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アルベルム〜(10〜)
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教会を後にした四人は、すぐに冒険者ギルドへと向かった。
近くなので歩いて五分もかからない。
冒険者ギルド・アルベルム支部の建物は城と並んで一際大きく、〈王都ノルン〉にあるギルド本部に次ぐ規模である。
地上八階、地下一階の建物は幾度となく増改築を繰り返してきたため、来訪者が主に利用する受付窓口や依頼掲示板がある一階ロビー以外は、迷路のように入り組んだ造りとなっている。
全日開放してある大きな入口の先に広がるロビーには、大きな施設案内の図面がある。
これを見る限り、一階は依頼掲示板と受付窓口があるロビー。奥に事務所と応接室。
地下には依頼等で捕縛した犯罪者を一時的に収容しておく部屋や、一部の研究者のための施設、初心者向けのダンジョンの入口がある。
二階は事務所と、負傷した冒険者のためのリハビリ施設と日用品や軽食の売店。
三階には防具屋と武器屋とポーション屋、それから大きな銭湯と休憩室。
四階は宿泊施設と倉庫。
残る五階以上は殆どギルド業務のための部屋と研究室と倉庫と職員寮だ。
因みに、建物内の店は全てアルベルムの商業ギルドが冒険者ギルドへ賃貸料を支払って出店している。冒険者ギルドカードさえ持っていれば利用可能なので、冒険者として登録はしているが活動したことのない者が訪れることも珍しくない。
また、アルベルムの冒険者ギルドは役場の機能も兼ねているので、朝から晩までひっきりなしに大勢の人間や亜人たちが出入りして騒がしい。
ソロウ達にとっては慣れ親しんだ光景だが、リュークはあまりの目まぐるしさに落ち着かない様子でミハルの後ろにぴったり着いて歩いた。
長い木製の受付カウンターには四人の若い受付嬢がおり、そのうち三人は他の冒険者への対応に追われているようだったが、あと一人の耳の尖った猫系獣人の受付嬢は、ソロウたち四人を見付けると、ぱっと表情を明るくして「おかえりなさい」と声をかけた。
彼女とソロウは短く言葉を交わし、ソロウは彼女を「エリン」と呼んで、ギルドマスターへの取り次ぎを頼んだ。
「すぐに確認しますね。お待ちの間に依頼達成報告書に記入をお願いします」
受付嬢のエリンは事情も聞かずに言い残すと、長い尻尾を揺らしながら慌ただしく奥のドアの向こうへ駆けて行った。
カウンターには羽ペンとインク瓶と、依頼達成報告用紙が置かれている。
リュークは背伸びしてそれを覗き込もうとするが、カウンターが高くてよく見えない。気が付いたソロウが用紙をリュークに見せてやりながら説明する。
「冒険者は依頼を達成したらこれに詳細を記入するんだ。そういや、お前字は読めるのか?」
「じ?」
「ここに何て書いてあるか分かるか?」
「これ文字なの? これと、こっちのも? 面白いね。ユフラ婆さんなら知ってると思うけど」
と、あまりに話が噛み合わなかったのでソロウたちはいよいよ驚く。
この世界の文字はほぼ共通である。一部のエルフや独自の文化を持つ部族は独特の単語を使うこともあるが、文字は殆ど統一できている。識字率も地域によって違うものの、貧困層に生まれた冒険者が多いギルドでは、冒険者用書類は人間社会で暮らしていれば自然と身に付く程度の簡単な言葉で書かれているのだ。
「まさか……聖彫文字は読めたよな? ステータスは見れたんだろ?」
「ステータス? 見たよ」
「内容は?」
「見たよ」
小さく笑う声がした。何が可笑しいんだとソロウが不機嫌顔でミハルを振り向けば、「だって」と声を抑えるように口元を手で覆うミハルの隣でギムナックまでもが肩を揺らして笑い始めた。
「お前がそんなに狼狽えるなんて!」
言われたソロウはばつの悪い顔になって用紙をカウンターに置くと、「うるせえ。お前らだって何か変じゃねえか」とぶつぶつぼやきながら羽ペンをとったのだった。
近くなので歩いて五分もかからない。
冒険者ギルド・アルベルム支部の建物は城と並んで一際大きく、〈王都ノルン〉にあるギルド本部に次ぐ規模である。
地上八階、地下一階の建物は幾度となく増改築を繰り返してきたため、来訪者が主に利用する受付窓口や依頼掲示板がある一階ロビー以外は、迷路のように入り組んだ造りとなっている。
全日開放してある大きな入口の先に広がるロビーには、大きな施設案内の図面がある。
これを見る限り、一階は依頼掲示板と受付窓口があるロビー。奥に事務所と応接室。
地下には依頼等で捕縛した犯罪者を一時的に収容しておく部屋や、一部の研究者のための施設、初心者向けのダンジョンの入口がある。
二階は事務所と、負傷した冒険者のためのリハビリ施設と日用品や軽食の売店。
三階には防具屋と武器屋とポーション屋、それから大きな銭湯と休憩室。
四階は宿泊施設と倉庫。
残る五階以上は殆どギルド業務のための部屋と研究室と倉庫と職員寮だ。
因みに、建物内の店は全てアルベルムの商業ギルドが冒険者ギルドへ賃貸料を支払って出店している。冒険者ギルドカードさえ持っていれば利用可能なので、冒険者として登録はしているが活動したことのない者が訪れることも珍しくない。
また、アルベルムの冒険者ギルドは役場の機能も兼ねているので、朝から晩までひっきりなしに大勢の人間や亜人たちが出入りして騒がしい。
ソロウ達にとっては慣れ親しんだ光景だが、リュークはあまりの目まぐるしさに落ち着かない様子でミハルの後ろにぴったり着いて歩いた。
長い木製の受付カウンターには四人の若い受付嬢がおり、そのうち三人は他の冒険者への対応に追われているようだったが、あと一人の耳の尖った猫系獣人の受付嬢は、ソロウたち四人を見付けると、ぱっと表情を明るくして「おかえりなさい」と声をかけた。
彼女とソロウは短く言葉を交わし、ソロウは彼女を「エリン」と呼んで、ギルドマスターへの取り次ぎを頼んだ。
「すぐに確認しますね。お待ちの間に依頼達成報告書に記入をお願いします」
受付嬢のエリンは事情も聞かずに言い残すと、長い尻尾を揺らしながら慌ただしく奥のドアの向こうへ駆けて行った。
カウンターには羽ペンとインク瓶と、依頼達成報告用紙が置かれている。
リュークは背伸びしてそれを覗き込もうとするが、カウンターが高くてよく見えない。気が付いたソロウが用紙をリュークに見せてやりながら説明する。
「冒険者は依頼を達成したらこれに詳細を記入するんだ。そういや、お前字は読めるのか?」
「じ?」
「ここに何て書いてあるか分かるか?」
「これ文字なの? これと、こっちのも? 面白いね。ユフラ婆さんなら知ってると思うけど」
と、あまりに話が噛み合わなかったのでソロウたちはいよいよ驚く。
この世界の文字はほぼ共通である。一部のエルフや独自の文化を持つ部族は独特の単語を使うこともあるが、文字は殆ど統一できている。識字率も地域によって違うものの、貧困層に生まれた冒険者が多いギルドでは、冒険者用書類は人間社会で暮らしていれば自然と身に付く程度の簡単な言葉で書かれているのだ。
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「お前がそんなに狼狽えるなんて!」
言われたソロウはばつの悪い顔になって用紙をカウンターに置くと、「うるせえ。お前らだって何か変じゃねえか」とぶつぶつぼやきながら羽ペンをとったのだった。
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