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第五話(ニッグ視点)

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 おかしい。 
 最近、何かがおかしい。
 
 誰かにずっと尾行されているような、そんな感じだ。
 ジィーっと後からの視線を感じる。
 これが馬車に乗っても続いているのが不気味だ。
 僕の行動を誰かが監視しているのか? 何のために?
 ふーむ。考えられるのは公爵家との縁談の関係か……。エルザが僕とジーナの仲を疑って……いや、正確にはエルザの周りの連中が彼女の話を聞いて心配になったから、か。

 ちょっとふざけすぎたもんな。エルザの反応が面白くて。 
 ジーナの尻とか触ると、びっくりした顔をしていたがあれは傑作だった。
 だが、それをあの家族の誰かにチクったとなると問題だな。 

 エルザの家はこの国では名家中の名家。
 公爵殿には親父も頭が上がらないし、エルザの兄であるルークは第二王女の夫だ。
 エルザの姉のアマンダは来月には隣国の第三王子だかの嫁になる予定だし……。

 連中を敵に回すと非常に厄介なんだよな。

 もちろん、だからこそ公爵家には利用価値がある。
 僕も侯爵家を継ぐ予定だし、王族との繋がりが密なあいつらのご機嫌取りくらいはするつもりだ。

 だからこそ変なことを吹き込まれる前にあの男を知らないチョロそうな女に甘い言葉をかけてやって、惚れさせておいたんだけど。
 うーん。もう少し乱暴な手を使って余計なことを言わせないようにしとけば良かったかな。

「鬱陶しいな。ちょっとは尾行していることくらい隠せよ」

「えっ? ニッグ様、何か言われましたか?」

「いや……何でもないよ、ジェーン。ちょっと独り言だ」

 メイドのジェーンが不思議そうな顔をして僕を見る。
 ふぅ、仕方ない。友人連中に尾行者のことを探らせよう。
 僕がジーナと浮気しているかどうかを調査しているんだろうが……。
 
 男の友人の家に向かうのなら違和感はあるまい。

「予定変更だ。ジョンの家に向かってくれ」

「レストランに予約が入っていますが」

「日頃の世話のお礼だ。君たち、好きなものを飲み食いしてくれていいよ。僕からの奢りということで」

「本当ですか? ニッグ様はなんてお優しいのでしょう!」

 ジョンは男爵家の令息で僕の言うことなら何でも聞いてくれる友人の一人だ。
 裏の連中とも繋がりがあって、気に食わない奴は大体金貨2枚で始末してくれる。
 とりあえず、ジョンの力を借りよう。余計なことを聞かれては困るので、ジェーンたちにはレストランで飯でも食ってもらっている間に、な。


 こうして、僕はジョンの住んでいる屋敷へと向かわせた。   

「へぇ、公爵家の手の者が尾行ねぇ。がはは、任せておいてくれよ。尾行野郎どもなんざ消してやるって。安心しな、証拠は残さねぇよ」

「くくっ、やはりジョンは頼もしいな。だが、消さなくていいぞ。どんな連中が尾行しているか探ってくれればいい」

「ああ、分かった。まぁ大船に乗った気でいな!」

 まずは本当に公爵家の手先なのかということと、僕とジーナの浮気を疑っているのかどうか、探らせよう。

 エルザ、僕は今……飼い犬に手を噛まれた気分だよ。
 だけど、君は知らない。僕には頼りになる仲間がいることを……。






 あれから一週間が過ぎた。
 ジョンとは連絡が取れなくなった。
 それに他の友人たちも何人か行方不明になっている……。

 こ、これは、どういうことなんだ――。
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