47 / 151
お菓子とエールの街(28〜)
46
しおりを挟むそして翌朝、アルベルム辺境伯グランツと、側近レオハルト、十名のアルベルム兵、三人の冒険者と少年リュークとリンは、たくさんの感謝と別れを惜しむ声を浴びつつ東門へ到着した。
門前で、各ギルドとテルミリア城からの物資が山積みになっている。ギルドや城の職員らがほぼ空っぽのグランツの馬車や少なすぎる手荷物を見て、これはいくらなんでも倹約が過ぎるのではと心配して用意したものである。
リュークの革袋の中にはまだ大量の物資や予備の馬や馬車が入ったままだったが、それを説明する訳にもいかず、となればここで山積みの物資を革袋に収納させる訳にもいかず、やむ無く馬車の上まで荷物を積み上げ、さらに馬にもたっぷりの荷をくくりつけることとなった。
グランツたちが手早く作業が済ませ、通りを振り向いてみると、住民は未だ盛り上がっており、各ギルドの職員が「道中お気をつけて」「お戻りをお待ちしております」と声を張り上げている。リリアンヌと神父、そして教会の子供たちも一緒になって旅の無事を祈ったり、泣き崩れたり、飛び跳ねながら手を振ったりしている。
そこへ、一際元気の良い声が聞こえてきた。
「領主様!」
一昨日会ったときと同じくグランツに駆け寄ったフルル。フルルは、ちゃっかり一団に混ざっていたリンを手招きして呼んだ。
リンは尻尾を振ってフルルにしがみつき、ちらちらとリュークやグランツのことを盗み見る。
「やあ、フルル。昨日はよく眠れたか?」
グランツは太陽ほど輝く笑顔で尋ねた。
フルルは改めてグランツの貴族らしからぬ親しみやすさと眩しさに目を瞠りつつ、思わず「うん」と答えたが、すぐに緊張した表情に戻ると、ひとつ腹をくくったように口を開く。
「領主様、お願いがある……あります!」
「おっ? 何だ? 言ってみなさい」
グランツは自分の胸をどんと叩いて言った。
フルルは真っ赤な目を輝かせて、ずいっと距離を詰める。
「リンを雇ってほしいんだ! この子は強いし、鼻もきくし、遠吠えも上手だ。まだ子どもだけど、きっと領主様の役に立ってみせる。だから──」
「ふむ」
グランツは即答せずに、空色のコートがはち切れんばかりの逞しい腕を組む。
「リンは良い子で、申し出は嬉しいが今は……うーむ……そうだな、一先ずは王都からの帰りにまた立ち寄るから、そのときに改めて話すとしよう」
「う、うん……あ、はい! 良かった、すぐ断られるかと思ってた! ほらな、リン。領主様はお前が主と思えるだけあって懐の広い方だ! 領主様が次来るときまでに、勉強と鍛錬を頑張ろうな!」
ぱっと破顔したフルルがリンを振り向いて言うと、リンは愛らしく小首を傾げた。
「リンはついて行ったらダメなのか?」
恐ろしく純粋な目だ。他者の事情に干渉されない純粋な目。まるでリュークを見ているようである。
グランツは困り果てる。リンを傷つけたくはないが──。
「駄目です、リン。今は着いてきてはいけません。私たちは急いで王様のところへ行かなければならないので、あなたを連れて行けないのです」
グランツの代わりに言ったレオハルトは、「こういうことはハッキリと伝えなければなりません」という表情でグランツに頷いて見せた。
リンは不思議そうな顔をするばかりで、それ以上何も言わなかった。ただ、リュークの乗った馬車が目の前を通過するときに不安そうに尻尾を垂らしただけだった。
大きく手を振る住民や冒険者たちに盛大に見送られながら、グランツ一行は当初の予定より四日遅れでお菓子とエールの街テルミリアを出発した。
次に目指すのは、アルベルム辺境伯領と領地を隣にする〈ヴレド伯爵領〉である。
ヴレド伯爵領内では出来る限りどこにも立ち寄ることなく真っ直ぐに通り過ぎて、その後は東の伯爵領、さらに東の侯爵領と進み、そして王都へと至る予定となっている。
一行は無事に王都へ辿り着けるだろうか。レオハルトは、いっそ成るようにしか成らぬと思いつつ、大量の荷物を積んで既に疲れ気味の馬の手綱を引いて歩きながら青い空を見上げた。
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる