【完結】妹が我儘すぎると元婚約者が土下座して復縁を求めてきた

冬月光輝

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第十一話

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「や、やぁ! よく来てくれたな。それに今日見て思ったがアリアも美人なんだな。なはは、気づかなかったよ」

 媚びるような目つきで、私の前に立っているのはゲイツ様。
 侯爵家の嫡男で、裕福な彼は血色が良くてふくよかな体型をしていたのだが、今日見た彼は顔色が悪くてやつれていた。

「ゲイツ様、妹がやはりあなたをここまで……」
「君の妹は我儘すぎる! もう気が狂いそうなんだよ! 頼む! 僕とよりを戻してくれ!」

 私がゲイツ様に声をかけると彼は物凄いスピードできれいな土下座をした。
 そして、叫びにも近い声を出しながら復縁をせがむ。
 よほど、ミラにされた仕打ちが酷かったのだろう。恥も外聞も捨てて、地べたに頭を擦りつけて、彼は私に頭を下げ続けた。

「ああ、僕が悪かった! 僕はゴミ虫だ! こうやって、地面を這うことしか出来ないクズ虫なんだよ! でも、でも、でも、助けてもらえないだろうか! この蛆虫みたいに惨めな僕をどうか救ってくれぇぇぇ!」

「あのう、顔を上げてください。ゲイツ様は虫ではありませんから」

「いやいや、僕は虫だよ! 虫以外の何物でもない! 芋虫男を助けてくれ!」

 すっごく、虫を連呼するようになってしまったゲイツ様。
 ミラに人格否定され続けて完全に壊れてしまっている。
 何だか、可哀想になってきた。この人はこれからマトモに生活することが出来るのだろうか。

「僕はこのとおり、物凄く反省している! だから、アリア! 僕ともう一度――」
「アリアは君と復縁はしない。顔を上げたまえ、ゲイツくん」
「はぁ……!?」

 そう。ゲイツ様は何故か私の傍らにずっといたジェノス様に全く気付かずに土下座していた。
 どうやら、彼はとんでもなく視野が狭くなっていたみたいである。

 ようやく、顔を上げたゲイツ様は鼻水を垂らしながら呆然としていた。

「自己紹介が遅れた。私はジェノス・ローゼンクランツ。アリアの婚約者だ」

「じぇ、じぇ、ジェノス・ローゼンクランツ? ローゼンクランツ公爵家の長男の……!? あ、あんた、死んだんじゃ……」

 幽霊でも見た顔になっているゲイツ様は、ジェノス様の名前を口にする。
 結構大きく、亡くなったという知らせが国中に伝えられたから彼のリアクションは妥当だけど……。

「幸運にも生きていたんだ。そして、もっと幸運にもアリアと婚約することが出来た」

 私の肩を抱いて、婚約したことを再びアピールするジェノス様。
 ゲイツ様の表情は絶望に染まっていた。

「そ、そんな! 僕と別れてからまだそんなに日にちが経っていないのに! くぅぅぅぅぅ! そんな! あんまりだ!」

 地面を何度も殴りつけて、ゲイツ様は悔しがっていた。
 でも、私に反撃する気力はないみたいで、そして体力もあまり残っていないみたいで、彼はそのままうなだれてしまう。

「君が二度とアリアに近付かないと約束するなら、あのミラと別れさせてやらんでもない。アリアが彼女にされた仕打ちを聞いて、ちょっとこのまま彼女を放っておけなくなったからね」

「み、ミラと別れさせてくれるのか!? な、な、何でもする! 何でもするから助けてくれ! アリアには二度と近付かないと誓うから!」

 ちょっと考え込む仕草をして、ジェノス様はミラからゲイツ様を開放しようと口にした。
 一体、何をするつもりなのだろうか――。
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