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Ep8 選択の刻
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日を追うごとに私の状況が悪くなる――。
わかっていますよ……、それぐらいは……。
何しろ、パーティー会場で皇王自ら私に対して息子との婚約破棄を迫ってきたのですから、こんなゴシップが噂にならないはずがありません。
当然、間もなくして両親の耳にも入りますでしょうし、そうなれば一週間という猶予もアテにならないかもしれません。
「だんまりということは、自覚していらっしゃるみたいですねぇ。もはや、皇太子殿下が貴女を嵌めようとした証拠もなくなった。つまり、アドバンテージはゼロどころかマイナス。皇王は慰謝料を払ってでも貴女と皇太子の婚約破棄を望んでいる。貴女の選択肢は保身を優先して身を引くか、もしくは戦うかの2択です。まさか、あの皇太子殿下とやり直したいとは――」
「それだけはあり得ません! はっ……」
私は思いの外、大きな声が出てしまって驚いてしまいました。
「意外と素直じゃあないですか。可愛いらしいと思いますよ、貴女のそういうところ……」
アレンデールはニコリと微笑みながらそんな、戯言のようなことを言いました。
そんなこと言われても、全然嬉しくありませんけど……。
「では、保留にはしましたが、お金を受け取って身を引きますか? そうすれば、アルティメシア家はそれなりに安全。まぁ、皇太子殿下は喜々として聖女さんと結婚し、数年後には皇王になり、みんな幸せになりますよ。貴女以外はねぇ」
くっ、人の心の痛いところを的確に突きますね……。そう、私さえ我慢すればあるいは――。
しかし、抗いたい、戦いたい、正直に生きたい……。
もう、自分に嘘をつくのは――嫌なんです!
「私は戦うつもりです。しかし、私は貴方もあまり好きにはなれませんし、信用も出来ません」
私はアレンデールをジッと見据えてはっきりと声に出しました。
「エクセレントですよ、お嬢様。その視線は非常に唆るものがあります。元より信用なんてしてもらうつもりはありません。お互いに利用し合う……、利害関係一致する内は共闘しませんか? と、紳士的に提案しているのです」
アレンデールは真顔になって私を引き入れようとします。
なぜ、この方はそうまでして私を……。確かに一人で戦うのは苦しいです。しかし……。
「セリスを昏倒させて紳士的が聞いて呆れます。全然目を覚まさないじゃないですか!」
私がもっとも頭にきているのはこの点です。
眠らせただけとは言っていましたが、あまりにも乱暴ではないですか。
「おや、これは失礼しました。僕の睡眠魔法は象だって3時間は良い夢をぐっすり見て眠れる代物でして、体に悪い影響は一切ありません。寧ろですね――、痛っ、何をするんです? リルアちゃん――」
「アレンっ、もういいだろ? アホなこと言ってグレイス様を困らせるな。やっぱりさ、私ら二人でやろうよ。グレイス様、ごめんなさい。私達の問題に巻き込もうとして――。どうしても、セイファー家だけじゃ皇王に近づけなかったので、貴女を利用しようとしました――。グレイス様が身を引いても私達が必ず……」
「リルアちゃん、止めなさい。僕らの計画にアルティメシア家令嬢の協力は不可欠です。勝手な言動は許しません」
アレンデールとリルアが言い争いを始めました。
計画? 利用? アレンデールは一体何を企んでいるのでしょうか?
「で、どうすんのさ、お嬢。セイファー家の坊っちゃんと一緒に皇王の一族と戦うのかい?」
セリスが私に尋ねました。
――あれ? セリス? ええーっ!
「せっセリス。貴女、起きていたの? いっいつから?」
私は突然話しかけてきたセリスに驚きました。
だって、象でも3時間はって、アレンデールが……。
「あー、あの坊ちゃんが皇国の裏の歴史とか言ってる辺りだ。あいつが喜々として語っているから狸寝入り決め込んだってわけだ。そしたら、お嬢の状況がまさかの状況ってこともわかったからな……」
セリスは腕を組んで説明した。ほとんど最初の方から起きてるじゃないですかっ! 心配した私が馬鹿みたいです。
そして、アレンデールとリルアも目が点になってセリスを見ていました。
「はぁ? 僕の睡眠魔法をまともに受けて、なんで起きることが出来るのですか? 人間なら普通、たとえパーティーのど真ん中だとしても10時間は目が覚めないはずですっ!」
「アレン、あんた大丈夫? 魔法力、鈍ったんじゃない?」
アレンデールは声を震わせてセリスを指差しました。彼が動揺を見せたのは初めてですから、少しだけ私は愉快な気持ちになりました。
「んなもん気合に決ってる。それでも、1分以上意識を失ってたんだ。戦場なら10回は死んでいるな。屈辱だ――」
セリスは右腕を曲げて力こぶを強調しました。
彼女は幼いときから傭兵として生計を立てていたらしく、両親は私の護衛にピッタリと言うことで侍女としてスカウトしたのです。
両親は非常に一人娘の私を心配しており、侍女や執事の条件にまず“強さ”を求めており、アルティメシア家の使用人は屈強な人間が多いことが特徴です。
“常在戦場”――これが彼女の座右の銘で、セリスは我が家で最も強い侍女なのです。
だから、彼女が昏倒させられたのに、私は物凄く驚いたのです。半分、狸寝入りみたいでしたが……。
「お嬢、ウチはお嬢のやりたいようにやって欲しい。そこの道化みたいな坊ちゃんを利用するのも良いだろう。もし、お嬢の害になりそうになったら、ウチがあいつを粉々にしてやる――」
セリスは鋭い視線をアレンデールに送りながら私に助言しました。
やはり、セリスは頼りになりますし、勇気が出てきます。
「怖いですねぇ。聞かれてしまったのは僕の不覚ですから何も言いません。――もう一度、質問します。別に馴れ合おうってわけじゃあないです。僕らの仲間になって頂けませんか?」
アレンデールは静かに、力強く私に問いました。
――私は、ゆっくりと頷きました。
わかっていますよ……、それぐらいは……。
何しろ、パーティー会場で皇王自ら私に対して息子との婚約破棄を迫ってきたのですから、こんなゴシップが噂にならないはずがありません。
当然、間もなくして両親の耳にも入りますでしょうし、そうなれば一週間という猶予もアテにならないかもしれません。
「だんまりということは、自覚していらっしゃるみたいですねぇ。もはや、皇太子殿下が貴女を嵌めようとした証拠もなくなった。つまり、アドバンテージはゼロどころかマイナス。皇王は慰謝料を払ってでも貴女と皇太子の婚約破棄を望んでいる。貴女の選択肢は保身を優先して身を引くか、もしくは戦うかの2択です。まさか、あの皇太子殿下とやり直したいとは――」
「それだけはあり得ません! はっ……」
私は思いの外、大きな声が出てしまって驚いてしまいました。
「意外と素直じゃあないですか。可愛いらしいと思いますよ、貴女のそういうところ……」
アレンデールはニコリと微笑みながらそんな、戯言のようなことを言いました。
そんなこと言われても、全然嬉しくありませんけど……。
「では、保留にはしましたが、お金を受け取って身を引きますか? そうすれば、アルティメシア家はそれなりに安全。まぁ、皇太子殿下は喜々として聖女さんと結婚し、数年後には皇王になり、みんな幸せになりますよ。貴女以外はねぇ」
くっ、人の心の痛いところを的確に突きますね……。そう、私さえ我慢すればあるいは――。
しかし、抗いたい、戦いたい、正直に生きたい……。
もう、自分に嘘をつくのは――嫌なんです!
「私は戦うつもりです。しかし、私は貴方もあまり好きにはなれませんし、信用も出来ません」
私はアレンデールをジッと見据えてはっきりと声に出しました。
「エクセレントですよ、お嬢様。その視線は非常に唆るものがあります。元より信用なんてしてもらうつもりはありません。お互いに利用し合う……、利害関係一致する内は共闘しませんか? と、紳士的に提案しているのです」
アレンデールは真顔になって私を引き入れようとします。
なぜ、この方はそうまでして私を……。確かに一人で戦うのは苦しいです。しかし……。
「セリスを昏倒させて紳士的が聞いて呆れます。全然目を覚まさないじゃないですか!」
私がもっとも頭にきているのはこの点です。
眠らせただけとは言っていましたが、あまりにも乱暴ではないですか。
「おや、これは失礼しました。僕の睡眠魔法は象だって3時間は良い夢をぐっすり見て眠れる代物でして、体に悪い影響は一切ありません。寧ろですね――、痛っ、何をするんです? リルアちゃん――」
「アレンっ、もういいだろ? アホなこと言ってグレイス様を困らせるな。やっぱりさ、私ら二人でやろうよ。グレイス様、ごめんなさい。私達の問題に巻き込もうとして――。どうしても、セイファー家だけじゃ皇王に近づけなかったので、貴女を利用しようとしました――。グレイス様が身を引いても私達が必ず……」
「リルアちゃん、止めなさい。僕らの計画にアルティメシア家令嬢の協力は不可欠です。勝手な言動は許しません」
アレンデールとリルアが言い争いを始めました。
計画? 利用? アレンデールは一体何を企んでいるのでしょうか?
「で、どうすんのさ、お嬢。セイファー家の坊っちゃんと一緒に皇王の一族と戦うのかい?」
セリスが私に尋ねました。
――あれ? セリス? ええーっ!
「せっセリス。貴女、起きていたの? いっいつから?」
私は突然話しかけてきたセリスに驚きました。
だって、象でも3時間はって、アレンデールが……。
「あー、あの坊ちゃんが皇国の裏の歴史とか言ってる辺りだ。あいつが喜々として語っているから狸寝入り決め込んだってわけだ。そしたら、お嬢の状況がまさかの状況ってこともわかったからな……」
セリスは腕を組んで説明した。ほとんど最初の方から起きてるじゃないですかっ! 心配した私が馬鹿みたいです。
そして、アレンデールとリルアも目が点になってセリスを見ていました。
「はぁ? 僕の睡眠魔法をまともに受けて、なんで起きることが出来るのですか? 人間なら普通、たとえパーティーのど真ん中だとしても10時間は目が覚めないはずですっ!」
「アレン、あんた大丈夫? 魔法力、鈍ったんじゃない?」
アレンデールは声を震わせてセリスを指差しました。彼が動揺を見せたのは初めてですから、少しだけ私は愉快な気持ちになりました。
「んなもん気合に決ってる。それでも、1分以上意識を失ってたんだ。戦場なら10回は死んでいるな。屈辱だ――」
セリスは右腕を曲げて力こぶを強調しました。
彼女は幼いときから傭兵として生計を立てていたらしく、両親は私の護衛にピッタリと言うことで侍女としてスカウトしたのです。
両親は非常に一人娘の私を心配しており、侍女や執事の条件にまず“強さ”を求めており、アルティメシア家の使用人は屈強な人間が多いことが特徴です。
“常在戦場”――これが彼女の座右の銘で、セリスは我が家で最も強い侍女なのです。
だから、彼女が昏倒させられたのに、私は物凄く驚いたのです。半分、狸寝入りみたいでしたが……。
「お嬢、ウチはお嬢のやりたいようにやって欲しい。そこの道化みたいな坊ちゃんを利用するのも良いだろう。もし、お嬢の害になりそうになったら、ウチがあいつを粉々にしてやる――」
セリスは鋭い視線をアレンデールに送りながら私に助言しました。
やはり、セリスは頼りになりますし、勇気が出てきます。
「怖いですねぇ。聞かれてしまったのは僕の不覚ですから何も言いません。――もう一度、質問します。別に馴れ合おうってわけじゃあないです。僕らの仲間になって頂けませんか?」
アレンデールは静かに、力強く私に問いました。
――私は、ゆっくりと頷きました。
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