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無限の迷宮(110〜)

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「いい? 私達が『出して』って言うまで、絶対に悪魔をバッグから出しちゃ駄目よ」

 ミハルがしっかりと言い聞かせたが、ヴンダーは「子どもがそんな約束を守れるわけないじゃないですか」と納得しない様子だった。

(たまに見せる、ヴンダーの子どもに対する不信感は一体なんなのかしら)

 子どもが何もできないし何も分からないものと決めつけがちなところがある。もしかすると、子どもに限らず人間不信のきらいがあるのかも知れない。また、のろいが関係している可能性も否定できない。

「大丈夫よ、リュークはお利口だもの。ねえ、リューク? 約束は守れるわよね?」

「何の約束?」

 大人たちは閉口して遠くを見た。いや、リュークは分かっているはずだ。リュークの言動のうち勘違いから引き起こされるものはあれど、「失敗」と呼べる事態には一度たりと陥ったことがない。寧ろ結果だけを見れば、リュークはその時その時によって最善を選び取っているのではないか。

「リューク、悪魔をバッグから出さないことだ。出来るな?」

 ギムナックが真面目な顔で確かめると、リュークは「出来るよ」と答えた。安堵のため息があちこちで漏れる。

「しかし、悪魔などそうそう居るものじゃない。もしかすると、その悪魔が階層主フロアボスではないか?」

 大きな布でリンの毛を拭いてやっていた兵士の一人が言った。
 十分にあり得る、とレオハルトやソロウが頷く。

「確かに、悪魔が迷宮内を徘徊しているところはあまり見かけませんからね」

「大抵は高難度ダンジョンのフロアボスだよなあ。それも半端な階層じゃなく、最下層のボスの場合が多いぜ」

「ええ。悪魔を討伐するのは非常に困難です」

「そうだな。例え閣下の体調が万全でも、この面子で挑んで勝てるかどうか。最悪、全滅するぞ」

「最悪は、我々が全滅した上に悪魔が地上へ出てしまうことかも知れません。フロアボスとは、元の階層へ戻せばそこに留まってくれるものでしょうか? そもそもフロアボスを他の階層へ出したらどうなるのでしょう? 元の階層へ戻りたがるのか、徘徊するのか、出口に向かうのか、消滅するのか」

「普通、ボス部屋に入ったら出られないように結界が張られるので」レオハルトの視線を受けたヴンダーがブーツを絞りながら答える。因みにその結界というのは、部屋の中へ入る者を拒まず、外へ出ようとする者を拒む仕掛けとなっている。「フロアボスを倒さない限り結界は消えないから、誰もフロアボスを他の階層に連れ出したことはないんじゃないかな。つまり、僕にも分からないってことですけど。
 というか、多分フロアボスがボス部屋から出ることって無いんだと思う。あるとすれば、ダンジョンの魔力暴走の末の魔物暴走スタンピードの時くらいじゃないですかね」

「では、少なくとも出口を目指す可能性は排除できず、例え死んでも討ち損じは許されないということになりますね」

 重たい沈黙が流れる。各々はとりあえず着替えをしたり、髪を乾かしたりして身支度を整える。

 全員が荷物まで乾かしきったところで、どっちにしても、と口を切ったのはフルルだった。

「どうするかは、領主様が起きてから決めるんだよね」

「そうね。どっちみち閣下が居ないと勝算も無いもの」

 ミハルが断言し、皆が頷いた。リュークはサラサラになったリンの毛の匂いを嗅いで満足そうにしている。
 とにかく進むかと腰を上げたソロウに続き、一行は見飽きた迷路での階段探しを開始した。

 



 
 

 
 
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