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Ep2 心の中で燃える炎
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城を出てからの道中、私はとうとう涙が出てしまいました。
打たれて痛かったからではありません。公爵家に生を受けてからというもの、私は家のために文武両道の弛まぬ努力を強制されていたのです。
全ては良い縁談を手に入れるため――。
私には兄弟はいません。だからこそ、家を守るために自分を殺して必死にここまで来たのです。
それを――、あの男、皇太子は――踏みにじった。
人間ですから愛情が他に行ってしまうというのは仕方ないと理解出来ます。
しかし、誠意と順番を守ることは人として大事なことです。
私とて、もし皇太子様がきちんと誠意を持って謝罪してから次に進むのであればまだ納得することが出来たのです。
だからこそ、先程の態度は許せない。「お前が身を引けば皆が幸せ」という謎の理論を振りかざされ、最後まで謝罪の言葉どころか被害者面をしている彼のことが――。
『君のような悪女には制裁が必要だな!』
この台詞を吐いた時のあの男の顔が忘れられません。何度目かのフラッシュバック時に私は吐き気を催しました。
「ダメですね、私は強くならなくては――。涙なんて流していたらこれから戦えないじゃないですか――」
私は心の中で炎を燃やし、こみ上げてくる涙や悔しさを灰にしてしまおうと必死に努力しました。
――そう、彼が私を「強い女」と仰るのなら……。望み通りになってあげましょう。
そしてこの心に宿る炎ですべてを燃やし尽くして差し上げます。
これを“昇華”と言うのか、正しい言葉が思い浮かびませんが、決意を更に固めた瞬間に頭の中は驚くほど冷え切って、心の中は焼け爛れるほど熱く煮えたぎっていることを実感できました。
ただ一つ言えることは、“涙”はもう流れない。
私が“敵”と認識した“あの男”が灰になるまで――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから1ヶ月間は表面上何事もなく平穏な日々が過ぎ去りました。
両親も何も知らないようですし、周りの人間も私に対して皇太子の婚約者として接してきています。
しかし、結婚式まではあと2週間……。そろそろ仕掛けてくるはず――。
私は警戒を怠らずに身構えていました。
今日は皇王陛下の誕生パーティーです。当然、皇太子の婚約者たる私は出席しています。
皇太子の姿は見えませんね――。どこに居るのでしょうか?
何かが起きそうな予感――、私は漠然とそれを感じていました。
そして予感は的中しました。パーティー会場のドアが突然乱暴に開かれ、皇太子とお人形のように造形の整った可愛らしい女が入ってきたのです。
あの女は――、間違いない。巷で【聖女】もしくは、【女神の化身】として信仰に近いくらいの人気のある美少女、クラリス=フリージアです。
ああ、これはあの男が好みそうな容姿ですね。透き通るように白い肌にキレイな長い金髪。
痩せ型で弱々しく見えるのにスタイルは良い。
男たちの理想で作り上げられたような奇跡の様な女性です。
残念ながら私などよりはよっぽど魅力的だと言わざる得ません。
さて、彼女を連れてきたということは何かアクションを起こすのでしょう。
あの男が1ヶ月の間、知恵を絞った策謀とやらには些か興味があります。
私はそのような奇妙な好奇心にもとらわれながら展開を黙って見守っていました。
「ここにいる皆様にご報告申し上げたい! 僕はそこにいるグレイスとの婚約を破棄し、こちらのクラリスとの婚約を発表する!」
皇太子のストレートすぎる阿呆な発言に私は思わず耳を疑いました。
まさか――。無策な訳がありませんよね?
私は堂々とキメ顔をしている皇太子の顔を見て必死にため息を堪えていました。
しかし、流石に彼もそこまで馬鹿ではありませんでした――。乏しい知恵を絞り、私を悪女に仕立て上げる準備をしていたのです。
打たれて痛かったからではありません。公爵家に生を受けてからというもの、私は家のために文武両道の弛まぬ努力を強制されていたのです。
全ては良い縁談を手に入れるため――。
私には兄弟はいません。だからこそ、家を守るために自分を殺して必死にここまで来たのです。
それを――、あの男、皇太子は――踏みにじった。
人間ですから愛情が他に行ってしまうというのは仕方ないと理解出来ます。
しかし、誠意と順番を守ることは人として大事なことです。
私とて、もし皇太子様がきちんと誠意を持って謝罪してから次に進むのであればまだ納得することが出来たのです。
だからこそ、先程の態度は許せない。「お前が身を引けば皆が幸せ」という謎の理論を振りかざされ、最後まで謝罪の言葉どころか被害者面をしている彼のことが――。
『君のような悪女には制裁が必要だな!』
この台詞を吐いた時のあの男の顔が忘れられません。何度目かのフラッシュバック時に私は吐き気を催しました。
「ダメですね、私は強くならなくては――。涙なんて流していたらこれから戦えないじゃないですか――」
私は心の中で炎を燃やし、こみ上げてくる涙や悔しさを灰にしてしまおうと必死に努力しました。
――そう、彼が私を「強い女」と仰るのなら……。望み通りになってあげましょう。
そしてこの心に宿る炎ですべてを燃やし尽くして差し上げます。
これを“昇華”と言うのか、正しい言葉が思い浮かびませんが、決意を更に固めた瞬間に頭の中は驚くほど冷え切って、心の中は焼け爛れるほど熱く煮えたぎっていることを実感できました。
ただ一つ言えることは、“涙”はもう流れない。
私が“敵”と認識した“あの男”が灰になるまで――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから1ヶ月間は表面上何事もなく平穏な日々が過ぎ去りました。
両親も何も知らないようですし、周りの人間も私に対して皇太子の婚約者として接してきています。
しかし、結婚式まではあと2週間……。そろそろ仕掛けてくるはず――。
私は警戒を怠らずに身構えていました。
今日は皇王陛下の誕生パーティーです。当然、皇太子の婚約者たる私は出席しています。
皇太子の姿は見えませんね――。どこに居るのでしょうか?
何かが起きそうな予感――、私は漠然とそれを感じていました。
そして予感は的中しました。パーティー会場のドアが突然乱暴に開かれ、皇太子とお人形のように造形の整った可愛らしい女が入ってきたのです。
あの女は――、間違いない。巷で【聖女】もしくは、【女神の化身】として信仰に近いくらいの人気のある美少女、クラリス=フリージアです。
ああ、これはあの男が好みそうな容姿ですね。透き通るように白い肌にキレイな長い金髪。
痩せ型で弱々しく見えるのにスタイルは良い。
男たちの理想で作り上げられたような奇跡の様な女性です。
残念ながら私などよりはよっぽど魅力的だと言わざる得ません。
さて、彼女を連れてきたということは何かアクションを起こすのでしょう。
あの男が1ヶ月の間、知恵を絞った策謀とやらには些か興味があります。
私はそのような奇妙な好奇心にもとらわれながら展開を黙って見守っていました。
「ここにいる皆様にご報告申し上げたい! 僕はそこにいるグレイスとの婚約を破棄し、こちらのクラリスとの婚約を発表する!」
皇太子のストレートすぎる阿呆な発言に私は思わず耳を疑いました。
まさか――。無策な訳がありませんよね?
私は堂々とキメ顔をしている皇太子の顔を見て必死にため息を堪えていました。
しかし、流石に彼もそこまで馬鹿ではありませんでした――。乏しい知恵を絞り、私を悪女に仕立て上げる準備をしていたのです。
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