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第十四話

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 とにかく疲れました。
 人生でこんなにも三十分が長いと感じたことはありませんでした。
 延々とよく分からないマルサス様のショーを見せられ、挙げ句の果てにプロポーズされて、断ったら逆ギレされて、頭痛がします……。

 あの様子だと、エリナさんにはシェリアが言ったとおり婚約者が居て、振られてしまったみたいですね。
 
「あー! 面白かったですわー! こんなに面白いことがわたくしの人生でありましたでしょうか!? いいえ、ありません! お姉様がマルサス様と婚約していたという黒歴史に感謝です……!」

「あなた、冗談でなく本気で言っていますね?」

「はい! もちろんですわ!」

 清々しい程の良い返事で、シェリアは今日の出来事を本気で楽しんでいたことを肯定しました。
 野次馬というか、何というか、まぁ……、呆気にとられていた護衛の二人を動かしたことには感謝していますが……。

 思えば、この子のトラブルに対する嗅覚の鋭さは昔からピカイチでした。
 そして、それをいつも見物しに行っては楽しむような子だったのです。

「今回もマルサス様がプロポーズすると予想していたのですか?」

「予想というより期待ですね。プロポーズしたら面白いのにとは、思っていましたわ。……フラッシュモブまでされるとは期待をグーンと突き抜けてくださいました」

「はぁ……、お父様にどう報告しましょう」

 ニコニコしながらマルサス様に要らぬ期待をしていたと告白するシェリア。
 こんなことがあったと話せばお父様は渋い顔をするでしょう。
 テスラー家に対して怒り、文句を言いに行かれるかもしれませんね。
 
「別に良いではないですか。そのまま面白かったと報告すれば。お姉様にはリュオン殿下という婚約者がいるのです。逆恨みされたって怖くありませんわ」

「そのリュオン殿下に要らぬ心配をかけることが嫌なんですよ」

「あら、そうでしたの? 世の殿方は頼られたいものかと思っていました。それがお姉様のような美人なら尚更」

 シェリアはマイペースに何かあればリュオン殿下に頼れば良いと言います。
 しかしながら、リュオン殿下は婚約者だった人に逃げられて、それが水面下で国際問題となっています。
 その心労を考えると彼にこれ以上の心配ごとはかけられないと思ってしまうのです。

 やはり、お父様にはリュオン殿下の耳には入らないように配慮して欲しいとお願いしておきましょう。

「あなた、私と見た目がそっくりだといつも言われるのに、よく美人とか言えますね」

「えっ? だから申し上げたのですが……」

「まったく、あなたという子は……」

 結局、お父様には今日あった出来事を話した上で、リュオン殿下のために変な噂が立たぬように配慮して欲しいと頼みました。
 
 ――そんな配慮はまったくの無駄になったのですが……。

 私はマルサス様をまだ自分の中の常識で測っていたのです――。
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