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32 コネクト
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多分、今の私はすっごく間抜けな顔になっていると思う。抜け殻っていうか、なんというか、魂がどこかに行ってしまったという表現が近いのか?
「今のあなたの反応を見たらぁ、あの世のルシアはどんな顔をするかしらねぇ。大抵、女の子に性別を告げると残念がられるけど、これほどのリアクションは見たことなかったわぁ」
面白そうなモノを見るような表情でフィーナは私を見つめていた。
それほど酷い顔だったのだろう。
だって、ショックだったし……。
「すっすいません。だって、ルシアさんのこと何百年も男の人だと思ってましたから。それなりにショックです。あーあ、確かに罪な人ですねー」
私はかろうじて立ち直り、フィーナの言葉に返事をした。
「あらぁ、あなたがそれを言っちゃうのぉ? あなたもあの人に負けないくらい魅惑的だと思ったけどぉ。特に、シェフの緑の髪の娘なんてぇ、あなたに夢中みたいだけどぉ」
緑の髪って、リーナのこと? それって一体……。
「りっリーナが私にって……。そんなはず――」
「へぇ、あの娘、リーナっていうのねぇ。彼女の抱いている恋心にも気付かないなんて、鈍感なんだからぁ」
「ううっ、だって私は特に何も……」
「あなたには、頑張って似せようとした『ルシア』の厄介な部分まで感染っているのよ。自覚なさぁい。その姿、その仕草が、女を惑わせる。さらに、男も引き寄せるだけの魅力まで残してるのだから……」
なんか、私が節操なく周りを振り回しているみたいなことを言われてるような気がする。
フィーナは初めて会った私になぜここまで言うのだろう?
「今、なんで初対面なのに、こんなに言うんだろうとか思ってるでしょぉ?」
「へっ、いや、声に出てましたか?」
びっくりして私は聞き返す。この人、読心術でも使えるの?
「読心術は使えないわよぉ。何でも知っているだけだからぁ」
「いや、今、まさに使ってるじゃないですか!」
私はすかさずツッコミを入れた。ダメだ、ペースを乱される。
「それはそうと、『魔導保温庫』の話なんだけどぉ――」
フィーナは唐突に『魔導保温庫』の話を切り出した。
このタイミングって、いや、ずっと気になってはいたけどさ。
「ルシア=ノーティス。妾、あなたのことが気に入ったわぁ。だからぁ――」
彼女の目が妖しく光る。
そして、立ち上がり、近づけて私の耳元に唇を近づけた。
「妾のモノになりなさぁい。全てから解き放ってあげるわぁ。前世の因果からも、日常の煩わしさからも……。妾が力さえ貸せば出来ないことは何もない……」
妖艶な口調で甘い言葉を私に囁く。私の運命の鎖など簡単に破壊して見せるというような口ぶりだった。
フィーナのモノになればの話だったが……。
「――ごめんなさい。フィーナ様のモノにはなれません」
私の答えはノーだった。だって、怖いし、そういう趣味もないし。多分……。
それに、今の私はそれなりに幸せを感じているんだ。見た目は偽りかもしれないけど、心は偽っていないから――。
「あら、残念ねぇ。じゃあ、お茶友達で良いわ」
軽っ! 結構、ビビりながら断ったんだけど……。石にされたりとかありそうじゃん。
「石にしようって、あなた、妾を何だと思ってるのよぉ。失礼ねぇ、で、友達になるの? ならないの?」
また、心を読まれてしまったみたいだ。友達かぁ、うん、それなら――。
「はっ、ごめんなさい。友達でしたら、喜んで!」
「よろしい。じゃっ、保温庫あげちゃうから」
やっぱり、軽っ!
でも、まぁ、『魔導保温庫』が手に入るのならいいのかな? でもなぁ……。
「私なんかと友達になって、フィーナ様には何もメリットがないと思うのですが……」
私はフィーナと親しかった『ルシア』とは全然違うし……。
「あなたは確かにあの人じゃないけどぉ、“面白い”からいいのよ。久しぶりに興味深いヒトと出会えたわぁ」
面白いからって……。500年以上生きている魔法使いの方がよっぽどだと思うけどな……。
「それを言ったら、あなたなんて前世を合わせたら1000歳以上じゃなぁい。その割には残念なところが多いけどぉ、そういうのも含めて可愛いわぁ」
「――そっそれを言わないでください」
長く生きてる割には、精神的に成長出来てないことは自覚している。多分、年を取るっていう経験をしてないからだと思う。
かくして、私は魔導教授フィーナとお茶友達になった。
フィーナは本当に私を気に入ってくれたようで、店によく来てくれる上に、私の良き相談相手にもなってくれたのである。
人生って何が起こるかわからない。89回目の人生にして、そんな当たり前のことをしみじみ実感していたりする。
何はともあれ『魔導保温庫』が手に入って良かった。リーナも喜んでいた。
「うわぁ、支配人、ありがとうございます! 私、もっと支配人に喜んでもらえるようにお仕事頑張っちゃいますねー」
リーナはニコニコしながら、私の手を握った。
うーん、確かに彼女が私を慕ってくれてるのはわかるけど、これが恋愛感情なのかというのはよくわからない。
そんな話をフィーナにしたら、『リーナに同情するわぁ』とか言われて、横で聞いてたメリルリアは『浮気はだめですわよ』とか言われてしまった。
浮気って、えっと、メリルリアの中では私との関係ってどうなっているの?
その上、ケビンからは『擁護出来なくて悪ぃな』と珍しく真剣な顔をして言われた始末である。
解せぬ……。
そんな人間関係に悩む暇もなく日に日に忙しくなっていくレストラン。
そろそろ新たな人手も欲しくなってきたけど、どこかにいい人いないかなぁ?
「今のあなたの反応を見たらぁ、あの世のルシアはどんな顔をするかしらねぇ。大抵、女の子に性別を告げると残念がられるけど、これほどのリアクションは見たことなかったわぁ」
面白そうなモノを見るような表情でフィーナは私を見つめていた。
それほど酷い顔だったのだろう。
だって、ショックだったし……。
「すっすいません。だって、ルシアさんのこと何百年も男の人だと思ってましたから。それなりにショックです。あーあ、確かに罪な人ですねー」
私はかろうじて立ち直り、フィーナの言葉に返事をした。
「あらぁ、あなたがそれを言っちゃうのぉ? あなたもあの人に負けないくらい魅惑的だと思ったけどぉ。特に、シェフの緑の髪の娘なんてぇ、あなたに夢中みたいだけどぉ」
緑の髪って、リーナのこと? それって一体……。
「りっリーナが私にって……。そんなはず――」
「へぇ、あの娘、リーナっていうのねぇ。彼女の抱いている恋心にも気付かないなんて、鈍感なんだからぁ」
「ううっ、だって私は特に何も……」
「あなたには、頑張って似せようとした『ルシア』の厄介な部分まで感染っているのよ。自覚なさぁい。その姿、その仕草が、女を惑わせる。さらに、男も引き寄せるだけの魅力まで残してるのだから……」
なんか、私が節操なく周りを振り回しているみたいなことを言われてるような気がする。
フィーナは初めて会った私になぜここまで言うのだろう?
「今、なんで初対面なのに、こんなに言うんだろうとか思ってるでしょぉ?」
「へっ、いや、声に出てましたか?」
びっくりして私は聞き返す。この人、読心術でも使えるの?
「読心術は使えないわよぉ。何でも知っているだけだからぁ」
「いや、今、まさに使ってるじゃないですか!」
私はすかさずツッコミを入れた。ダメだ、ペースを乱される。
「それはそうと、『魔導保温庫』の話なんだけどぉ――」
フィーナは唐突に『魔導保温庫』の話を切り出した。
このタイミングって、いや、ずっと気になってはいたけどさ。
「ルシア=ノーティス。妾、あなたのことが気に入ったわぁ。だからぁ――」
彼女の目が妖しく光る。
そして、立ち上がり、近づけて私の耳元に唇を近づけた。
「妾のモノになりなさぁい。全てから解き放ってあげるわぁ。前世の因果からも、日常の煩わしさからも……。妾が力さえ貸せば出来ないことは何もない……」
妖艶な口調で甘い言葉を私に囁く。私の運命の鎖など簡単に破壊して見せるというような口ぶりだった。
フィーナのモノになればの話だったが……。
「――ごめんなさい。フィーナ様のモノにはなれません」
私の答えはノーだった。だって、怖いし、そういう趣味もないし。多分……。
それに、今の私はそれなりに幸せを感じているんだ。見た目は偽りかもしれないけど、心は偽っていないから――。
「あら、残念ねぇ。じゃあ、お茶友達で良いわ」
軽っ! 結構、ビビりながら断ったんだけど……。石にされたりとかありそうじゃん。
「石にしようって、あなた、妾を何だと思ってるのよぉ。失礼ねぇ、で、友達になるの? ならないの?」
また、心を読まれてしまったみたいだ。友達かぁ、うん、それなら――。
「はっ、ごめんなさい。友達でしたら、喜んで!」
「よろしい。じゃっ、保温庫あげちゃうから」
やっぱり、軽っ!
でも、まぁ、『魔導保温庫』が手に入るのならいいのかな? でもなぁ……。
「私なんかと友達になって、フィーナ様には何もメリットがないと思うのですが……」
私はフィーナと親しかった『ルシア』とは全然違うし……。
「あなたは確かにあの人じゃないけどぉ、“面白い”からいいのよ。久しぶりに興味深いヒトと出会えたわぁ」
面白いからって……。500年以上生きている魔法使いの方がよっぽどだと思うけどな……。
「それを言ったら、あなたなんて前世を合わせたら1000歳以上じゃなぁい。その割には残念なところが多いけどぉ、そういうのも含めて可愛いわぁ」
「――そっそれを言わないでください」
長く生きてる割には、精神的に成長出来てないことは自覚している。多分、年を取るっていう経験をしてないからだと思う。
かくして、私は魔導教授フィーナとお茶友達になった。
フィーナは本当に私を気に入ってくれたようで、店によく来てくれる上に、私の良き相談相手にもなってくれたのである。
人生って何が起こるかわからない。89回目の人生にして、そんな当たり前のことをしみじみ実感していたりする。
何はともあれ『魔導保温庫』が手に入って良かった。リーナも喜んでいた。
「うわぁ、支配人、ありがとうございます! 私、もっと支配人に喜んでもらえるようにお仕事頑張っちゃいますねー」
リーナはニコニコしながら、私の手を握った。
うーん、確かに彼女が私を慕ってくれてるのはわかるけど、これが恋愛感情なのかというのはよくわからない。
そんな話をフィーナにしたら、『リーナに同情するわぁ』とか言われて、横で聞いてたメリルリアは『浮気はだめですわよ』とか言われてしまった。
浮気って、えっと、メリルリアの中では私との関係ってどうなっているの?
その上、ケビンからは『擁護出来なくて悪ぃな』と珍しく真剣な顔をして言われた始末である。
解せぬ……。
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