11 / 15
第十一話
しおりを挟む
「とにかく、あなた方は罪人です。このまま、大人しく捕まってください」
厳重に結界術で拘束したロバートとアイリーン様に私は捕まるように声をかけました。
この人たちに構っている暇はないのです。
私は私で、この国から出なくてはならないのですから。
「罪人ってよく言いますわ。あなただって、お父様に黙ってアナスタシアを育てた罪人じゃないですか。ロバートの拘束を解きなさい。今度こそ三人で逃げようではありませんか」
アイリーン様は私も罪人だとして、共犯だと主張します。
確かに私も罪を犯していますし、正しいことをしているとも思っていません。
しかしながら、彼女らとは相容れないに決まっています。
この人たちのせいで私は人生を暗いところにまで追い詰められたのですから。
それに――
「三人で? やはりあなた方はアナの命に関わることをしようとしているのですね……」
「あら、口が滑ってしまいましたわね。ご安心ください。子はまた成しますから。お育てになりたいのなら譲ってあげてもよろしくてよ」
「私を、アナの命を侮辱するな! アイリーン!」
「ぎゃっ――」
気付けば私は光の矢でアイリーンの腹を射抜いていました。
ヘラヘラとアナスタシアが死んでも代わりを作れば良いと言った彼女がどうしても許せなかったのです。
「痛い、痛い、痛いですわ……。し、信じら……ない。あの女、王族の……わ、わたくしを、」
「もうすぐ、王家に対する義理も無くなります。あなたのことは敬愛すべき対象だと我慢していましたが……今は何とも思っておりません」
さて、早くジョセフに追いつきませんと。
私はアナスタシアの元へと足を向けました。
「エリス! 貴様、よくも! 僕の愛するアイリーンを! があああああああッッッッ!!」
走って娘のもとに近付こうとしたとき、後ろから叫び声が上がり、地響きがしました。
振り返ると、全身が赤紫色になった異形の男が光の鎖を引きちぎって私を睨んでいます。
「……ろ、ロバート。その姿は――」
――ば、化物。
恐ろしい姿の化物がそこに存在していました。
元夫は得体の知れない“勇者の血”とやらを飲んでいます。
それがあの姿になった要因だということは疑う余地がありません。
早く娘を連れて逃げませんと……。
「え、エリス様。あ、あれは一体……」
「ジョセフ、話は後です。アナを彼らに渡すわけにはいきません。早く逃げますよ」
私はジョセフにそのまま逃げるように伝えました。
ロバートの命はそう長くない。アイリーンはそれを匂わすようなことを言っていました。
つまりあの異形の姿もまた最期の悪あがきの可能性があります。
逃げ続ければ自滅する――その可能性に賭けた方が賢いでしょう。
「逃げられると、思うなあああああッ!」
「きゃっ……!」
「お母様!」
「エリス様!」
私は髪を掴まれて、そのまま強く殴られて地面に体を打ちつけました。
は、速すぎます。それに魔力で全身を鉄よりも硬くなるように防御術を展開しているのにも関わらず、全身がバラバラになりそうなくらい痛みを感じます……。
「アイリーンを傷付けたお前は四肢を裂いて、グチャグチャにして殺してやる!」
ロバートは目を血走らせながら、ゆっくりと近付き私を殺そうと腕を振り上げました。
まさか元夫に殺される最期を迎えるとは……。
アナスタシア、アルフォンス様……お許しください――
私は目を瞑り、覚悟を決めました。
「ぎゃああああああっ」
――突然上がったロバートの叫び声。
目を開くと、何と……。
「お、お母様を……い、イジメないで……!」
全身に黄金の光を纏ったアナスタシアがロバートに体当たりして彼を吹き飛ばしてしまっていたのです。
娘はなぜ、こんな力を――
あまりの展開に声が出ませんでした――
厳重に結界術で拘束したロバートとアイリーン様に私は捕まるように声をかけました。
この人たちに構っている暇はないのです。
私は私で、この国から出なくてはならないのですから。
「罪人ってよく言いますわ。あなただって、お父様に黙ってアナスタシアを育てた罪人じゃないですか。ロバートの拘束を解きなさい。今度こそ三人で逃げようではありませんか」
アイリーン様は私も罪人だとして、共犯だと主張します。
確かに私も罪を犯していますし、正しいことをしているとも思っていません。
しかしながら、彼女らとは相容れないに決まっています。
この人たちのせいで私は人生を暗いところにまで追い詰められたのですから。
それに――
「三人で? やはりあなた方はアナの命に関わることをしようとしているのですね……」
「あら、口が滑ってしまいましたわね。ご安心ください。子はまた成しますから。お育てになりたいのなら譲ってあげてもよろしくてよ」
「私を、アナの命を侮辱するな! アイリーン!」
「ぎゃっ――」
気付けば私は光の矢でアイリーンの腹を射抜いていました。
ヘラヘラとアナスタシアが死んでも代わりを作れば良いと言った彼女がどうしても許せなかったのです。
「痛い、痛い、痛いですわ……。し、信じら……ない。あの女、王族の……わ、わたくしを、」
「もうすぐ、王家に対する義理も無くなります。あなたのことは敬愛すべき対象だと我慢していましたが……今は何とも思っておりません」
さて、早くジョセフに追いつきませんと。
私はアナスタシアの元へと足を向けました。
「エリス! 貴様、よくも! 僕の愛するアイリーンを! があああああああッッッッ!!」
走って娘のもとに近付こうとしたとき、後ろから叫び声が上がり、地響きがしました。
振り返ると、全身が赤紫色になった異形の男が光の鎖を引きちぎって私を睨んでいます。
「……ろ、ロバート。その姿は――」
――ば、化物。
恐ろしい姿の化物がそこに存在していました。
元夫は得体の知れない“勇者の血”とやらを飲んでいます。
それがあの姿になった要因だということは疑う余地がありません。
早く娘を連れて逃げませんと……。
「え、エリス様。あ、あれは一体……」
「ジョセフ、話は後です。アナを彼らに渡すわけにはいきません。早く逃げますよ」
私はジョセフにそのまま逃げるように伝えました。
ロバートの命はそう長くない。アイリーンはそれを匂わすようなことを言っていました。
つまりあの異形の姿もまた最期の悪あがきの可能性があります。
逃げ続ければ自滅する――その可能性に賭けた方が賢いでしょう。
「逃げられると、思うなあああああッ!」
「きゃっ……!」
「お母様!」
「エリス様!」
私は髪を掴まれて、そのまま強く殴られて地面に体を打ちつけました。
は、速すぎます。それに魔力で全身を鉄よりも硬くなるように防御術を展開しているのにも関わらず、全身がバラバラになりそうなくらい痛みを感じます……。
「アイリーンを傷付けたお前は四肢を裂いて、グチャグチャにして殺してやる!」
ロバートは目を血走らせながら、ゆっくりと近付き私を殺そうと腕を振り上げました。
まさか元夫に殺される最期を迎えるとは……。
アナスタシア、アルフォンス様……お許しください――
私は目を瞑り、覚悟を決めました。
「ぎゃああああああっ」
――突然上がったロバートの叫び声。
目を開くと、何と……。
「お、お母様を……い、イジメないで……!」
全身に黄金の光を纏ったアナスタシアがロバートに体当たりして彼を吹き飛ばしてしまっていたのです。
娘はなぜ、こんな力を――
あまりの展開に声が出ませんでした――
153
お気に入りに追加
3,107
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。


初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる