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第六話
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あれから三日が経った。まさか婚約者まで妹に奪われるなんて思わなかったな。
ミラは確かに美人だけど、少し付き合えばどんな人なのか分かると思っていたから。
「お前には悪いがワシはちょっと安心してしまった。あのミラに嫁の貰い手が出来たのだからな」
彼女の性格の悪さに完全にお手上げだった父は申し訳なさそうな顔をしてそんなことを言う。
父の気持ちは分かるけど、私は落ち込む。ゲイツ様があっさりと引っかかったのを見て、軽く人間不信になりそうで……。
「その代わりではないが、先程に吉報が入ってな。公爵家の長男のジェノス殿を覚えておるか?」
「もちろんですとも。戦場で亡くなるなんて思いませんでしたが」
二年前、我が国は隣国と戦争をした。公爵家は代々武人の家系で、ジェノスは勇敢にも若き騎士団長として先陣を務め大活躍をした、という話を聞くまでは私も心が踊っていた。
彼とは幼馴染で仲が良かったのもあるが、私は彼に惹かれていて、淡い恋心を抱いていたから。
しかしながら、ジェノスは戦死する。戦場から戻る際に落馬して谷底に落ちてしまったらしい。
その凶報を聞いて私は泣いた。想いを伝えればよかったと後悔もした。
今思い出しても胸が締め付けられる悲しい思い出である。
「実はジェノスは生きていたらしい。昨日、公爵家に戻ってきた」
「えっ? ええーっ!?」
絶叫に近い声を出して私は驚く。なんてことだろう。ジェノスが生きていたって……。
そんなことってあるのかしら。だって、それならなんで二年間も……。
「どうやら彼は記憶喪失になっていたらしい。奇跡的に一命は取り留めて、な。そして最近、記憶が戻ったのだという」
そ、それはまた小説みたいな話ね。記憶喪失なんて、本当にあるんだ……。
でも、記憶喪失が治って戻ってきたのは嬉しいわ。
「ジェノスはお前に会いたいと言っていたみたいだよ。公爵殿は婚約中のお前に会わせるか迷ったみたいだが、婚約は破棄されたと聞いて是非とも会いに来てほしいと言っておった」
「私も会いに行きたいです! ジェノス様に……!」
つい、大きな声を出してしまった。
さっきまで心が死んでしまいそうになっていたのに、私は胸から鼓動の音がはっきり聞こえるくらい感情が蘇っていた。
「元気になってくれて何よりだ。行ってあげなさい。きっとジェノス殿も喜ぶだろう」
私は急いで着替えを手伝ってもらって、公爵家に出かける支度を済ませる。
昨日も一昨日もそうだったが、妹のミラは毎日ゲイツ様と会っているから家にはいない。
ああ、早く会いたいな。こんなに晴れやかな気分になるなんて信じられないわ。
私は馬車の中で亡くなっていたと思われた幼馴染の姿を想像して、鬱蒼とした気持ちが完全に消えたことを確認していた。
もう、過去について深く考えるのは止めて前を向いて生きていこう。
そんな前向きな考えが頭に浮かんだのだ……。
ミラは確かに美人だけど、少し付き合えばどんな人なのか分かると思っていたから。
「お前には悪いがワシはちょっと安心してしまった。あのミラに嫁の貰い手が出来たのだからな」
彼女の性格の悪さに完全にお手上げだった父は申し訳なさそうな顔をしてそんなことを言う。
父の気持ちは分かるけど、私は落ち込む。ゲイツ様があっさりと引っかかったのを見て、軽く人間不信になりそうで……。
「その代わりではないが、先程に吉報が入ってな。公爵家の長男のジェノス殿を覚えておるか?」
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今思い出しても胸が締め付けられる悲しい思い出である。
「実はジェノスは生きていたらしい。昨日、公爵家に戻ってきた」
「えっ? ええーっ!?」
絶叫に近い声を出して私は驚く。なんてことだろう。ジェノスが生きていたって……。
そんなことってあるのかしら。だって、それならなんで二年間も……。
「どうやら彼は記憶喪失になっていたらしい。奇跡的に一命は取り留めて、な。そして最近、記憶が戻ったのだという」
そ、それはまた小説みたいな話ね。記憶喪失なんて、本当にあるんだ……。
でも、記憶喪失が治って戻ってきたのは嬉しいわ。
「ジェノスはお前に会いたいと言っていたみたいだよ。公爵殿は婚約中のお前に会わせるか迷ったみたいだが、婚約は破棄されたと聞いて是非とも会いに来てほしいと言っておった」
「私も会いに行きたいです! ジェノス様に……!」
つい、大きな声を出してしまった。
さっきまで心が死んでしまいそうになっていたのに、私は胸から鼓動の音がはっきり聞こえるくらい感情が蘇っていた。
「元気になってくれて何よりだ。行ってあげなさい。きっとジェノス殿も喜ぶだろう」
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ああ、早く会いたいな。こんなに晴れやかな気分になるなんて信じられないわ。
私は馬車の中で亡くなっていたと思われた幼馴染の姿を想像して、鬱蒼とした気持ちが完全に消えたことを確認していた。
もう、過去について深く考えるのは止めて前を向いて生きていこう。
そんな前向きな考えが頭に浮かんだのだ……。
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