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第50話 魔王の力と暴走と懇願

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「話が全く見えませんなあ、もう少し詳細を教えて頂けないでしょうか?」
 立花は和也に尋ねた。

「グレスの王族は代々【魔王の力】を受け継いで生まれてくるらしい。それは無視できるくらいの微弱なものが殆んどなのだが、俺の妻ルーシーはその例外だった。あるとき、【魔王の力】が暴走して、国は大混乱になった。俺は、なんとか力を抑える術を見つけて封印する事に成功したんだ」
 和也の話は続いた。

「俺達はその後結婚して、涼子が生まれた。生まれた瞬間気がついたよ、涼子には妻以上の【力】が宿っていることに…。俺は全てを解決するために必死で解決策を探した。そしてある作戦を思い付いた。元の世界に家族を連れていくという作戦だ。元の世界なら【魔王の力】も干渉できない可能性が高かった」
 和也は目を瞑り昔を思い出していた。

「幸い俺の寿命を縮めることと引き換えに、転移魔法は成功した。俺達は元の世界で平穏な生活を送っていた。しかし、一度暴走した妻の方の【力】は転移したくらいでは排除できなかった。ある日、【魔王の力】の封印が解けていきなり暴走した。そして、【力】に抵抗することが出来ずに妻は死んでしまった」
 和也はその後少し黙った。

「涼子は完全に【力】を排除することができていた。しかし、俺の妻の死を知らない過激派の連中が【魔王の力】を利用しようと動き始めていた。グレスの城門には俺達家族が転移してからずっと切り離された涼子の【魔王の力】が残っているからだ。奴らはそれをルーシーの【力】だと勘違いし、俺達の行方を血眼で探していた。」
 和也の話は続く。

「その動きを知った俺は、城門に残る【魔王の力】を完全に消して、過激派を殲滅させるためにもう一度ここに戻ることを決めた。本来は3日で片付ける計画になっていた、しかし味方の裏切りにより、俺は投獄された」
 和也はため息をついた。

「奴らはずっと俺が戻って来ることを待っていた。そして俺が捕まるとルーシーが来ると考えたのだろう。だから、俺はここに幽閉されている。あの写真は俺が全てを終わらせた後、涼子をこっちに呼ぶためのものだった。やつらに捕まったとき、俺は最後の力を振り絞って転送先の場所をずらすことに成功した。万が一この世界に涼子が来てもここには簡単にたどり着かないように」
 和也はここまで話すと立花の方を睨んだ。

「お前は考えられないくらい、早くここまで来れた。それだけで優秀なのはわかる。理不尽かもしれないが俺はお前が憎い。恐らく涼子にはもう【魔王の力】が戻っているだろう。もちろん捕まった俺が悪いことはわかっているんだ。しかし、無理を承知のしての話だが、今すぐ涼子を元の世界に戻してくれないか? やり方は教える。頼む…。このままだと本当に涼子は死んでしまう」
 和也は懇願した。

「過激派の連中はルーシーが死んだことをまだ知らない。今は、それが隠れ蓑になっている。しかし、涼子に【魔王の力】が戻ったことを知られれば、涼子の方を必ず狙ってくる。そうなる前に逃がしてほしい、今なら【力】の定着もそれほど進んで無いはずだ。お前の寿命を減らすことになるが、身勝手なお願いをしたい」
 映像はここで切れていた。

「私は君のお父さんの頼みにイエスと答えた。私は自分を過信していたよ。君をここへ連れてきたのは、私の自分本意の独善だったかもしれない。本当は、最初から少し嫌な予感はしていたんだ。あのときのように……」
 いつも自信満々だった立花さんはかなり落ち込んでいるように見えた。

「それでは、君を元の世界に戻そう」
立花はあたしの目を力無く見ていた。

「嫌です、こんな中途半端で戻れません。こんなの立花さんらしく無いじゃないですか、ちょっと父に言われたぐらいで何で承諾しちゃったんですか?」
 あたしは叫んだ。

「短い付き合いだったが、君のことは大切に思っている。普段格好つけていても、自分のせいで大切だと思った人をまた失うのは耐えきれないんだ」
 立花は虚ろな目をしていた。

「まあ、すぐに心の準備は出来ないだろう。1時間経ったらまたここで話そう。出来れば、ニーナくんのところに行っておきなさい。一人じゃ危ないからね」
 立花はそう言うと、あたしを見送った。

 あたしは悲しさと、寂しさで胸が張り裂けそうになった。
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