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第九話(ニッグ視点)

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 ここのところ、毎日、毎日、誰かが俺のことをずっと監視している。
 それだけじゃない。スキあらば俺の命を狙っているのだ。
 一昨日は歩いていたら上から花瓶が落ちてきた。
 昨日は靴の中にサソリが入っていた。
 
 そ、そして今日は……、デスクの引き出しを開けたら……、ば、爆発した……!

 な、なんだこれ? 公爵家が俺の浮気調査をしているんじゃないのか?
 浮気調査の域を超えている……。これは間違いなく暗殺だ。

 誰が俺のことを殺そうとしている……?

 く、くそっ! 心当たりが多くて誰なのか特定できない。
 遊びで妊娠させた女か、小遣い稼ぎで薬中毒にしてやった元友人か、それとも――。

 ジョンのやつも金貨を受け取ったっきり行方不明者だし、何人か他にも調査させようと思った裏と繋がりがある連中も居なくなるし、つるんでいた仲間も俺と縁を切るとか行ってくるし。
 どうなっているんだ。畜生……!

「エルザのやつ、俺を舞踏会にしきりに誘おうとしていたな。まさか、舞踏会へ連れて行って俺を殺そうとしていたんじゃ……」

 よく考えたら貧乏人共にこんなこと出来るはずがない。
 そもそも、俺の部屋に仕掛けなんかリスクの高いこと普通の奴じゃ絶対に出来ない。
 金持ちじゃなきゃ……! 無理に決まってる……!

「エルザのやつ、まさか既に俺とジーナのことに気付いていて……」

 そういえば、前に食事会をした日。
 エルザに愛してるとか言ったら、ジーナのやつが嫉妬してやたらと絡んできたっけな。
 そして勢い余って、庭の大木の影でヤッたんだっけか。
 あれを何かの拍子で見られたとしたら、俺のことを恨みに思って殺そうとするかもしれん。

 ああいう大人しいそうな奴ほどキレると怖いもんなー。

 どうしたもんか? 今さら謝ってみるか? どうせこのままじゃ別れさせられるだろうし。

「いやいや、あいつはこの俺を殺そうとしたんだぞ。許せるもんか……!」

 そういえば、あいつは一人で舞踏会に行ったんだっけか。
 馬車の番をしているやつを含めても精々付き人は三人くらい。
 こうなったら、奥の手を使おう。金は金貨一袋分と特別料金が掛かるが、俺の知りうる一番質の悪い連中にエルザを殺して死体を処理させる。
 証拠はもちろん残さない。これだけ俺が怖い思いをしたんだ。当然の報いは受けてもらう。

「おい! セバスチャン! おい!」

「はいはい。坊ちゃま、何でしょうか?」

「この手紙と金を、モンテエル通りのバー“ひとでなし”にいる肩にイルカの入れ墨がある男に渡して来い」

「こちらの手紙と、こ、こんな大金を……ですか?」
 
「さっさと行け!」
 
 ふっふっふっふっ、これでエルザへの復讐は完了だ。
 肩にイルカの入れ墨がある男の名前はスミス。この国の裏の世界じゃ名の知れたヒットマンだ。
 この俺を追い込んだ報いを受けるがいい。殺る前に殺ってやる。
 まったく、告げ口さえしなければこんなことにはならなかったのになぁ――。



 
 翌朝、何やら庭のほうが騒がしかった。

「坊ちゃまぁあああああああ!!」

 セバスチャンが血相変えて俺を叩き起こしに来る。
 なんだよ。人がせっかく安眠していたのに。
 俺は狼狽するセバスチャンに連れられて、庭へと出た。


「か、肩にイルカの入れ墨がある男が……、ほ、他にも――」

 な、な、な、なんだこれ? 血塗れのスミスとその仲間たち……?
 そ、それに、なんだ、この手紙は――。

『次はお前の番だぞ……ニッグ』

「ひぃぃぃぃ!?」

 俺は手紙を読んで腰を抜かした。
 血塗られた文字で次のターゲットはこの俺だと明記されていたからだ。

 に、逃げなきゃ……。早く、ここから。で、でもどこへ……!?
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