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第二十五話
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「イースフィル侯爵のことを聞いたのか。……そういえば、あのパーティーにはエルスロッド王家の者たちも招いていたな」
「兵士の方々は眠らせているだけです。一人も傷付けていません。陛下が私の質問に答え、このまま兵士たちを退却させるのでしたら、これ以上手を出すことはしません」
私が父親の名前を出したとき、アウルゼルム国王はすべてを察したような顔をしました。
本来、戦争なら私が国王陛下を仕留めればエルスロッド王国の勝ちが決まります。
つまり、この時点でアウルゼルムはチェックメイトをかけられたも同然。
なんせ一秒もかからずにアウルゼルム国王の首を斬り落とすことは可能な状況なのですから。
「イースフィル侯爵もワシに忠義を示した臣下。王家の名が穢れることは望まんだろう。だから、あの惨劇のことは無かったことにした。フィアナ、お前のことを冷遇したことに関しては謝る。いつか、王国にこのように反旗を翻すことを懸念しての措置だったのだ」
私がアウルゼルム王国に反抗することを嫌がって、教会に押しつけたという説明を陛下はされました。
やはり、記憶が無くなり聖女として力を付けたから擦り寄ってきたのですね。
それまでは、私自身がアウルゼルム王国の敵になることを恐れていた、と。
「だが、本来ならお前を殺すことも出来たが温情をかけて生かしたのだ。それに大聖女級だと教皇様より認めてもらった、その力は誰よりも評価している。フィアナよ、故郷のためにその力を使いなさい。さすれば、父であるイースフィル侯爵も喜ぶだろう」
アウルゼルム国王は、この状況においても私を故国に呼び戻そうとしました。
力を認めているというのは、そうなのでしょう。
自分の息子の命と天秤にかけて、私を手にすることを選んだのですから。
しかし、それを父が喜ぶかといえば――
「陛下、私の力を評価して頂いたことだけに関しては感謝しましょう。……しかしながら、父は私がこの国に縛られながら生きることを望んではいないと思います」
「ローレンスの婚約者となったことは聞いておる。だが、奴はお前の力を利用したいだけじゃ! 騙されるな! アウルゼルム王国の守護者に戻るのだ!」
アウルゼルム王国はローレンス様が私のことを利用するために自らの婚約者としたと力説しました。
どの口がそれを仰っているのでしょう。
騙していたのはあなたですよ。陛下……。
「聖なる刻印――!」
「がああああっ! あ、熱い! 熱い! 額が燃えるように熱い……!」
私はアウルゼルム国王の額に触れて、ある術を使いました。
こんな術は使いたくなかったのですが、仕方ありません。
「私の魔力で陛下の額にこのような刻印を付けました」
私は兵士の身に着けていた兜に五芒星の刻印が記されている様子を陛下に確認してもらいます。
この刻印はある特性があります。
それは――
「破裂ッ!」
「――っ!?」
鉄製の兜は私の声に反応して、木っ端微塵に弾け飛びました。
聡明なアウルゼルム国王はそれが何を意味するのか悟ったみたいです。
「ご覧のとおりです。兵士たちと退いてください。私も陛下がお命を落とすことは望んでませんから――」
「…………わ、わかった! わかったから……。い、命だけは! ひぃぃぃぃぃ!!」
怯えた目をしたアウルゼルム国王は全軍にすぐさま撤退を命じました。
これで、エルスロッド王国とアウルゼルム王国の軍隊の衝突は未然に防がれました――。
「兵士の方々は眠らせているだけです。一人も傷付けていません。陛下が私の質問に答え、このまま兵士たちを退却させるのでしたら、これ以上手を出すことはしません」
私が父親の名前を出したとき、アウルゼルム国王はすべてを察したような顔をしました。
本来、戦争なら私が国王陛下を仕留めればエルスロッド王国の勝ちが決まります。
つまり、この時点でアウルゼルムはチェックメイトをかけられたも同然。
なんせ一秒もかからずにアウルゼルム国王の首を斬り落とすことは可能な状況なのですから。
「イースフィル侯爵もワシに忠義を示した臣下。王家の名が穢れることは望まんだろう。だから、あの惨劇のことは無かったことにした。フィアナ、お前のことを冷遇したことに関しては謝る。いつか、王国にこのように反旗を翻すことを懸念しての措置だったのだ」
私がアウルゼルム王国に反抗することを嫌がって、教会に押しつけたという説明を陛下はされました。
やはり、記憶が無くなり聖女として力を付けたから擦り寄ってきたのですね。
それまでは、私自身がアウルゼルム王国の敵になることを恐れていた、と。
「だが、本来ならお前を殺すことも出来たが温情をかけて生かしたのだ。それに大聖女級だと教皇様より認めてもらった、その力は誰よりも評価している。フィアナよ、故郷のためにその力を使いなさい。さすれば、父であるイースフィル侯爵も喜ぶだろう」
アウルゼルム国王は、この状況においても私を故国に呼び戻そうとしました。
力を認めているというのは、そうなのでしょう。
自分の息子の命と天秤にかけて、私を手にすることを選んだのですから。
しかし、それを父が喜ぶかといえば――
「陛下、私の力を評価して頂いたことだけに関しては感謝しましょう。……しかしながら、父は私がこの国に縛られながら生きることを望んではいないと思います」
「ローレンスの婚約者となったことは聞いておる。だが、奴はお前の力を利用したいだけじゃ! 騙されるな! アウルゼルム王国の守護者に戻るのだ!」
アウルゼルム王国はローレンス様が私のことを利用するために自らの婚約者としたと力説しました。
どの口がそれを仰っているのでしょう。
騙していたのはあなたですよ。陛下……。
「聖なる刻印――!」
「がああああっ! あ、熱い! 熱い! 額が燃えるように熱い……!」
私はアウルゼルム国王の額に触れて、ある術を使いました。
こんな術は使いたくなかったのですが、仕方ありません。
「私の魔力で陛下の額にこのような刻印を付けました」
私は兵士の身に着けていた兜に五芒星の刻印が記されている様子を陛下に確認してもらいます。
この刻印はある特性があります。
それは――
「破裂ッ!」
「――っ!?」
鉄製の兜は私の声に反応して、木っ端微塵に弾け飛びました。
聡明なアウルゼルム国王はそれが何を意味するのか悟ったみたいです。
「ご覧のとおりです。兵士たちと退いてください。私も陛下がお命を落とすことは望んでませんから――」
「…………わ、わかった! わかったから……。い、命だけは! ひぃぃぃぃぃ!!」
怯えた目をしたアウルゼルム国王は全軍にすぐさま撤退を命じました。
これで、エルスロッド王国とアウルゼルム王国の軍隊の衝突は未然に防がれました――。
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