【完結】病弱な幼馴染が大事だと婚約破棄されましたが、彼女は他の方と結婚するみたいですよ

冬月光輝

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第六話

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 マルサス様との縁談がなくなったことは後からジワジワと私の心を苦しめました。
 特に指から強引に婚約指輪を取られた時のことを、ふとした瞬間に思い出すと……指の痛みとともに胸が締め付けられてしまいます。

 親同士が決めた縁談なのだから、愛など最初からないことは分かっていても、自分が否定されるというのは思いの外ショックが大きいのですね……。

「そりゃあ不運だったなぁ。まったく、父上はとんでもない相手との縁談をもちかけたものだ」

「お兄様、申し訳ありません。早く私たちが独立しないと、この家を継ぐことが出来ませんのに」

「あーそれは、別にいいって。俺もまだ修行中というか、侯爵みたいな肩書は重いというかさ。しばらく二人きりの新婚生活を楽しみたいから」

 兄のカインは王立学院を卒業したあと結婚して王宮の役人として活躍しているのですが、今日は久しぶりに帰って来られました。
 嫡男として爵位を継ぐのは私とシェリアが家を出たあとで、ということなので、恋愛結婚をした彼の妻――マリーナさんと共に小さな屋敷を購入してそこに二人で住んでいます。

「思ったよりも元気なさそうだったから、軽いお願いを聞いてもらおうと思っていたけど止めておくわ」

「なんですか? 軽いお願いって? 気になるところで話を切らないでくださいな」

 カイン兄様は私にお願いごとがあったけど、諦めたとか言われて立ち上がりました。
 そんなところで会話を止めようとしないでください。
 とても気になるじゃないですか。

「別に勿体ぶったつもりはないぞ。……後輩がな、お前の婚約がなくなったって聞いて、お前と会いたいとか言い出してな。その後輩も最近……婚約破棄されて傷心していたから、同じ経験をした人と話したいみたいな感じでさ」

「婚約破棄された後輩……」

「でも、お前も男と会うなんていうメンタルじゃないだろ? ま、無理になんていうタイプじゃないから断っておくよ」

「待ってください。一回、会ってみます。会ってみますよ。その方と――」

 一人で悩んでいても意味がないですし。いつまでもウジウジしていれば、シェリアも遠慮して縁談に消極的になるでしょう。
 私は新たな一歩を踏み出すためのきっかけになるかもしれないとして、婚約破棄された兄の後輩という方と会ってみようと思いました。

「そうか、そうか。それはありがたい。……じゃあ、さっそくリュオン殿下にその旨を伝えてるよ。いやー、助かったぞ。俺の面目も保たれる。さすが、可愛い俺の妹だ」

「……りゅ、リュオン殿下? か、カイン兄様のいう後輩ってリュオン殿下のことでしたの?」

 し、心臓が止まりそうになりました。
 な、な、何をこの人、言っているんですか。第三王子のリュオン殿下を可愛がってる後輩みたいな感じで言わないでくださいよ。

 あ、新たな一歩を踏み出そうと思いましたが、殿下と会うのでは話が全然違います。

「そうだよ。……殿下の相手とか言ったらお前だって断り辛いだろうから、敢えて伏せたんだよ。俺も気を遣っているだろ?」

「…………」

 カイン兄様、配慮するベクトル間違っていますよ。まぁ、こういう事は今日に始まったことではないのですが。

 ここで尻込みするのはちょっと違いますよね。
 勇気を持って一歩、未来に向かって前進しましょう……!
 
 
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