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第一話
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「アリア、悪いけど僕は麗しきミラと結婚するよ」
ある日のこと、突然私は婚約者のゲイツ様に婚約破棄を告げられた。
彼の隣でニヤニヤと笑いながらこちらを見ているのはミラ。私の妹だ。
彼女はゲイツ様に寄り添ってベタベタと彼の体に触りながら勝ち誇った顔をしている。
「ゲイツ様、これは何の冗談ですか? 今さら結婚を無しにするなんて許されませんよ。それにミラは――」
「あらあら、お姉様ったら。声を荒げてはしたないですわ」
「美しい君に嫉妬しているんだよ。確かに父上には怒られるだろう。でも、僕らは愛し合っているんだ」
見せつけるように彼女の肩を抱き、引き寄せるゲイツの表情からは微塵も悪びれた様子は感じられなかった。
侯爵家の嫡男であるゲイツ様と伯爵家の長女である私は親同士が決めた縁談であるが、侯爵様が大層私のことを気に入ってくれていたので、彼は父親に叱られることだけを懸念しているみたいだ。
嫌な予感はしていた。ミラが先日、「ゲイツ様、よく見ると素敵ですわ。欲しくなってしまいました」とか言っていたから。
この子は確かに美人だが、とんでもない我儘で何でも自分の思いどおりにならないと気が済まない性格なのだ。
「ゲイツ様、悪いことは言いません。ミラだけはやめておいた方がゲイツ様のためです。今、発言を撤回すれば私も忘れますから」
私はミラと結婚するのはやめておいた方が良いとゲイツ様に告げる。
ミラの我儘は度を超えており、私たち家族は辟易としているからだ。そのため、美人で言い寄る男の数は多いが友人はほとんどおらず、孤立している。
両親もこの子の性格を何とか矯正しようと修道院に入れることも検討していたくらいだ。
「あはははは! 僕の愛の大きさを見縊るなよ! 僕はミラを幸せにすると決めたのだ! 彼女と一緒になって真実の愛の名のもとに一生彼女と共に過ごすと誓ったのだ!」
「まぁ、素敵ですわ! ゲイツ様!」
「本当!? 僕ってそんなに素敵かい? 参ったなぁ! あはははは!」
自分に酔っているような態度のゲイツ様は私の忠告をまったく受け入れてくれない。
ミラが彼を持ち上げるとだらしない顔をして、上機嫌そうに笑うだけだった。
はぁ、よく考えたら何で私がこんなに彼のことを心配しなくちゃいけないんだろう。
彼と共に人生を歩むと信じていたのに。それを踏みにじられて……。
ミラには何度も泣かされてきたけど、今日のは流石に堪えたわ……。
「そんなにミラのことをお好きなのでしたら、もう何も言いません。どうぞ、お幸せに」
「君が素直に引き下がってくれて良かったよ。僕に泣いて縋りついたらどうしようかと思ったからね」
「お姉様、わたくしはゲイツ様と幸せになりますわ」
「さぁ、ミラ。君のお父様とお母様にも挨拶しないとね。きっと喜んでくれるよ。アリア、君も同席するだろ? 僕らの新たな門出を応援してくれ」
この人、どの面下げて私に同席を求めているのかしら。
両親は反対しないかもしれないわね。ミラの嫁の貰い手の方を心配していたから。
ゲイツは知らないみたい。ミラが言い寄ってきた男たちとの縁談をもう二十回くらい駄目にしているってことを。
ある日のこと、突然私は婚約者のゲイツ様に婚約破棄を告げられた。
彼の隣でニヤニヤと笑いながらこちらを見ているのはミラ。私の妹だ。
彼女はゲイツ様に寄り添ってベタベタと彼の体に触りながら勝ち誇った顔をしている。
「ゲイツ様、これは何の冗談ですか? 今さら結婚を無しにするなんて許されませんよ。それにミラは――」
「あらあら、お姉様ったら。声を荒げてはしたないですわ」
「美しい君に嫉妬しているんだよ。確かに父上には怒られるだろう。でも、僕らは愛し合っているんだ」
見せつけるように彼女の肩を抱き、引き寄せるゲイツの表情からは微塵も悪びれた様子は感じられなかった。
侯爵家の嫡男であるゲイツ様と伯爵家の長女である私は親同士が決めた縁談であるが、侯爵様が大層私のことを気に入ってくれていたので、彼は父親に叱られることだけを懸念しているみたいだ。
嫌な予感はしていた。ミラが先日、「ゲイツ様、よく見ると素敵ですわ。欲しくなってしまいました」とか言っていたから。
この子は確かに美人だが、とんでもない我儘で何でも自分の思いどおりにならないと気が済まない性格なのだ。
「ゲイツ様、悪いことは言いません。ミラだけはやめておいた方がゲイツ様のためです。今、発言を撤回すれば私も忘れますから」
私はミラと結婚するのはやめておいた方が良いとゲイツ様に告げる。
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「あはははは! 僕の愛の大きさを見縊るなよ! 僕はミラを幸せにすると決めたのだ! 彼女と一緒になって真実の愛の名のもとに一生彼女と共に過ごすと誓ったのだ!」
「まぁ、素敵ですわ! ゲイツ様!」
「本当!? 僕ってそんなに素敵かい? 参ったなぁ! あはははは!」
自分に酔っているような態度のゲイツ様は私の忠告をまったく受け入れてくれない。
ミラが彼を持ち上げるとだらしない顔をして、上機嫌そうに笑うだけだった。
はぁ、よく考えたら何で私がこんなに彼のことを心配しなくちゃいけないんだろう。
彼と共に人生を歩むと信じていたのに。それを踏みにじられて……。
ミラには何度も泣かされてきたけど、今日のは流石に堪えたわ……。
「そんなにミラのことをお好きなのでしたら、もう何も言いません。どうぞ、お幸せに」
「君が素直に引き下がってくれて良かったよ。僕に泣いて縋りついたらどうしようかと思ったからね」
「お姉様、わたくしはゲイツ様と幸せになりますわ」
「さぁ、ミラ。君のお父様とお母様にも挨拶しないとね。きっと喜んでくれるよ。アリア、君も同席するだろ? 僕らの新たな門出を応援してくれ」
この人、どの面下げて私に同席を求めているのかしら。
両親は反対しないかもしれないわね。ミラの嫁の貰い手の方を心配していたから。
ゲイツは知らないみたい。ミラが言い寄ってきた男たちとの縁談をもう二十回くらい駄目にしているってことを。
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