【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

第八話

「え、エルザ……！　俺は、俺はは、命を狙われているんだ……！　た、多分、殺し屋か何かだと思う……！」

「殺し屋……ですか？　それは大変ですね。侯爵様には伝えられたのですか？」

　まさか兄たちが殺し屋を雇って……？
　いえ、さすがに殺すなんてことは考えないでしょうし。ですが、何らかの原因にはなっているのでしょう。

　兄たちが何をしようとしているのか、全然見当もつきません。

「父上には言ったさ。この辺り一帯を調べてもらったが、何もなかったとさ」

「そうですか。そんなに不安なのでしたら、今日は欠席されますか？」

「そ、そうだな。外は危険だし、俺は家から出ないことにするよ……」
「ニャー」
「ふんぎゃあああああああああっ！　殺されるーーーーっ！」
　
　欠席すると口にしたニッグ様の後ろで子猫が甘えるような鳴き声を出したのですが、彼はびっくりして飛び跳ね、腰を抜かします。
　確かにこれでは舞踏会どころじゃないかもしれませんね。

「いいか、エルザ。お前の家族には僕らは仲が良いことをアピールしておくんだぞ。ジーナは僕のただの幼馴染なんだ。なんの関係も無いから余計なことを言うんじゃないぞ。浮気してるとか」

「は、はい」

　この方、私の家族が浮気を疑っていて監視しているとは思っているみたいですね。
　実際、私は浮気をしている事実を目撃しているので誤魔化しきれないのですが、彼の中では全然バレていないことになっているみたいです。

　馬鹿にされているとは思いますが、私のことは全部任せているので、ここで文句を言いたい衝動はグッと堪えておきます。

　ということで、舞踏会には恥ずかしながら一人で出席することとなりました。


　◆　◆　◆


「……エルザさん、僕はニッグと縁を切りましたから。なんの関係もないですからね。そして、ごめんなさい」
「やぁ、エルザくん。知っていると思うけど、私はニッグとは友人などではないのだよ。念のために。だから許してほしい。あれを、あれを公開するのだけは止めてくれ！」
「ご、ご、ごめんなさい。ニッグからは金を借りているけど、だからってニッグの言いなりとかじゃないんだよ。お願いします、粛清しないでください」

　舞踏会の席で……私はニッグと親しかった何人もの方々が私を見るなり謝りにくる方が何人もいました。
　彼らは何故、友人の婚約者である私に縁を切ると言いながら謝るのでしょう。それに、怪我をされている方も見えるのですが……。

「あら、エルザさん。ニッグとは一緒じゃないのね。あの人、最近、付き合い悪いのよ」

「ジーナ、僕の前で他の男の名前を言うのはショックだな……」

「もー、ごめん、ごめん。ケヴィンったら、嫉妬しないでよ。ニッグのことはどうでも良かったわ。じゃ、また」

　ジーナが話しかけてきたと思いましたら、どこかに行ってしまいました。
　あの、男性……、どこかで見たことがあるような――。

「ジーナさん、最近、賭博場に出入りしているって話よ。良くない噂が立っているから、あまり関わらない方がいいかも。いつもあの男の人と一緒みたい」

「えっ？　そうなんですか？」

　舞踏会に来ていた友人がジーナについての噂を話して戦慄しました。
　もしや、ジーナと共にいたあの男性は――。