4 / 13
4.王太子と元聖女
しおりを挟む
サイラス殿下と呼ばれた銀髪の男性は、追ってきた二人の男女に勝手にアストリア王国に入るな、と言われています。
「ごめん、ごめん。つい、大物を見つけて危ないって思ったからな。それより、聞いてくれよ。こちらの――、あれ? そういえば、名前を聞いていなかったな。俺はサイラス・エムルエスタ。こう見えてもエムルエスタ王家の者だ」
彼はやはりサイラスと名乗り、灰色のマントを捲り、襟に縫い付けられているエムルエスタ王家の紋章が刻まれた金バッジを見せます。
王家の者しか持たない特別な金バッジ。偽物の可能性は低いでしょう。
しかし、一体、なぜ……、こんなところに。
「リルア・サウシールです。訳あって、アストリア王国から追放処分を受けており、現在はその道中です」
「おおーっ! リルア・サウシールの名前は知っているぞ。アストリア王国の聖女じゃないか。なるほど、なるほど。それで、あの馬鹿げた魔力を持っていたのか」
どうやらサイラス殿下は私のことを聖女だと認知してくれているみたいですね。
私などの名前が隣国にまで届いているとは思いませんでした。
あれ? そういえば、追放処分された話をスルーされたような……。
「で、殿下、その聖女様が追放されているとは、只事ではない気がするのですが」
気弱そうな黒髪の青年が小声でサイラス殿下に私がワケアリそうだということを話しています。
なんだか、苦労されていそうな方ですね……。
「んー、追放か。なるほど、結界が無くなったことと関係しているのかい? あの国一つを覆い尽くす巨大な結界は君が張っていたのだろ?」
「そうです。神具の力を借りて、張っていました。……しかし、神具は破壊されてしまい、その罪を擦り付けられた私は追放処分に」
「んっ? なんだそれ? 詳しく聞かせてくれ」
「は、はい。ええーっと――」
擦り付けられた、と話すと殿下は私の両肩を掴み詳しい事情を説明してほしいと仰せになりました。
私はつい、先程の理不尽を全部話してしまいます。
たった今、会ったばかりの王太子殿下が信じてくれるとは思いませんでしたが……。
「あーあ、そのミゲルさんとやら。やらかしたぞ。神具による結界が無くなったら、さっきみたいなダークドラゴンのような魔物が元気になる。……お前たち、アストリアの憲兵なんだろ?」
「「は、はい!」」
話を全て聞き終えたサイラス殿下は事態を重く見たのか、渋い顔をして憲兵たちに話しかけます。
私の話したこと、全て信じてくださるのでしょうか……。
「至急、アストリア王国の防衛を強化するように、聖地を管理している公爵殿に進言してくるんだ。急がないと、甚大な被害が出るぞ。リルア・サウシールはこのサイラス・エムルエスタが王宮で責任を持って保護する!」
「「――っ!?」」
サイラス殿下は憲兵たちに急いで防衛を強化するようにミゲル様のお父様である公爵様に伝えるように命じました。
確かに由々しき事態です。結界を張っていた私自身もあのような魔物がこんなにも早く姿を見せるとは思いませんでしたから。
それにしても――。
「サイラス殿下は私を保護すると仰せになりましたか? 追放処分を受けたというような私を」
「だって、それは不当なのだろう?」
「いえ、それはそうなのですが。信じて下さるのですか?」
話を鵜呑みにして、保護すると断言された殿下に私は驚きました。
もしかしたら、私が嘘を言っているかもしれませんのに。
「ダークドラゴンから必死で憲兵たちを守ろうとしていた君が嘘を言うとは思えない。安心してくれ。エムルエスタ王国は君のことを歓迎する!」
力強くて、それでいて温かい言葉でサイラス殿下は私のことを迎え入れてくれると仰せになりました。
信じて頂けることがこんなにも嬉しいなんて、今日まで知らなかったと思います――。
「ごめん、ごめん。つい、大物を見つけて危ないって思ったからな。それより、聞いてくれよ。こちらの――、あれ? そういえば、名前を聞いていなかったな。俺はサイラス・エムルエスタ。こう見えてもエムルエスタ王家の者だ」
彼はやはりサイラスと名乗り、灰色のマントを捲り、襟に縫い付けられているエムルエスタ王家の紋章が刻まれた金バッジを見せます。
王家の者しか持たない特別な金バッジ。偽物の可能性は低いでしょう。
しかし、一体、なぜ……、こんなところに。
「リルア・サウシールです。訳あって、アストリア王国から追放処分を受けており、現在はその道中です」
「おおーっ! リルア・サウシールの名前は知っているぞ。アストリア王国の聖女じゃないか。なるほど、なるほど。それで、あの馬鹿げた魔力を持っていたのか」
どうやらサイラス殿下は私のことを聖女だと認知してくれているみたいですね。
私などの名前が隣国にまで届いているとは思いませんでした。
あれ? そういえば、追放処分された話をスルーされたような……。
「で、殿下、その聖女様が追放されているとは、只事ではない気がするのですが」
気弱そうな黒髪の青年が小声でサイラス殿下に私がワケアリそうだということを話しています。
なんだか、苦労されていそうな方ですね……。
「んー、追放か。なるほど、結界が無くなったことと関係しているのかい? あの国一つを覆い尽くす巨大な結界は君が張っていたのだろ?」
「そうです。神具の力を借りて、張っていました。……しかし、神具は破壊されてしまい、その罪を擦り付けられた私は追放処分に」
「んっ? なんだそれ? 詳しく聞かせてくれ」
「は、はい。ええーっと――」
擦り付けられた、と話すと殿下は私の両肩を掴み詳しい事情を説明してほしいと仰せになりました。
私はつい、先程の理不尽を全部話してしまいます。
たった今、会ったばかりの王太子殿下が信じてくれるとは思いませんでしたが……。
「あーあ、そのミゲルさんとやら。やらかしたぞ。神具による結界が無くなったら、さっきみたいなダークドラゴンのような魔物が元気になる。……お前たち、アストリアの憲兵なんだろ?」
「「は、はい!」」
話を全て聞き終えたサイラス殿下は事態を重く見たのか、渋い顔をして憲兵たちに話しかけます。
私の話したこと、全て信じてくださるのでしょうか……。
「至急、アストリア王国の防衛を強化するように、聖地を管理している公爵殿に進言してくるんだ。急がないと、甚大な被害が出るぞ。リルア・サウシールはこのサイラス・エムルエスタが王宮で責任を持って保護する!」
「「――っ!?」」
サイラス殿下は憲兵たちに急いで防衛を強化するようにミゲル様のお父様である公爵様に伝えるように命じました。
確かに由々しき事態です。結界を張っていた私自身もあのような魔物がこんなにも早く姿を見せるとは思いませんでしたから。
それにしても――。
「サイラス殿下は私を保護すると仰せになりましたか? 追放処分を受けたというような私を」
「だって、それは不当なのだろう?」
「いえ、それはそうなのですが。信じて下さるのですか?」
話を鵜呑みにして、保護すると断言された殿下に私は驚きました。
もしかしたら、私が嘘を言っているかもしれませんのに。
「ダークドラゴンから必死で憲兵たちを守ろうとしていた君が嘘を言うとは思えない。安心してくれ。エムルエスタ王国は君のことを歓迎する!」
力強くて、それでいて温かい言葉でサイラス殿下は私のことを迎え入れてくれると仰せになりました。
信じて頂けることがこんなにも嬉しいなんて、今日まで知らなかったと思います――。
5
お気に入りに追加
2,471
あなたにおすすめの小説
婚約破棄、果てにはパーティー追放まで!? 事故死を望まれた私は、第2王子に『聖女』の力を見出され性悪女にざまぁします
アトハ
恋愛
「マリアンヌ公爵令嬢! これ以上貴様の悪行を見過ごすことはできん! 我が剣と誇りにかけて、貴様を断罪する!」
王子から突如突き付けられたのは、身に覚えのない罪状、そして婚約破棄。
更にはモンスターの蔓延る危険な森の中で、私ことマリアンヌはパーティーメンバーを追放されることとなりました。
このまま私がモンスターに襲われて"事故死"すれば、想い人と一緒になれる……という、何とも身勝手かつ非常識な理由で。
パーティーメンバーを追放された私は、森の中で鍋をかき混ぜるマイペースな変人と出会います。
どうにも彼は、私と殿下の様子に詳しいようで。
というかまさか第二王子じゃないですか?
なんでこんなところで、パーティーも組まずにのんびり鍋を食べてるんですかね!?
そして私は、聖女の力なんて持っていないですから。人違いですから!
※ 他の小説サイト様にも投稿しています
妹は聖女に、追放された私は魔女になりました
リオール
恋愛
母の死と同時に現れた義母と異母妹のロアラ。
私に無関心の父を含めた三人に虐げられ続けた私の心の拠り所は、婚約者である王太子テルディスだけだった。
けれど突然突きつけられる婚約解消。そして王太子とロアラの新たな婚約。
私が妹を虐げていた?
妹は──ロアラは聖女?
聖女を虐げていた私は魔女?
どうして私が闇の森へ追放されなければいけないの?
どうして私にばかり悪いことが起こるの?
これは悪夢なのか現実なのか。
いつか誰かが、この悪夢から私を覚ましてくれるのかしら。
魔が巣くう闇の森の中。
私はその人を待つ──
馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます
白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。
そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。
最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。
『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』
結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る
青の雀
恋愛
婚約破棄から聖女にUPしようとしたところ、長くなってしまいましたので独立したコンテンツにします。
卒業記念パーティで、その日もいつもと同じように婚約者の王太子殿下から、エスコートしていただいたのに、突然、婚約破棄されてしまうスカーレット。
実は、王太子は愛の言葉を囁けないヘタレであったのだ。
婚約破棄すれば、スカーレットが泣いて縋るとおもっての芝居だったのだが、スカーレットは悲しみのあまり家出して、自殺しようとします。
寂れた隣国の教会で、「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない。」司祭様の言葉を信じ、水晶玉判定をすると、聖女であることがわかり隣国の王太子殿下との縁談が持ち上がるが、この王太子、大変なブサメンで、転移魔法を使って公爵家に戻ってしまう。
その後も聖女であるからと言って、伝染病患者が押しかけてきたり、世界各地の王族から縁談が舞い込む。
聖女であることを隠し、司祭様とともに旅に出る。という話にする予定です。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
駒として無能なお前は追放する?ええ、どうぞ?けど、聖女の私が一番権力を持っているんですが?
水垣するめ
恋愛
主人公エミリー・ヘミングスは男爵家の令嬢として生まれた。
しかし、父のトーマスから聖女として働くことを強制される。
聖女という地位には大きな権力と名声、そして金が入ってくるからだ。
エミリーは朝から晩まで働かされ、屋敷からも隔離され汚い小屋で暮すことを強要される。
一度駒として働くことが嫌になってトーマスに「聖女をやめたいです……」と言ったが、「駒が口答えするなっ!」と気絶しそうになるぐらいまで殴られた。
次に逆らえば家から追放するとまでいわれた。
それからエミリーは聖女をやめることも出来ずに日々を過ごしてきた。
しかしエミリーは諦めなかった。
強制的に働かされてきた聖女の権力を使い、毒親へと反撃することを決意する。
冷遇された王女は隣国で力を発揮する
高瀬ゆみ
恋愛
セシリアは王女でありながら離宮に隔離されている。
父以外の家族にはいないものとして扱われ、唯一顔を見せる妹には好き放題言われて馬鹿にされている。
そんな中、公爵家の子息から求婚され、幸せになれると思ったのも束の間――それを知った妹に相手を奪われてしまう。
今までの鬱憤が爆発したセシリアは、自国での幸せを諦めて、凶帝と恐れられる隣国の皇帝に嫁ぐことを決意する。
自分に正直に生きることを決めたセシリアは、思いがけず隣国で才能が開花する。
一方、セシリアがいなくなった国では様々な異変が起こり始めて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる