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無限の迷宮(110〜)
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しおりを挟む階段探しには、膨大な時間を要すると思われた。何せ、一階降りるたびに階層の広さが倍になるというギムナックの見立てが正しいとすれば、地下七階層は地下一階層の実に六十四倍の広さであることになる。地下一階層が二町(一町=3000坪)として、その六十四倍となるとまあ広大であり、しかも迷路である。
ところが、ご機嫌なリンは迷うことなく階段を見つけることが出来、続く地下八階層も地下九階層も一行はひたすらリンの後ろを歩くだけでよかった。しかも、迷宮内の魔力が薄いので途中からは馬に乗ることも出来た。馬は階段では仕舞って、通路では出すのを繰り返した。ただ進むだけで、何の困難もなかった。
そうであっても手持ちの食糧や馬の干し草の量には限りがあり、二日も歩き続けたころには、大人たちは殆ど絶望感の中に身を置いていた。ただでさえ迷宮経験がなく旅慣れしていないフルルなどは、気持ちが不安定になり、度々涙を零すことがあった。
あと何回降りれば迷路が終わるのかとリュークに尋ねてみたところで、数を数えるのが苦手なリュークの答えに信憑性がないことは前もって証明済みである。
一行がそうして進み続け、地下十六階層だか地下十七階層だかで下りの階段へ辿り着いたとき、ついにリンに跨るリュークが振り向いた。
「空っぽの部屋があって、次は蛇の部屋があるんだ。それで、木の部屋があって、洞窟の迷路があるよ」
おお、と誰かから小さな声が漏れた。大人たちの殆ど光を失っていた目に、再び明るさが戻ってきた。
「偉いわリューク、リン。よく覚えていたわね」
ミハルが褒めると、二人は嬉しそうに頷いた。
兵士たちも冒険者たちも、リンとリュークの後を我先にと競うようにして階段を降りた。この気の狂いそうなほど変わり映えしない迷路から一刻も早く視界を改めたかった。
「……やった。やったぞ!」
階段を下りきった兵士の一人が、心からの歓声を上げた。その歓声は次々に伝染し、やがて大歓声となり石壁石床の空っぽの部屋を震わせた。
迷宮では珍しく何も無い部屋である。大きな城のエントランス程の広さがあって、壁には室内を満遍なく照らすだけの松明が掛かっている。
ギムナックは真っ先に罠部屋を疑ったが、くまなく調べて回ったところで罠の一つも発見できなかった。魔物も居ない、罠もない、とても静かで気温は適温。まるで休憩所だ。
「これであと風呂とベッドがあれば完璧だったな」
荷物を放り出して大の字で寝転がったソロウが天井を見上げて言うと、リュークが革袋から寝袋や「ご飯セット」を取り出し始めた。リュークが以前より先を読んで行動出来るようになっていることに、大人たちは感動する。
「フルルも、良く頑張ったわね」
「もう、駄目かと思ったよ……!」
ミハルに声を掛けられて急に安心したフルルはうずくまって大泣きした。既に地上へ出られたかの喜びようである。実際には、地上からは遥か離れてしまったというのに。
「でも、此処はちょっと不気味ですよ。まるで高難度の迷宮にあるボス部屋の前みたいだ」
ふと、ヴンダーが呟くように言った。すると、竈の準備に取り掛かっていたレオハルトが「そうだとして」とリュークを見やる。
「リュークたちはこの先を通ったのでしょう? 確か『蛇の部屋』があると言っていましたが、その蛇とはどんな蛇だったのですか?」
「大きな蛇だよ。大人しくて、すみっこに居たから、ほうっておいたよ」
「その蛇とやらがボスらしいな」と、ギムナック。「だが、ボスのくせに襲ってこないってのもおかしな話だ。それに、ボス部屋に入ると結界が張られて、倒すまで出られないんだろう? リューク、その部屋の出入り口は通れたのか?」
「うん」
実際には結界を壊して通れたのである。しかし、ここでそのことに気付くものは居なかった。
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