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第18話 憲兵隊と空腹と心音

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 憲兵隊が到着し、あたし達は小一時間事情聴取されて部屋に戻ることを許された。

「招待させて頂いたのにもかかわらず、この様な有り様で申し訳ない。その上、事件を解決してもらって。何とお礼を言えば良いか」
スタンレーは疲れ切った表情であたし達に頭を下げる。

「いやいや、私もトラブルには慣れてますので。お気になさらずに」
 立花は答えて、パーティー会場を出た。
 トラブル慣れって怖すぎる……。

「この様子じゃ、ルームサービスなんて頼めないだろうし、どこかに食べに行こうかねぇ」
 立花は頭を掻きながら提案した。

「そういえば、お腹空いてきました」
 あたしは、パーティーでは緊張してほとんど食べれなかったことを思い出した。

「その前に、服を着替えたいですわ」
 ニーナがそう言うと、あたしと立花は同時に頷いた。

「それじゃあ、着替えたら、少し歩くがおいしいシンポート料理屋に行こう。遅くまでやってるからさ」
 立花がそう提案した。

 少し経って、着替えが終わったあたし達は店に向かって歩き始めた。

「あたし、人ってあんな表情ができるなんて知りませんでした」
 毒入りのシャンパンが、出てきたときのケイトの顔を思い出す。

「まあ、彼女も本当は人殺しなんかなりたくは無かったんだろうねぇ。普通の人間ならそうさ」
 立花は歩きながら答える。
 
 ケイトの妊娠は嘘であったことも白日に晒された。
 彼女は、身分の高い貴族の家に嫁いで跡取りをすぐに求められたらしい。
 しかし、何ヶ月経っても出来なかった。
 そんなときガルシアから勧められたのは、偽りの妊娠。
 闇医師を紹介され少しずつお腹を大きくしてもらったそうだ。
 そして、身寄りのない男の子を受け取る手続きも手配されていた。
 だが、秘密を握っているガルシアは、ケイトを脅してを金品を受け取るようになっていたらしい。

 ガルシアからの要求はエスカレートしていき、遂にはクラウド殺害の共謀を持ちかける。

『このままじゃ一生搾り取られる。彼ガルシアを何とかしなければ‥そればかり考えていました。だから、このチャンスは絶対に逃せなかった』
 全てを話し終えたケイトの悲哀に満ちた表情をあたしはずっと忘れられないと思った。

「そういえば、ケイトさんはどうやって3本のシャンパンをすり替えたのですか?手品では無いですよね?」
 立花はあたしとは、別の憲兵隊員と話していたので詳細は知らずにいた。

「ああ、それはだねぇ。涼子くんがこの世界に来たときのことを思い出してごらん。スケールは全然違うが、原理は同じなんだ」
 立花はヒントを出した。

 あたしがこっちの世界に来たとき‥写真に書かれている言葉を詠んで‥体が消えて‥

「あっ……、転移魔法」
 あたしは呟いた。

「ビンゴ!正解だよ。短い距離で移動させる物体の質量は君のときとは比べ物にならないくらい小さいけどね。もちろん君の質量が大きいとか言っているわけではないよ」
 立花が軽口を混ぜる。

「先生、また余計なことを言っていますわ」
 ニーナは疲れた顔をしていたが、いつものように咎めた。

「ははっ失敬。ほらっ私も長い時間、真面目な顔をしていたからねぇ」
 立花は悪びれずにニヤリと笑っていた。

「でも、よくあんなに大胆なことをニーナさんに指示しましたね。ホント、びっくりしました」
 あたしは、ニーナがケイトの腹を一刀両断した時の事を思い出した。

「まあ、私も流石に確信もなくあんなこと支持出すような酔狂ではないさ。ははっ」
 立花は笑いながら答えた。

「実はケイトさんのお腹に関しては最初から少し変だと思っていたんだよ。彼女は一度もお腹を撫ぜたり、庇ったりというような仕草を見せなかったからねぇ」
 立花は髭を触りだした。

「でも、それだけではわかりませんよね?」
 あたしは、当然の疑問を言った。

「確信したのは、クラウドくんのシャンパンをグラスに注ぐとき。実はあの時これを使って聞いてみたんだ。ケイトさんのお腹の音をね」
 立花はポケットから、小さな紫色の紙を出した。

「これを対象の場所に付けると、半径1m以内の音をかなり正確に拾ってくれる。しかし、どうしても彼女のお腹からは聞こえなかった。胎児の心音も何もかもね。だから、あのお腹は偽物だと確信したのさ」
 あたしは、立花の説明を聞いて感嘆した。

「すごーい。全然そんなことしているなんて気づきませんでした。ニーナさんが、思いっきり切ることができたのはそういうことかあ」
 あたしは尊敬の眼差しを立花に送った。

「あのう。私……、今の話は初耳でしたわ……」
ニーナは真顔で話した。

「えっ、言ってなかったかなあ。ははっ」
 立花は額から汗が出ていた。

「もう、先生は余計なことは人一倍おっしゃられるくせに、大事なことを‥。私、私は、すごく怖かったのですわよ!」
 ニーナは頬を膨らまして、怒りを露わにした。

「あっちょうど、お店に着いたねぇ。ニーナくん、お詫びに甘いものでもどうかね。何でも食べたまえ」
 立花は、逃げるように店内に入った。

「もうっ、仕方のない先生ですわ」
 ニーナは諦めた顔をしていた。

(でも、立花さんのこと信じていたから切ることが出来たってことよね)
 あたしが思っている以上にニーナの立花に対する【信頼】は大きいみたいだった。
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