19 / 24
Ep19 誓約
しおりを挟む
「お嬢様? アルティメシア嬢?」
「――はっ」
私はアレンデールへの不信感で頭がいっぱいになり、ボーッとしてしまいました。
「どうしました? こんな時間ですから、眠たくなるのも無理はありませんが……」
ネズミの姿のアレンデールは不思議そうな声を出していました。
「いえ、毎回随分と手際が良いと思いましてね――。その手際の良さで皇太子にそこの彼女をけしかけさせたのではないですか?」
聞いてしまいました。どうしても我慢出来なくてこの男に――。
もし、全てが仕組まれたことならば私は――。
「ふぅ、そう来ましたか。貴女は本当に聡明ですよ――」
ネズミはベッドから降りて、もとの姿に戻りました。
暗がりの部屋にも関わらず、アメジストのような瞳は妖しく光を放っています。
「グレイス=アルティメシア様に、ひとつ謝罪することがあります」
アレンデールは私の顔をマジマジと見つめました。
やはり――この方は――。
「僕は知っていました。皇太子と聖女ちゃんの関係を……、貴女が知るよりもかなり前に――。それを黙って機を伺ってました。それは、僕の都合でです。リルアちゃんは、何度も貴女に言おうといってくれてましたが――」
「えっ? 貴方がけしかけたのでは?」
「いや、なんでそんな面倒なことを? というよりも、けしかける作戦を実行するならわざわざ聖女ちゃんみたいな爆弾娘を使いませんよ。それに、ハニートラップの作戦は貴女が婚約したからリルアちゃんに懇願されて見送っていたのです」
アレンデールは手を振って否定しました。
あっ――それもそうですね――。
「えっ、まさかアルティメシア嬢は僕のこと疑っていたのですか? 心外だなぁ」
「貴方が真面目な態度なら――ってよく聞いていましたら、最初はハニートラップを仕掛ける気だったのではないですかっ! それにしても、リルアさんが反対されたのには何か理由があるのですか?」
私は疑問に思って質問しました。
「ああ、リルアちゃんは貴女にあこがれているのですよ。学生時代は貴女の文武両道さ加減がとてもカッコ良かったと言っておりました」
「私がカッコ良い――のですか?」
「ええ、とても……」
何だか釈然としませんが、リルアは信頼出来る気がしますし――。
「では、貴方は私を嵌めようとはしなかったのですね」
「まぁ、証拠は出せませんが、リルアちゃんに誓って」
「そこは神じゃないのですね」
「一応、悪魔の血が流れてますから――。そこの聖女ちゃんにも誓いましょうか?」
アレンデールはニヤリと笑いました。こういうところが信用なりません。
「あと、利害が一致するまでの共闘と言ってますが、例え、僕の目的が達成できなくても貴女の目的を完遂するための味方くらいにはなりますから――」
アレンデールの表情は柔らかくなりました。やさしく私を見ています。
「はぁ、その気もないのに適当なことを――」
「――僕は冗談は言いますけど、適当なことは言いませんよ。僕にとってリルアちゃんは一番大切な妹です。その妹が“大切なグレイス様”は僕にとっても大切な女性なのですよ。ご理解ください」
――大切な女性。この男が“人でなし”なのは承知していましたが、言葉一つで心が軽くなるのを感じました。
「なっ何を似合わないことを仰っているのですか? さっさと姿を変えて下さい。クラリスが起きたらどうするんですか?」
「おっと、これは失敬。そうですね。伝えたいことは伝えましたので、くれぐれも短気は控えて下さいよ。グレイスさん」
にこやかに笑いながらアレンデールはネズミに姿を変えました。
初めて私のファーストネームを――。まぁ、どうでもいいですけど……。
「言われなくとも、承知しています! 貴方こそ、大事なところでヘマしないで下さいね。貴方がずっと味方をするのは勝手ですけど、私は手助けしませんから」
「おやおや、相変わらず手厳しい」
アレンデールは楽しそうな声を出して去っていきました。
まったく、殿方を相手にここまで感情的になったのは初めてです。
本当に嫌な男です――。はぁ……。
「――はっ」
私はアレンデールへの不信感で頭がいっぱいになり、ボーッとしてしまいました。
「どうしました? こんな時間ですから、眠たくなるのも無理はありませんが……」
ネズミの姿のアレンデールは不思議そうな声を出していました。
「いえ、毎回随分と手際が良いと思いましてね――。その手際の良さで皇太子にそこの彼女をけしかけさせたのではないですか?」
聞いてしまいました。どうしても我慢出来なくてこの男に――。
もし、全てが仕組まれたことならば私は――。
「ふぅ、そう来ましたか。貴女は本当に聡明ですよ――」
ネズミはベッドから降りて、もとの姿に戻りました。
暗がりの部屋にも関わらず、アメジストのような瞳は妖しく光を放っています。
「グレイス=アルティメシア様に、ひとつ謝罪することがあります」
アレンデールは私の顔をマジマジと見つめました。
やはり――この方は――。
「僕は知っていました。皇太子と聖女ちゃんの関係を……、貴女が知るよりもかなり前に――。それを黙って機を伺ってました。それは、僕の都合でです。リルアちゃんは、何度も貴女に言おうといってくれてましたが――」
「えっ? 貴方がけしかけたのでは?」
「いや、なんでそんな面倒なことを? というよりも、けしかける作戦を実行するならわざわざ聖女ちゃんみたいな爆弾娘を使いませんよ。それに、ハニートラップの作戦は貴女が婚約したからリルアちゃんに懇願されて見送っていたのです」
アレンデールは手を振って否定しました。
あっ――それもそうですね――。
「えっ、まさかアルティメシア嬢は僕のこと疑っていたのですか? 心外だなぁ」
「貴方が真面目な態度なら――ってよく聞いていましたら、最初はハニートラップを仕掛ける気だったのではないですかっ! それにしても、リルアさんが反対されたのには何か理由があるのですか?」
私は疑問に思って質問しました。
「ああ、リルアちゃんは貴女にあこがれているのですよ。学生時代は貴女の文武両道さ加減がとてもカッコ良かったと言っておりました」
「私がカッコ良い――のですか?」
「ええ、とても……」
何だか釈然としませんが、リルアは信頼出来る気がしますし――。
「では、貴方は私を嵌めようとはしなかったのですね」
「まぁ、証拠は出せませんが、リルアちゃんに誓って」
「そこは神じゃないのですね」
「一応、悪魔の血が流れてますから――。そこの聖女ちゃんにも誓いましょうか?」
アレンデールはニヤリと笑いました。こういうところが信用なりません。
「あと、利害が一致するまでの共闘と言ってますが、例え、僕の目的が達成できなくても貴女の目的を完遂するための味方くらいにはなりますから――」
アレンデールの表情は柔らかくなりました。やさしく私を見ています。
「はぁ、その気もないのに適当なことを――」
「――僕は冗談は言いますけど、適当なことは言いませんよ。僕にとってリルアちゃんは一番大切な妹です。その妹が“大切なグレイス様”は僕にとっても大切な女性なのですよ。ご理解ください」
――大切な女性。この男が“人でなし”なのは承知していましたが、言葉一つで心が軽くなるのを感じました。
「なっ何を似合わないことを仰っているのですか? さっさと姿を変えて下さい。クラリスが起きたらどうするんですか?」
「おっと、これは失敬。そうですね。伝えたいことは伝えましたので、くれぐれも短気は控えて下さいよ。グレイスさん」
にこやかに笑いながらアレンデールはネズミに姿を変えました。
初めて私のファーストネームを――。まぁ、どうでもいいですけど……。
「言われなくとも、承知しています! 貴方こそ、大事なところでヘマしないで下さいね。貴方がずっと味方をするのは勝手ですけど、私は手助けしませんから」
「おやおや、相変わらず手厳しい」
アレンデールは楽しそうな声を出して去っていきました。
まったく、殿方を相手にここまで感情的になったのは初めてです。
本当に嫌な男です――。はぁ……。
11
お気に入りに追加
2,029
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!
奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。
その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる