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Ep12 作戦開始
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「なんと、慰謝料は要らぬと申すか……」
私の申告に皇王は意外そうな顔をしていました。
パーティーから一週間後の今日、私は約束通りアレクトロン城の謁見の間にて、皇王たちと面会しました。
もちろん、皇太子やクラリスも共にその場に居ます。彼らは見せつけるようにくっついて私を見ていました。
「慰謝料は要らぬと言うことは婚約破棄を拒否するという意味か?」
皇王から発せられた言葉からは静かな敵意が含まれていました。
やはり、一週間で完全に私は邪魔者という認識に変わっているようですね。
この反応は想定通りです。
「いいえ、皇太子殿下とクラリスさんの“真実の愛”の邪魔をするつもりは毛頭ございません。もちろん、喪失感が無いと言えば嘘になります。私としても幸せな結婚生活に憧れがなかった訳ではありませんから。しかし、喪失感は金銭では埋められないのです」
私は出来るだけ穏やかな口調を意識して本心でもない台詞をペラペラと話しました。
“憎しみの炎”は内に秘めなくては――。皇太子はともかく、クラリスは危険です。
少しでも私の“敵意”を悟られると悪役コースまっしぐらですから――。
「そっそうか。ふぅむ、金銭では埋められぬか。気持ちは分からんでもないが、それ以外の謝罪方法が皆目思いつかぬ。何かあるのなら、言ってみよ。出来るだけのことはしてやろう」
皇王は少しだけホッとした表情をしていました。
私がはっきりと邪魔をしないと申し上げたからでしょう。半分は事実ですからね。皇太子どの縁談にはもう興味がないのですから。
「ありがとうございます。こちらの要望は2つあります。一つはクラリスさんに対してです。クラリスさん、貴女さえよろしければ私の義妹になって頂けないでしょうか? 婚姻前にアルティメシア家の養子になって頂きたいのです――。それならば、我が家と王家に縁が残りますので私の面目も保てます」
私はクラリスの目をジッと見て微笑みました。
クラリスは突然の申し出に流石に驚いたのかオロオロしていました。
私もアレンデールに言われるまでこのようなことを考えてもいませんでした。
“聖女さんは便利なんで義妹にしちゃってください”
笑いながらとんでもない事を要求するアレンデールの策は確かに理に適っていました。
「ええーっと、でもぉあたしには両親がいまして。お店もありますので――」
クラリスは少し引き気味で答えました。
まぁ、彼女の性格的にそう答えますよね。皇太子に“悪女”だと吹き込まれて、そう“思い込んで”いるのですから――。
もうひと押し必要でしょう。
「大丈夫ですよ。貴女は今までどおりお店のことを切り盛りしたり、実のご両親と共に暮らしていただいても全く問題ありません。いや、私は姉妹が居ないので、クラリスさんみたいな可愛い妹が一緒に居れば嬉しいのですが――。とにかく、貴族の名前になれば、貴女と殿下の結婚に反対する意見は殆ど無くなるはずですので、円滑に事が進むと思います」
私は今度はクラリスだけでなく、皇王や皇太子に向けて話をしました。
「なるほど、確かにクラリスが養子とはいえ公爵令嬢になるわけだからな。ふーむ、グレイスは身を引くだけでなく息子とクラリスのことまで考えて発言するとは――。人間が出来ておるのぉ」
皇王は感心したような顔をしました。皇王としても心の底ではクラリスが“平民”ということに引っかかっていたのでしょう。
「いえ、お恥ずかしながら自分本位な意見です。クラリスさんが嫌がればこちらの要望は諦めましょう」
私はワザと一度引いてみました。
すると、予想通り皇太子が口を開きます。
「クラリス、グレイスの家は名家だ。そりゃあ、僕と結婚すれば皇太子妃になれるから身分としちゃあ最高になるけどさ。実家の位が高いと他国と交流したりするときに便利なんだ。僕は“グレイスの事を誤解していた。彼女は良い娘なんだ。きっと君の最高の義姉になる”よ」
皇太子は私を散々悪女扱いしたことも忘れて、私を褒めちぎりました。
褒めすぎて逆にイライラしましたが、思った以上に作戦が成功しましたので良しとしましょう。
なんせ、“最高の皇子様”の発言によって、クラリスによる私への認識が“最悪の女”から“最高の義姉”に変わったのですから。
クラリスは素直に皇太子の助言を聞いて首を縦に振りました。
これで作戦の第一段階は成功ですね――。
私の申告に皇王は意外そうな顔をしていました。
パーティーから一週間後の今日、私は約束通りアレクトロン城の謁見の間にて、皇王たちと面会しました。
もちろん、皇太子やクラリスも共にその場に居ます。彼らは見せつけるようにくっついて私を見ていました。
「慰謝料は要らぬと言うことは婚約破棄を拒否するという意味か?」
皇王から発せられた言葉からは静かな敵意が含まれていました。
やはり、一週間で完全に私は邪魔者という認識に変わっているようですね。
この反応は想定通りです。
「いいえ、皇太子殿下とクラリスさんの“真実の愛”の邪魔をするつもりは毛頭ございません。もちろん、喪失感が無いと言えば嘘になります。私としても幸せな結婚生活に憧れがなかった訳ではありませんから。しかし、喪失感は金銭では埋められないのです」
私は出来るだけ穏やかな口調を意識して本心でもない台詞をペラペラと話しました。
“憎しみの炎”は内に秘めなくては――。皇太子はともかく、クラリスは危険です。
少しでも私の“敵意”を悟られると悪役コースまっしぐらですから――。
「そっそうか。ふぅむ、金銭では埋められぬか。気持ちは分からんでもないが、それ以外の謝罪方法が皆目思いつかぬ。何かあるのなら、言ってみよ。出来るだけのことはしてやろう」
皇王は少しだけホッとした表情をしていました。
私がはっきりと邪魔をしないと申し上げたからでしょう。半分は事実ですからね。皇太子どの縁談にはもう興味がないのですから。
「ありがとうございます。こちらの要望は2つあります。一つはクラリスさんに対してです。クラリスさん、貴女さえよろしければ私の義妹になって頂けないでしょうか? 婚姻前にアルティメシア家の養子になって頂きたいのです――。それならば、我が家と王家に縁が残りますので私の面目も保てます」
私はクラリスの目をジッと見て微笑みました。
クラリスは突然の申し出に流石に驚いたのかオロオロしていました。
私もアレンデールに言われるまでこのようなことを考えてもいませんでした。
“聖女さんは便利なんで義妹にしちゃってください”
笑いながらとんでもない事を要求するアレンデールの策は確かに理に適っていました。
「ええーっと、でもぉあたしには両親がいまして。お店もありますので――」
クラリスは少し引き気味で答えました。
まぁ、彼女の性格的にそう答えますよね。皇太子に“悪女”だと吹き込まれて、そう“思い込んで”いるのですから――。
もうひと押し必要でしょう。
「大丈夫ですよ。貴女は今までどおりお店のことを切り盛りしたり、実のご両親と共に暮らしていただいても全く問題ありません。いや、私は姉妹が居ないので、クラリスさんみたいな可愛い妹が一緒に居れば嬉しいのですが――。とにかく、貴族の名前になれば、貴女と殿下の結婚に反対する意見は殆ど無くなるはずですので、円滑に事が進むと思います」
私は今度はクラリスだけでなく、皇王や皇太子に向けて話をしました。
「なるほど、確かにクラリスが養子とはいえ公爵令嬢になるわけだからな。ふーむ、グレイスは身を引くだけでなく息子とクラリスのことまで考えて発言するとは――。人間が出来ておるのぉ」
皇王は感心したような顔をしました。皇王としても心の底ではクラリスが“平民”ということに引っかかっていたのでしょう。
「いえ、お恥ずかしながら自分本位な意見です。クラリスさんが嫌がればこちらの要望は諦めましょう」
私はワザと一度引いてみました。
すると、予想通り皇太子が口を開きます。
「クラリス、グレイスの家は名家だ。そりゃあ、僕と結婚すれば皇太子妃になれるから身分としちゃあ最高になるけどさ。実家の位が高いと他国と交流したりするときに便利なんだ。僕は“グレイスの事を誤解していた。彼女は良い娘なんだ。きっと君の最高の義姉になる”よ」
皇太子は私を散々悪女扱いしたことも忘れて、私を褒めちぎりました。
褒めすぎて逆にイライラしましたが、思った以上に作戦が成功しましたので良しとしましょう。
なんせ、“最高の皇子様”の発言によって、クラリスによる私への認識が“最悪の女”から“最高の義姉”に変わったのですから。
クラリスは素直に皇太子の助言を聞いて首を縦に振りました。
これで作戦の第一段階は成功ですね――。
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