
 夫が罪を犯せば、彼が心よりそれを悔いて責任を取ると真摯に受け止めるように促すのが妻の役目でしょう。 
 そして、もしも彼が素直に自らの罪を受け入れると言うのであれば私もエリックが更生する道を模索できるように努力したいと思いました。
 
 親同士が決めた結婚ですから、愛情とかそういったものが欠落してお互いの信頼関係が欠如してたのかもしれません。
 私がもしも、もっと激情に任せてあの人を叱責することが出来ていれば、目を覚ましていたのかもしれません。
  
 客観的に見るとエリックは見捨てられて当然くらいのことをしていますから、私も随分と甘い結論を出したと思うのですが、彼をあんなにしてしまった責任が1ミリも無いとは言い切れないので、彼に最後のチャンスを与えることにしたのです。


「エリック、そろそろ頭も冷えたでしょう。あなたも自分の罪と向き合って、罪に対する罰を受け入れなさい。最期くらい反省をするという姿勢と誠意を見せるのです」

 なるべく冷静に淡々と……、牢獄の中でぼんやりと仰向けになっているエリックに声をかけました。
 聞いているのか、聞いていないのか、相変わらず分からない表情をしています。

「……気持ちいいか?」

「はぁ?」

「夫を嵌めて、上から目線で説教して気持ちいいかと聞いている。君は妹と皇太子殿を使って、僕を嵌めようとしたんだ。僕が不倫していることを知っていることを恐れて、逆にそれを利用したに違いない。じゃないと可笑しいだろ? 妹が皇太子と結婚するなんてニュースを話さないなんて」

 この人はあろうことか私が彼を罠に嵌めたみたいな言い回しをしました。
 何を言っているのかさっぱり分かりません。
 エリックの思考回路が読めなすぎて、頭を抱えたくなりました。

「メリルの事は前にも言いましたが、話しました。あなた、御祝いは適当に選んでくれとまで言っておいて忘れたとは言わせませんよ。それに私は不倫など一切していません。愛人を作ったのはあなたです。それを詫びようともしないとは何ですか」

「適当なことを言うな! 僕は全く記憶にないんだから、そんな事実無いのと同じだ! それに女と男の浮気は別だろう! 僕は男を磨くためにヤッただけだ! 女はこ、子供が出来るじゃないか! 全然違う! 屁理屈を言うな!」

「屁理屈を言ってるのはあなたです。子供が種を撒かずに勝手に出来ると思ってるのですか? あなた、サーシャという女を妊娠させたと言うではありませんか。よくそんな無責任なことを口に出来ますね」

 超理論を述べるエリックを見て、私は悲しくなりました。
 この人の思考を正常にするのは無理かもしれません。
 先程の決意がたったの数分で揺らぎました。  
 まともな思考が出来ない人との会話がこんなに進まないなんて――。
 もう諦めるしかないのでしょうか――。

「ここから出たら覚えてろよ。リムル、お前こそ罰を受けるべきなんだ。僕はお前を許さない」

「あなた、ここから出られると思っているんですか? 極刑になって然るべきという状況なんですよ」

「…………えっ? ぼ、僕が極刑? 勘違いしただけなのに? リムルが嵌めたのに?」

 何故か自分が死罪になると1ミリも理解していなかったエリック。
 本気で動揺している姿を見て、私は心底呆れました。

「おーう! エリック元気かぁ? ん? こいつは――、ああエリックの女房か」

「ジェクト先輩!」

 無精髭を生やした不潔そうな男がエリックとの面会に現れました。
 この人がエリックの言ってた先輩?
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