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第一話
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「やっと見つけた。僕の運命の人……。君と結婚したいのだけど、ええーっと、名前を教えてくれるかい?」
それは私が王立学園を卒業して初めてパーティーに出席した日でした。
誰もが振り返るほど美しく整った金髪の青年に、いきなり私はプロポーズされてしまったのです。
相手の方は私の名前をご存知ないと仰せになりますが、私は彼を存じていました。
ナッシュ・シェムロイ――シェムロイ公爵家の嫡男にして社交界でも際立って人気だった男性です。
人気だったというのは、特に今が不人気ということではなく、この方にあまりにも浮いた話が無さすぎて、女性に興味がある素振りもなかったので、いつしか誰もが彼のことを諦めてしまっただけであり、私自身もナッシュがそういった目で自分が見られたということに少なからず驚いたのでした。
なんせ、同性愛という噂が立つほど女性の影がありませんでしたから。
「シェリル・イースロンと申しますわ。ナッシュ様、聞き間違いでなければ、結婚という言葉が聞こえたのですが」
私は自身の名前を名乗り、ナッシュの言葉が聞き間違いでないかと疑いました。
当たり前です。目の前にいる彼は公爵家という家柄も含めて完璧と呼べる貴公子なのです。
私などを相手にしなくてももっと家柄も容姿も良くて、尚かつ頭も良い方と婚姻くらい簡単に出来る立場なのに……と思ってしまいます。
「間違いではないよ。僕はシェリルに運命を感じたんだ。君のその泣きぼくろから美しい鼻筋、何よりもその綺麗な白い肌に銀髪が良い。こんなに完璧な美貌の女性など何処を探してもいない! 君に一目惚れしたんだ……!」
褒めすぎだと思いました。
容姿はコンプレックスというほどではありませんが自慢になる程でもありません。
確かに色素が生まれつき薄くて、弱いので手入れは人一倍気を遣っていますが……。
それでも褒められて嫌な気持ちになるはずもなく、私はナッシュの言葉を素直に受け止めて喜びました。
世間からも完璧だと評されるくらい非の打ち所ない貴公子が私に一目惚れなんて――彼の求婚を断る理由が特に見つかりませんでしたので、私は前向きに考えると返事をしたのです。
「今度は君のお父上に挨拶に向かわせてもらう」
パーティーが終わった翌日にフットワーク軽くナッシュは我が家を訪れました。
伯爵である父は公爵家の嫡男で難攻不落の美青年だと有名なナッシュに求婚された話を本気にしてくれませんでしたので、彼が家まで来たことに笑ってしまいそうになるくらい驚きます。
そして見たことも程、上機嫌なってナッシュをもてなしました。
「いやー、我が娘ながらよくやった! まさかあのナッシュ・シェムロイを射止めるとは。ワシは前々からお前はそういう星を持っていると思っていたよ」
「噂通りの美しさでしたね。シェリルと釣り合うとは思えませんが、先方が良いと言っているのですから、気が変わる前に迅速に縁談を進めましょう。私の育て方がきっと良かったのね」
父も母も浮かれていることが丸わかりになるくらいニコニコと笑顔を浮かべており、人生で一番と言っていいほど私のこと褒めちぎります。
私は、こんな幸運が空から降って来ることなんてあるのかと自分のことながら妙に他人ごとっぽく見えてしまい、イマイチ現実感がわかなかったです。
「姉さん、何か嫌な予感がしない? どう考えてもおかしいよ」
「こら、ルミア。シェリルに嫉妬するなんてみっともないですよ」
妹のルミアはずっと黙って紅茶を飲みながら本を読んでいましたが、ナッシュが帰ってから一時間程してようやく口を開きました。
この子はマイペースな子ですし他人に嫉妬する性格ではないのですが……。
「ナッシュ様ってさ。姉さんよりも7歳くらい歳上でしょ。もう結婚しちゃったけど第一王女のティアナ様とか、王族も含めて沢山の家柄の良い女性たちがアプローチしたのに一瞥もしなかったんだよ。姉さん、この話には絶対に裏があるから注意したほうがいい」
ルミアはジィーっと私を見つめてこの縁談に裏があると断言しました。
そんなこと言われると急に怖くなるではないですか……。
「そりゃあ、多少は変わった条件が出るかもしれん。しかし、それでシェリルが公爵家に入れるのなら儲けものだ。いいか、絶対にこの縁談は成功させるのだ! 絶対にだぞ!」
ルミアの忠告を鼻で笑う父は、私に絶対にナッシュと結婚まで漕ぎ着けるように念を押しました。
そうですよね。多少、難点はあっても飲み込むくらいはしなくては。
私は頷いて父の言葉を肯定しました――。
それは私が王立学園を卒業して初めてパーティーに出席した日でした。
誰もが振り返るほど美しく整った金髪の青年に、いきなり私はプロポーズされてしまったのです。
相手の方は私の名前をご存知ないと仰せになりますが、私は彼を存じていました。
ナッシュ・シェムロイ――シェムロイ公爵家の嫡男にして社交界でも際立って人気だった男性です。
人気だったというのは、特に今が不人気ということではなく、この方にあまりにも浮いた話が無さすぎて、女性に興味がある素振りもなかったので、いつしか誰もが彼のことを諦めてしまっただけであり、私自身もナッシュがそういった目で自分が見られたということに少なからず驚いたのでした。
なんせ、同性愛という噂が立つほど女性の影がありませんでしたから。
「シェリル・イースロンと申しますわ。ナッシュ様、聞き間違いでなければ、結婚という言葉が聞こえたのですが」
私は自身の名前を名乗り、ナッシュの言葉が聞き間違いでないかと疑いました。
当たり前です。目の前にいる彼は公爵家という家柄も含めて完璧と呼べる貴公子なのです。
私などを相手にしなくてももっと家柄も容姿も良くて、尚かつ頭も良い方と婚姻くらい簡単に出来る立場なのに……と思ってしまいます。
「間違いではないよ。僕はシェリルに運命を感じたんだ。君のその泣きぼくろから美しい鼻筋、何よりもその綺麗な白い肌に銀髪が良い。こんなに完璧な美貌の女性など何処を探してもいない! 君に一目惚れしたんだ……!」
褒めすぎだと思いました。
容姿はコンプレックスというほどではありませんが自慢になる程でもありません。
確かに色素が生まれつき薄くて、弱いので手入れは人一倍気を遣っていますが……。
それでも褒められて嫌な気持ちになるはずもなく、私はナッシュの言葉を素直に受け止めて喜びました。
世間からも完璧だと評されるくらい非の打ち所ない貴公子が私に一目惚れなんて――彼の求婚を断る理由が特に見つかりませんでしたので、私は前向きに考えると返事をしたのです。
「今度は君のお父上に挨拶に向かわせてもらう」
パーティーが終わった翌日にフットワーク軽くナッシュは我が家を訪れました。
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そして見たことも程、上機嫌なってナッシュをもてなしました。
「いやー、我が娘ながらよくやった! まさかあのナッシュ・シェムロイを射止めるとは。ワシは前々からお前はそういう星を持っていると思っていたよ」
「噂通りの美しさでしたね。シェリルと釣り合うとは思えませんが、先方が良いと言っているのですから、気が変わる前に迅速に縁談を進めましょう。私の育て方がきっと良かったのね」
父も母も浮かれていることが丸わかりになるくらいニコニコと笑顔を浮かべており、人生で一番と言っていいほど私のこと褒めちぎります。
私は、こんな幸運が空から降って来ることなんてあるのかと自分のことながら妙に他人ごとっぽく見えてしまい、イマイチ現実感がわかなかったです。
「姉さん、何か嫌な予感がしない? どう考えてもおかしいよ」
「こら、ルミア。シェリルに嫉妬するなんてみっともないですよ」
妹のルミアはずっと黙って紅茶を飲みながら本を読んでいましたが、ナッシュが帰ってから一時間程してようやく口を開きました。
この子はマイペースな子ですし他人に嫉妬する性格ではないのですが……。
「ナッシュ様ってさ。姉さんよりも7歳くらい歳上でしょ。もう結婚しちゃったけど第一王女のティアナ様とか、王族も含めて沢山の家柄の良い女性たちがアプローチしたのに一瞥もしなかったんだよ。姉さん、この話には絶対に裏があるから注意したほうがいい」
ルミアはジィーっと私を見つめてこの縁談に裏があると断言しました。
そんなこと言われると急に怖くなるではないですか……。
「そりゃあ、多少は変わった条件が出るかもしれん。しかし、それでシェリルが公爵家に入れるのなら儲けものだ。いいか、絶対にこの縁談は成功させるのだ! 絶対にだぞ!」
ルミアの忠告を鼻で笑う父は、私に絶対にナッシュと結婚まで漕ぎ着けるように念を押しました。
そうですよね。多少、難点はあっても飲み込むくらいはしなくては。
私は頷いて父の言葉を肯定しました――。
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