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第三十七話
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明日にはもう結婚式。
この国は妻になる女性を迎えたらすぐに婚姻の儀式を開始するということは知っていましたが、当事者になると何とも慌ただしくも感じてしまいます。
幸い、国王陛下も王妃陛下も私がアルフレート殿下の妻になることを歓迎してくださいましたので、これからの生活には不安はありません。
ただ、不安といえば――。
「いや~~、シャルロット! さすがはワシの娘だ! お前が立派になって本当に良かった! だからアーゼル家のことをくれぐれも頼むぞ! 跡取りは甥のベンジャミンを養子にする予定だが、それもアーゼル家の安寧があってこそだからな!」
アルフレート殿下は嫌がったのですが、両陛下に促されて私の両親にも結婚式の招待状を送りました。
ミリムに送って、両親に送らないというのも変な話になりますから……。
父は今までに見たこともないくらい腰が低くなり、娘の私にペコペコと頭を下げています。
憔悴しきった表情で目に隈が出来ているのは、おそらくミリムが結婚式に出席するからでしょう。
あの子が何かを起こしてしまったら、親である父は責任を追及されますから――。
「で、ミリムはもう来たのか?」
「いえ、まだですけど。お父様たちと一緒ではないのですか?」
「ああ、エルムハルト殿が修道院に迎えに行ったことは聞いているが。まったく、何を考えているのやら」
ミリムはエルムハルト様と共に結婚式に出席するとは聞いていましたが、どうやら両親とは合流していないみたいです。
エルムハルト様はミリムを自分の思いどおりになるように再教育すると述べていましたが、修道院に迎えに行ってこちらに向かったとして数日程度――父も不安でしょうが私も不安です。
「で、では、ワシらは帰る。くれぐれも殿下によろしく頼む」
父は私に何度も頭を下げてアルビニア王都にある宿泊施設へと戻って行かれました。
今日も眠れないのでしょうね。私は何とか眠らなくては。
やはり、睡眠不足では王太子の花嫁は務まりませんから。
リラックスして、心を落ち着けましょう。
「シャルロット、すまないがもう一組客が来た。こちらは僕も不安だから、共に会おう。君の妹と、エルムハルトくんがこちらに着いたらしい。随分とギリギリの到着だが」
夜になると、ようやくミリムとエルムハルト様が着いたとアルフレート様が仰せになりました。
今日はもう来ないと思っていましたけど――。
とにかく、ミリムの様子を見に行きましょう――。
◆ ◆ ◆
「先日はどうも失礼しました。特にアルフレート殿下の機嫌を損ねてしまったみたいで。改めて、ご結婚おめでとうございます」
「…………」
ニコニコと微笑みながら頭を下げるエルムハルト様の隣には大きな黒い仮面で顔を隠している黒髪の女性が座っていました。
ミリム……? それにしては、髪にツヤがないような……。人一倍、髪のケアには気を遣っていたのに。
「それで、エルムハルトくん。そろそろ、隣にいる仮面の女性について説明をして欲しいのだが」
「えっ? あ、はい。そうですよね。彼女はミリムさんですよ。ちょっと蜂に何箇所も顔を刺されてしまって、顔を晒せる状態ではありませんので、仮面をして出席させようとおもっているのですが……」
顔を蜂に刺されたですって?
いやいや、何をしていたらそうなるのですか? まさか、エルムハルト様がミリムを躾けるとして、虐待まがいのことを――。
「仮面で出席って……。そんなことより医者に診せるべきだろう。医者の手配ならすぐに出来るが……」
「いや、医者は大丈夫です。もう、治療は済みましたから。そうですよね? ミリム……」
「…………」
仮面をつけたミリムはコクンと頷いて、エルムハルトの言葉を肯定します。
そういえば、彼女は先程から一言も喋っていません。
どうも様子が変です――。
この国は妻になる女性を迎えたらすぐに婚姻の儀式を開始するということは知っていましたが、当事者になると何とも慌ただしくも感じてしまいます。
幸い、国王陛下も王妃陛下も私がアルフレート殿下の妻になることを歓迎してくださいましたので、これからの生活には不安はありません。
ただ、不安といえば――。
「いや~~、シャルロット! さすがはワシの娘だ! お前が立派になって本当に良かった! だからアーゼル家のことをくれぐれも頼むぞ! 跡取りは甥のベンジャミンを養子にする予定だが、それもアーゼル家の安寧があってこそだからな!」
アルフレート殿下は嫌がったのですが、両陛下に促されて私の両親にも結婚式の招待状を送りました。
ミリムに送って、両親に送らないというのも変な話になりますから……。
父は今までに見たこともないくらい腰が低くなり、娘の私にペコペコと頭を下げています。
憔悴しきった表情で目に隈が出来ているのは、おそらくミリムが結婚式に出席するからでしょう。
あの子が何かを起こしてしまったら、親である父は責任を追及されますから――。
「で、ミリムはもう来たのか?」
「いえ、まだですけど。お父様たちと一緒ではないのですか?」
「ああ、エルムハルト殿が修道院に迎えに行ったことは聞いているが。まったく、何を考えているのやら」
ミリムはエルムハルト様と共に結婚式に出席するとは聞いていましたが、どうやら両親とは合流していないみたいです。
エルムハルト様はミリムを自分の思いどおりになるように再教育すると述べていましたが、修道院に迎えに行ってこちらに向かったとして数日程度――父も不安でしょうが私も不安です。
「で、では、ワシらは帰る。くれぐれも殿下によろしく頼む」
父は私に何度も頭を下げてアルビニア王都にある宿泊施設へと戻って行かれました。
今日も眠れないのでしょうね。私は何とか眠らなくては。
やはり、睡眠不足では王太子の花嫁は務まりませんから。
リラックスして、心を落ち着けましょう。
「シャルロット、すまないがもう一組客が来た。こちらは僕も不安だから、共に会おう。君の妹と、エルムハルトくんがこちらに着いたらしい。随分とギリギリの到着だが」
夜になると、ようやくミリムとエルムハルト様が着いたとアルフレート様が仰せになりました。
今日はもう来ないと思っていましたけど――。
とにかく、ミリムの様子を見に行きましょう――。
◆ ◆ ◆
「先日はどうも失礼しました。特にアルフレート殿下の機嫌を損ねてしまったみたいで。改めて、ご結婚おめでとうございます」
「…………」
ニコニコと微笑みながら頭を下げるエルムハルト様の隣には大きな黒い仮面で顔を隠している黒髪の女性が座っていました。
ミリム……? それにしては、髪にツヤがないような……。人一倍、髪のケアには気を遣っていたのに。
「それで、エルムハルトくん。そろそろ、隣にいる仮面の女性について説明をして欲しいのだが」
「えっ? あ、はい。そうですよね。彼女はミリムさんですよ。ちょっと蜂に何箇所も顔を刺されてしまって、顔を晒せる状態ではありませんので、仮面をして出席させようとおもっているのですが……」
顔を蜂に刺されたですって?
いやいや、何をしていたらそうなるのですか? まさか、エルムハルト様がミリムを躾けるとして、虐待まがいのことを――。
「仮面で出席って……。そんなことより医者に診せるべきだろう。医者の手配ならすぐに出来るが……」
「いや、医者は大丈夫です。もう、治療は済みましたから。そうですよね? ミリム……」
「…………」
仮面をつけたミリムはコクンと頷いて、エルムハルトの言葉を肯定します。
そういえば、彼女は先程から一言も喋っていません。
どうも様子が変です――。
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