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第九話

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 地下251階層で遭遇した悪魔……ベレト。
 エルスロッド王国の精鋭たちが誰一人として脱出することが出来なかったのは、このベレトを倒すことが出来なかったからです。

「地上の人間共は大したことないってアザエルやベルゼブブの旦那たちに伝えてやろうと思ったが、中々どうして……オレたちの領域に近い女がいるとは思わなんだ」

 ベレトは聞き慣れない名前を上げると、指をパチンと鳴らしました。
 するとけたたましいトランペットの音と共に周囲を囲むように無数の漆黒の刃が出現します。
 なるほど、全方位攻撃をこれ程の規模で――。

「さて、どう切り抜ける? 楽しませてみろよ!」

 漆黒の刃は私たち三人に照準を合わせて、次々とこちらに向かって飛来してきます。
 逃げ道がない。こういう戦法を取れるのなら、人数による有利というのものが殆ど無かったというのも頷けます。

「ぬぬっ!? こうなったらこのリュージュが盾になり――」
「リュージュさん、その必要はありません……」

「――っ!? へぇ、そんなのも出来るのか」

 絶対聖域サンクチュアリを展開してドーム状のバリアを張り、飛来してくる漆黒の刃を全て防ぎきりました。
 これは、私の光属性の魔力によって展開される絶対不可侵の領域。生半可な魔術などでは到底破れません。

「だが、防御だけではオレを倒すのは――。なっ――!?」
「お返しします。銀十字の聖刃シルバー・ジャッジメントッ!」

 私は右手を振り上げて即座にベレトの周囲に十字架の形をした銀色の短剣を無数に出現させます。
 そして、腕を振り下ろすと先程の意趣返しのように銀の短剣が次々とベレトに突き刺さりました。
 この銀の短剣には破邪の性質もあり、並の魔物なら当たれば絶命させることのできる代物です。

「うぎゃああああああッ!」

 ベレトは青白い馬から転げ落ちて、苦しそうにのたうち回りました。
 何という生命力でしょう。軽く百本は破邪の力が付与された短剣が突き刺さったというのに、まだ生きています。

「痛ぇ! 痛ぇよ! はぁ、はぁ……、このクソ女があああああっ!」

 狐のお面が落ちて、素顔が顕になったベレト。
 ネコのような見た目をしていますね。すっかり怒りの形相ですが……。

「絶対に許さん! この世のあらゆる苦しみを与え尽くして嬲り殺しにしてやる!」

「余裕が見えなくなっていますよ。それは良くありません」

「うるさい! 見せてやる! このオレの切り札!」
  
 ベレトは両手に闇属性の魔力を集中し始めました。フロア全体がその魔力の大きさに当てられて地震のように揺れ出します。
 おそらく彼の切り札は超圧縮した闇属性の魔力の放出。サンクチュアリをも貫き兼ねない程の魔力を捻出しようとしているのでしょう。

 しかし、その狙いは――

「やはり良くないです。怒りで足元が見えなくなっています……」

「あ、足元だとぉ!? ぐぎゃあああああっ!」

 私の言葉に合わせるようにベレトは自らの足元を見ました。
 もう遅いですよ。私はあなたの必殺技発動まで時間を待つ程お人好しじゃあありませんから。

 ベレトの足元から放出される圧縮された光属性の魔力。
 私の放った天まで上る光の柱――つまり昇天への道ヘブンズウェイは体力自慢の悪魔であろうと、一瞬にして浄化させてしまうのです。

「ま、まさか。この……ベレトが。たかが人間ごときに……」

 信じられないという表情で絶命するベレト。
 エルスロッド王国にきて初めての聖女としての仕事は無事に成功という形として終えることが出来ました――。

 
 
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