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元魔王城(142〜)
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リュークは拳を少し引いて、前へ振り下ろした。まるで握った短剣を目の前の何かに突き立てるような動作だった。連動して動いたのは、レオハルトの剣であった。レオハルトの握る剣がリッチの大鎌を抗えない絶対の力でもって圧し上げ、リッチの体ごと空中へ打ち上げた瞬間、今度はその剣が真上からリッチの胸を貫き、祭壇に突き刺さったのだ。
傍目に見れば、つま先立ちか宙に浮いているレオハルトがとんでもない押し出しでリッチを空中へ打ち上げてから、とんでもない跳躍力で飛び上がったあと、とんでもなく格好良い形でリッチに剣を突き立て、とんでもない勢いで祭壇へ刺し貫いた状態である。
「……すげぇ」
誰かの口からこぼれ落ちた一言を皮切りに、大歓声と拍手が巻き起こった。リッチに召喚されていたスケルトンやアンデッドたちは砂のように崩れ落ちて跡形も無く消えた。リンは尻尾を振り回して祭壇の周囲を飛び跳ねた。レオハルトは祭壇の上で、まるでリッチを押さえつけるように片膝をついたまま、リッチの胸骨に囲まれた心臓のようなものに突き刺さっている剣の柄から手を離せずにいる。俯いた顔がにわかに熱を持ち始めている。
リッチは現実を受け止められていないようだった。大喝采のなかでただ静止し、自分の命が消えていくことにも気づいていない様子だった。
やがて死神の姿が光る粒子となってかき消えると、祭壇には片膝立ちで剣を突き立てる格好良い姿ままのレオハルトと、死神の大鎌だけが残された。
「いやあ、すごかったぜ!」
「まるで神使のようだったぞ、レオハルト!」
「驚いたわ、勇者もびっくりの一撃ね!」
「天才だ!」「最高だ!」「恐れ入った!」「素敵!!」「愛してる!」「側近!」
やんやの大騒ぎである。レオハルトは、いよいよ顔を上げられない。
すげえ、すげえな、となおも呟くソロウと、同じく感動しきりのギムナックとミハルは、しかしリュークを探さねばと再び振り向こうとした。そのとき、小さな手がミハルの手を握った。
「……っ、リューク!」
ミハルが喫驚して転倒し、手を引っ張って転倒を阻止しようとしたリュークも耐え切れず一緒に倒れこんだ。
ソロウとギムナックが急いで駆け寄る。兵士らもはっとして振り返り、レオハルトもやっとのことで顔を上げた。
「大きいのが来るよ」
床に寝そべったまま、不意に生まれた静寂を破ってリュークが言った。が、周りにいる大人たちはすぐに理解しなかった。
(──まさか)
祭壇の上のレオハルトが逸早く異変を探そうと目を走らせる。部屋の中、壁、床、天井。しかし、何もない。
(何だ、この嫌な気配は)
眉を寄せて、さらに視線を巡らせて、思わずあっと声を上げる。結界が──。
「油断しちゃ駄目だ! まだ結界が消えてない!」
ヴンダーの叫ぶ声。
大人たちは誰も動けない。
ああ、と諦めのような声がミハルの頭の中でした。
「大きいね」
少年は、立派なカブトムシを見つけたときのように胸を踊らせて言った。
リンは天井を見上げて唸っている。そうしながらも尻尾を振っている。
「どうしたんだ!? ボスを倒したんじゃないのか?」
外でフルルがヴンダーに詰め寄っている。
「え、え、倒したと思ったんだけど……なんでかな? うん、なんで?」
ヴンダーにも分からない。分からないと思っている。解りたくないと思っている。
──祭壇で失われる命は、全て供物とされるのだ。
傍目に見れば、つま先立ちか宙に浮いているレオハルトがとんでもない押し出しでリッチを空中へ打ち上げてから、とんでもない跳躍力で飛び上がったあと、とんでもなく格好良い形でリッチに剣を突き立て、とんでもない勢いで祭壇へ刺し貫いた状態である。
「……すげぇ」
誰かの口からこぼれ落ちた一言を皮切りに、大歓声と拍手が巻き起こった。リッチに召喚されていたスケルトンやアンデッドたちは砂のように崩れ落ちて跡形も無く消えた。リンは尻尾を振り回して祭壇の周囲を飛び跳ねた。レオハルトは祭壇の上で、まるでリッチを押さえつけるように片膝をついたまま、リッチの胸骨に囲まれた心臓のようなものに突き刺さっている剣の柄から手を離せずにいる。俯いた顔がにわかに熱を持ち始めている。
リッチは現実を受け止められていないようだった。大喝采のなかでただ静止し、自分の命が消えていくことにも気づいていない様子だった。
やがて死神の姿が光る粒子となってかき消えると、祭壇には片膝立ちで剣を突き立てる格好良い姿ままのレオハルトと、死神の大鎌だけが残された。
「いやあ、すごかったぜ!」
「まるで神使のようだったぞ、レオハルト!」
「驚いたわ、勇者もびっくりの一撃ね!」
「天才だ!」「最高だ!」「恐れ入った!」「素敵!!」「愛してる!」「側近!」
やんやの大騒ぎである。レオハルトは、いよいよ顔を上げられない。
すげえ、すげえな、となおも呟くソロウと、同じく感動しきりのギムナックとミハルは、しかしリュークを探さねばと再び振り向こうとした。そのとき、小さな手がミハルの手を握った。
「……っ、リューク!」
ミハルが喫驚して転倒し、手を引っ張って転倒を阻止しようとしたリュークも耐え切れず一緒に倒れこんだ。
ソロウとギムナックが急いで駆け寄る。兵士らもはっとして振り返り、レオハルトもやっとのことで顔を上げた。
「大きいのが来るよ」
床に寝そべったまま、不意に生まれた静寂を破ってリュークが言った。が、周りにいる大人たちはすぐに理解しなかった。
(──まさか)
祭壇の上のレオハルトが逸早く異変を探そうと目を走らせる。部屋の中、壁、床、天井。しかし、何もない。
(何だ、この嫌な気配は)
眉を寄せて、さらに視線を巡らせて、思わずあっと声を上げる。結界が──。
「油断しちゃ駄目だ! まだ結界が消えてない!」
ヴンダーの叫ぶ声。
大人たちは誰も動けない。
ああ、と諦めのような声がミハルの頭の中でした。
「大きいね」
少年は、立派なカブトムシを見つけたときのように胸を踊らせて言った。
リンは天井を見上げて唸っている。そうしながらも尻尾を振っている。
「どうしたんだ!? ボスを倒したんじゃないのか?」
外でフルルがヴンダーに詰め寄っている。
「え、え、倒したと思ったんだけど……なんでかな? うん、なんで?」
ヴンダーにも分からない。分からないと思っている。解りたくないと思っている。
──祭壇で失われる命は、全て供物とされるのだ。
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