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元魔王城(142〜)

157 立派なマント

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 今や目的が元魔王城の迷宮攻略と打って変わった旅の進行具合は、本来超特急で王都ノルンを目指すべきであることさえ思い出さなければ、大変に捗々しいものであると言えた。
 それも戦力になるS級どころかA級冒険者すら同行しない集団で、この超高難度の迷宮を一日に二部屋も攻略するというのは記録的な快挙である。まあ、レオハルトに関しては魔法使いのみならず剣士としての技量や頭脳、知識を加味して総合的にA級かS級冒険者あたりの実力があることは疑いようもない。さらに、兵士らの中にもA級冒険者より優れた剣技を持つ者がいるようであった。
 また、トレントの杖を振り回すミハルも、魔法使いという役目を差し引いた物理攻撃力だけでA級冒険者に昇格できそうだった。
 それにリンはもっと強いし、ソロウとギムナックが安定した実力を発揮していること、また、ヴンダーの豊富な知識は大いに攻略を助けている。そして、戦闘経験の浅いフルルは足手まといになっていないだけでも十分だろう。



 次の部屋は、ヴンダーが攻略した中で最奥となる六つ目の部屋である。

「ここには吸血鬼ヴァンパイアが居ます。正直、何人かは殺されるかも知れませんが、本当に進むんですか?」

 ニジメとネペルンの部屋の手前と同じく、黒い床と壁ばかりの何も無い部屋で恐る恐る言ったヴンダー・トイには、かつて大陸随一の天才魔法使いと呼ばれた面影など何処にも無いように見えた。
 魔狼リンは「愚問」と言わんばかりに、咥えていた寝袋でヴンダーを押し倒した。少女フルルは「行かなきゃ此処まで来た意味がないだろ」と果敢に振る舞い、これに兵士らが賛同し、ソロウとミハルとレオハルトもしっかりと頷いた。
 ただ、ギムナックだけはそれどころではないようである。

「どうだ、神が降臨されたような気がしなかったか? 確かに俺の頭には感触が残っているんだよ。何か、とても有り難い感触が。きっと神がお出ましになられたに違いないと思うんだ。どうして誰も覚えていないんだ? 何故誰も信じてくれないんだ?」──少し前からずっとこの調子である。

 そして、リュークはスライムに泥団子を与えている。聞けば、餌だという。

「ギムナック、お前を信じていない訳じゃないぜ。なあ、分かるだろう? 神は確かにここへ来て俺らを助けてくれたのかも知れねえさ。ただ、俺にはその記憶が無ぇだけなんだ」

「眩い光を見た気がするんだ。その中に、さらに光を見た。あれは神に違いなかった」

「そうかも知れねえとは思ってるとも、ギムナック。お前が言うなら特にな」

「いいや、そう思っているようには見えないんだよ、ソロウ。本当に覚えていないのか? 皆、信じ難い奇跡を認めたくないだけなんじゃないのか……? 違うのか? 俺が夢を見ただけなのか……? しかし、あれが夢だとは──」

 主張は次第にぶつぶつと独り言へ変わり、髭剃りを怠って青くなった顎に手をやりながら俯くギムナック。
 見かねたミハルがギムナックの腰を軽く叩いて励ましたところ、神一色だったギムナックの脳裏に先程の暴力的な女の姿が過ぎり、思わず巨体がびくりと跳ねる。

「何よ、その反応は」と、ミハルが白けた目で睨む。ギムナックはたじたじになって「なんでもない」と引っ込みながら、偶然にリュークと目を合わせた。


「『ベンキョーしろ』って言ってた」


 リュークが脈絡なくさらりと告げたので、一同は時が止まったように一通りぽかんとして、それからすぐに少年の発言の意味を考え始めた。








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