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Ep1 真実の愛ですか?
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「はぁ、真実の愛ですかぁ――」
私は婚約者であるグラインシュバイツ皇太子殿下に突然呼び出されたかと思えば小一時間ほど他の女との惚気話を聞かされました。
挙げ句、最後の一言が「これは真実の愛だ」という薄っぺらい謳い文句にため息を隠すことが出来ません。
申し遅れました。私はグレイス=アルティメシア、アレクトロン皇国の公爵令嬢という堅苦しい肩書きがあります。
親同士の決定に私としても抗うべくもなく「仕方ない」で飲み込んだ婚約なのにも関わらず、この男の頭の中はアツアツのアップルパイよりも甘ったるいらしい。
平民の中で【聖女】、【奇跡の人】、【女神の化身】と呼ばれている、簡単に言っちゃえば【凄い美人】に惚れちゃったらしく、婚約中の身にも関わらず不貞を働いたとのことである。
しかし、甘ったるい。そういうことはもっと隠れてやれと言いたいです。
わざわざ不貞の事実を自白するなんて脳みそがお花畑なのかと――。
「殿下の仰ることは、わかりました。それで火急の用件というのはどのようなことなのでしょうか?」
私は頭痛に耐えながら皇太子様に質問をしました。
すると、皇太子様は少しだけ驚いた顔をして、「察しが悪いな」という目つきしています。
「だからさ、僕としてはだなぁ。彼女と一緒になりたいんだよ。君じゃなくてね」
「それは、話の流れでわかってます。しかし、それは殿下の都合ですよね? 婚約している身で不貞を働いている時点で殿下の有責は確定しているのです。有責側から婚約破棄することは出来ないんですよ。この国の法律では。もちろんご存知だと思いますけど――」
私はごくごく一般論を口にしました。まさか、一国を担う未来を持つ男がこの程度の知識も持ち合わせていないはずがないと思っていたのですが……。
「へっ、ゆっ有責? ぼっ僕が? 何をわからぬことを……。というか、君みたいな頭が良くてなんでもできる強い子に僕みたいなのはいらないだろ? 彼女はこう、守ってあげなきゃいけない女性なんだ――。君とは違ってね。なぁ、君が身を引いてくれたら皆が幸せになるんだよ。お願いだから難しい話はやめて僕と別れてくれ」
皇太子様は両手を合わせてウィンクしました。そんなことしても格好良くないですからね。
いや、私だって弱いですよ。だから貴方のような方との婚約だって素直に受け入れたのではないですか。
自由に恋愛して幸せな結婚をできるくらいの我の強さがあればどんなに良かったかわかりません。
「とにかくです。このお話は殿下と私だけの問題ではないのですよ。いいですか、結婚というのは家と家の問題なのです。どうしても【真実の愛】とやらを貫きたいのでしたら、まずは皇王陛下に話をされてみてはいかがでしょう。皇王陛下はきっと教えて下さいますよ、責任の取り方――」
私がそこまで話したところで、皇太子様の平手が私の頬に飛んできました。
「――っ」
「君は悪女だな。僕たちの愛の障害になる酷い女だ。出ていくがいい! もう君のような女の顔を見るのは耐えられない」
皇太子様は顔を真っ赤にして怒鳴り散らしました。
「話が通じないだけでなく暴力に訴えますか――」
私はヒリヒリする頬を擦りながら、皇太子様を睨みました。
「なんだ、その目は? 僕はこの国の皇太子だぞ! お前ごときをこの国に居られなくすることなんて簡単なんだ。せっかく紳士的に対応してやろうと思ったのに――。君のような悪女には制裁が必要だな! 即刻、城を立ち去りたまえ!」
皇太子はさらに顔を赤くして血走った目で私を睨み、部屋を出るように促しました。
悪女ときましたか。ですが、彼の中では私は本当に二人の愛を邪魔する悪役に見えるのでしょう。
制裁――。そうですね、この状況でどちらが制裁を受ける立場なのか教えてあげても良いかもしれません。
それくらいはしてあげましょう。婚約者に対する最後の情として――。
私は婚約者であるグラインシュバイツ皇太子殿下に突然呼び出されたかと思えば小一時間ほど他の女との惚気話を聞かされました。
挙げ句、最後の一言が「これは真実の愛だ」という薄っぺらい謳い文句にため息を隠すことが出来ません。
申し遅れました。私はグレイス=アルティメシア、アレクトロン皇国の公爵令嬢という堅苦しい肩書きがあります。
親同士の決定に私としても抗うべくもなく「仕方ない」で飲み込んだ婚約なのにも関わらず、この男の頭の中はアツアツのアップルパイよりも甘ったるいらしい。
平民の中で【聖女】、【奇跡の人】、【女神の化身】と呼ばれている、簡単に言っちゃえば【凄い美人】に惚れちゃったらしく、婚約中の身にも関わらず不貞を働いたとのことである。
しかし、甘ったるい。そういうことはもっと隠れてやれと言いたいです。
わざわざ不貞の事実を自白するなんて脳みそがお花畑なのかと――。
「殿下の仰ることは、わかりました。それで火急の用件というのはどのようなことなのでしょうか?」
私は頭痛に耐えながら皇太子様に質問をしました。
すると、皇太子様は少しだけ驚いた顔をして、「察しが悪いな」という目つきしています。
「だからさ、僕としてはだなぁ。彼女と一緒になりたいんだよ。君じゃなくてね」
「それは、話の流れでわかってます。しかし、それは殿下の都合ですよね? 婚約している身で不貞を働いている時点で殿下の有責は確定しているのです。有責側から婚約破棄することは出来ないんですよ。この国の法律では。もちろんご存知だと思いますけど――」
私はごくごく一般論を口にしました。まさか、一国を担う未来を持つ男がこの程度の知識も持ち合わせていないはずがないと思っていたのですが……。
「へっ、ゆっ有責? ぼっ僕が? 何をわからぬことを……。というか、君みたいな頭が良くてなんでもできる強い子に僕みたいなのはいらないだろ? 彼女はこう、守ってあげなきゃいけない女性なんだ――。君とは違ってね。なぁ、君が身を引いてくれたら皆が幸せになるんだよ。お願いだから難しい話はやめて僕と別れてくれ」
皇太子様は両手を合わせてウィンクしました。そんなことしても格好良くないですからね。
いや、私だって弱いですよ。だから貴方のような方との婚約だって素直に受け入れたのではないですか。
自由に恋愛して幸せな結婚をできるくらいの我の強さがあればどんなに良かったかわかりません。
「とにかくです。このお話は殿下と私だけの問題ではないのですよ。いいですか、結婚というのは家と家の問題なのです。どうしても【真実の愛】とやらを貫きたいのでしたら、まずは皇王陛下に話をされてみてはいかがでしょう。皇王陛下はきっと教えて下さいますよ、責任の取り方――」
私がそこまで話したところで、皇太子様の平手が私の頬に飛んできました。
「――っ」
「君は悪女だな。僕たちの愛の障害になる酷い女だ。出ていくがいい! もう君のような女の顔を見るのは耐えられない」
皇太子様は顔を真っ赤にして怒鳴り散らしました。
「話が通じないだけでなく暴力に訴えますか――」
私はヒリヒリする頬を擦りながら、皇太子様を睨みました。
「なんだ、その目は? 僕はこの国の皇太子だぞ! お前ごときをこの国に居られなくすることなんて簡単なんだ。せっかく紳士的に対応してやろうと思ったのに――。君のような悪女には制裁が必要だな! 即刻、城を立ち去りたまえ!」
皇太子はさらに顔を赤くして血走った目で私を睨み、部屋を出るように促しました。
悪女ときましたか。ですが、彼の中では私は本当に二人の愛を邪魔する悪役に見えるのでしょう。
制裁――。そうですね、この状況でどちらが制裁を受ける立場なのか教えてあげても良いかもしれません。
それくらいはしてあげましょう。婚約者に対する最後の情として――。
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