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第ニ章:新たな侵略者、【魔界貴族】編

第24話:【バルバトス公爵】に切り札を使う話

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 館内でラミアを見つけることに成功した私は【バルバトス公爵】と戦うことになった。
スキを突かれて私は死を覚悟したが、ラミアの体が虹色に輝き、何故か助かった。

「ラミア、さっきどうやってあいつの魔法を消したんだ?」
 私はラミアに尋ねた。

「わかりませんの……。ただ、必死にルシア様を助けたいと願っただけですわ」
 ラミアは首を振った。
やっぱり、そうだよな。
とりあえず、拘束を解くぞ。

 私は翼から外に出て、ラミアの繋がれた鎖を切り裂いた。

「きゃっ」
 ラミアが落ちてきたところを私は受け止めた。

「ルシア様ぁ、信じていましたわ。助けに来てくれるって。ぐすん」
 ラミアは涙目で私にしがみついた。

「あいつのスキを突いて逃げるぞ……」
 私はひそひそ声でラミアに話しかけた。
バルバトスという男はヤバい。
ラミアを守りながら勝つのは難しいかもしれない。

「ヒョーッヒョッヒョッ。やはりお前の力は、ワシの思った通りの力じゃ。【あの力】を手放すとは、天界は何を考えとるのかのぉ」
 バルバトスは上機嫌だ。
くそっ、バカ笑いしてる癖にスキがない。
とりあえず、大技で牽制しつつスキを作るか。

【羊飼いスキル発動】

 戦闘用羊召喚(20体)

 筋肉が発達したの羊の群れを召喚する。

「行けっ! 突撃だ!」
 私の指示で羊達はバルバトスに突撃する。

「メェェェェッ!! ブォォォォォハァァァァァ!!」
 雄叫びを上げて、凄い勢いでバルバトスにぶつかっていった。
バルバトスは勢いに怯んで吹き飛ばされた。

「ぐはっ、なんじゃこれは? 羊だと……。逃がすか、バカもん!」
 しかし、私が部屋の外に出ようとする仕草に即座に気がつき手から衝撃波を繰り出した。

バルバトス→ルシア、ラミア
【悪魔スキル発動】

 大魔衝撃

――ゴォォォォォッ

「うわぁっ、ぐっ」
「ルシア様っ、きゃあっ」
 私は咄嗟にラミアを庇ったが、2人とも部屋の外の通路まで吹き飛ばされて壁に激突した。
ダメージは受けたが、外に出られたのは好都合か?
いや、ラミアは……、気絶している……。

「ヒョッヒョッ、小童が……。その娘を置いて逃げるか? ワシはそれでも構わんぞ。小物と遊んどる暇はないからなぁ」
 バルバトスは余裕の表情で私を見据える。
誰が逃げるか、クソジジイが。

 とはいえ、私は正直参っていた。
勝てる方法というか、切り札はある。
しかし、それは使用後に意識が飛んでしまうリスクがあったので、実戦で使ったことは一度もない技なのだ。

「なんじゃ、逃げんのか? じゃあ死ね……」
 バルバトスは殺気を出した。

 仕方ない、ここで死んでは元も子もないからな。
勝つしかない!

ルシア
【召喚士、霊術士(シャーマン)スキル同時発動】

 風精霊(シルフ)召喚+霊体憑依=風精霊憑依(エレメンタルコネクト)

――ブワッ、コォォォォォッ

 私の体に風精霊(シルフ)の力が宿る。
私の髪の色は銀色から緑色に変色し、体中から風が吹き出す。
力の重圧が強くて、少しでも気を抜くと意識が持っていかれるな……。

「ん? お前、少し感じが変わったか? まあどうでも良いか……。塵になれぃ!」
 バルバトスが私に両手を向けようとした。
その手は邪魔だな……。

――グシャ

 私は風の力を利用したスピードで一瞬で間合いを詰めて、バルバトスの右手を手刀で切り落とした。

「グヒャッ、バカなぁ。ワシの腕がぁぁぁぁっ」
 緑色の血をボタボタ垂らしながらバルバトスは悲鳴を上げた。

『時間が無いんだ……。早く終わらせるぞ……』
 私の声はいつもよりも虚ろだった。
やはり、この自分の体ではない感覚にはまだ慣れない。

【風精霊憑依体スキル発動】

 霊幻剣・神風

 私は剣に風精霊(シルフ)の力を集中させた。
緑色のオーラを纏った、風の化身となった剣は如何なる物も切り裂く刃となる。

「お前ぇぇぇ、ワシは【魔界貴族】の【バルバトス公爵】だぞぉぉぉ。ワシに喧嘩を売ると言うのはなぁぁぁ…………」
 バルバトスは血走った目で私を睨む。
ごめん、全然会話に集中できない……。
もう時間もないから、さ……。
あと、この……状態の……、私は少しだけ……容赦がない…………。

『終わりにするよ……』

――ズバンッ

 私はバルバトスの首を切り落とした。
バルバトスは首から大量の緑色の体液を吹き出した。

「くぉっ、このワシが……、小童ごときに……。お前は……、何者だ……? もう少しで……【あの力】が……、手に……、入っ……、たの……」
 バルバトスは頭だけになっても、私をにらみつける。
凄い生命力だな……。
トドメをさ……さなきゃ……。
いかん、時間切れ……か?

「覚えとれ……、小童っ……」
 バルバトスはそう言い残して、生首を宙に浮かせて、消えてしまった。
くっ、逃したか……、でも…………体が……動か……な………………。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はっ、バルバトスは…………。ラミアは!?」
 私は目を開けた。

「あっ、ジェノス様。ルシア様がお気づきになられましたわ」
 ラミアの声がする……。
良かった無事か……。

「いやあ、驚いたよ。まさか【バルバトス公爵】を君が仕留めるんだもん」
 ジェノスの顔が私を覗き込んでいる。
えぇーっと、どんな状況?

「ん、ああ。僕が2階に上がって倒れている君と、君に声をかけているラミアちゃんを発見したんだ。それで僕が君を抱えてここまで連れてきたという訳さ」
 ジェノスは私にそう説明する。
私はジェノスにお姫様抱っこをされていた。
うわっ、恥ずかしい……。
早く下ろしてください……………。

「すみません、完全に意識を失っていていました。あー、一生の不覚です」
 私は顔が熱くなった。

「いいよ、いいよ、【バルバトス公爵】も倒してくれたみたいだし。信じられないよ、一体どんなマジックを使ったんだい?」
 ジェノスはニヤリと笑った。

「少しだけ無茶な技を使いました。まぁ、それでもバルバトスの首を切り落とすのが精一杯で、逃げられちゃいましたけど……」
 私はバルバトスに逃げられたことを伝えた。

「へぇー、でも重傷を負わせて撤退までさせたんだから大したものだよ。ねぇ、そんなに強いんだからさ、魔王討伐に復帰しなよ。【天武会】も終わったんだしさ」
 ジェノスは再び私をそそのかす。

「ははっ、そう言って貰えて嬉しいんですけどね、やめておきますよ。今日もこの有様なんで……」
 私は自嘲気味に笑いながらそう言った。
一人で戦ってみてよくわかった、私は個人プレーに集中し過ぎて、パーティー戦に向いてない。
アレックス達には悪いことをしたかもしれないな。

 だからといって、1対1で魔王に挑めると思っているほど自惚れてはいない。
やはり、引退するのが世の中の為だろう。
そして、魔王を倒せるような人材を私の失敗も活かして育ててみよう。

「ちぇっ、残念だなぁ。君ほどの強さは本当に類稀なんだけどな」
 ジェノスは残念そうな顔をした。

「評価していただいてありがとうございます。でも、ジェノスさんの方が絶対に強いし魔王だって倒せそうなんですけど……」
 私はジェノスにそう言った。

「僕が魔王をかい? ははっ、そうだね。その方が手っ取り早いか。うん、君の気持ちはわかったよ。まっ、今回の君の目的は達成出来たし、僕の目標も君が終わらせてくれた。ここに連れてきた意味は十分にあった。それじゃ、【地上】に戻ろっか?」
 ジェノスは私とラミアの肩を組んだ。

ジェノス
【???スキル発動】

 次元跳躍移動魔法

――ヒュン

「さあ、着いたよ。ダルバート王国の城下町はきちんとマーキングしていた甲斐があったなぁ」
 ジェノスはダルバートの城下町の入口に移動してくれた。
あー、良かった。
また200キロメートル以上走ることになったら嫌だったし。

「本当にありがとうございます。おかげでラミアを無事に助けることができました」
 私はジェノスに頭を深く下げた。

「ジェノス様、あなたもルシア様と同じく命の恩人ですわ。ありがとうございます」
 ラミアも私の隣で頭を下げた。

「気にしなくっていいって。好きでやったことだからさ。じゃあ、僕はこれで帰るよ。部下をボルメルン帝国で待たせているからね。エリス様達にもよろしく」
 そう言うと、ジェノスは手を振って城下町から歩いて出ていった。

「あのう、ルシア様はどうして、わたくしのことなんかを命がけで助けてくれますの?」
 ラミアは私に質問した。
そんなこと改まって聞くなよ、目をウルウルさせて……。

「別に、ラミアは私の助手なんだろ。それに、まだお前が焼いたアップルパイも食べてないしな」
 私は顔を背けてそう答えた。

「アップルパイ……ですの?」
 ラミアはキョトンとした顔で首を傾げた。
そっそうだ、あまり変な勘違いはするなよ。

「じゃあ、私達もエリス様たちのところに戻ろっか?」
 私はラミアに話しかけ話題を逸らそうとした。

「その前に一つだけよろしいですか? ルシア様には本当に助けて頂いて感謝してますわ。わたくしなんかを、何度も救って頂いて……。それで、非常に言いにくい話があるのですが……」
 ラミアがモジモジしながら話しかけた。
なんだ、まだあるのか?
せっかく無事に帰ってきたのに……。
【魔界】に攫われる以上に悪いことなんて無いのだから、早く言いなさい。
大丈夫、驚いたり、怒ったりしないから……。

「実は……。封印していたわたくしの【加護の力】なんですけど……。一部どころか、全てをルシア様に渡してしまったみたいですの」
 ラミアはハニカミながらそう言った。

「…………!?」
 はぁぁぁぁぁ?
なんだってぇぇぇ、このアホ堕天使めぇー!
私の頭は真っ白になった。
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