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ストレイリトルポニー(ボニー&クライドシンドローム)

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ラップも掛けずに入れられた食べ物、宅配で届いたままの状態で突っ込んだであろうピザ横倒しになった缶ビールなどいかにもむさ苦しい独身男の冷蔵庫という感じの中身だった。 
「見て下さいこれ、直前まで食事を取っていて、我々の突入でやむなく中断し、そのまま冷蔵庫に放り込んだみたいですね」「うむそうか 
ということはアレだ、突入はバレていた」「問題は奴にとってどこまで青天の霹靂や寝耳に水だったかだ」「それによって逃亡手段が変わってくる」「電車なら何処行き何時の何番列車などと切符を手配していただろうし、事前に車を用意して近くに駐車していたかも知れない」「もしそうなら近所への聴きこみで不審な駐車の有無を確認してみるのが先だ。「いや待て、徒に動くよりも検問で網を張って掛かるのを待つ 
信号でとまった男は矢庭にカーラジオなどつけ緩慢に始まるノイズに塗れる話し声に耳を貸した。払い戻しを要求した旅券のスタンドで購入した新聞をこれみよがしに丸めてシートのバックレストに強く背中を押し当てると腹の底から声を絞った。地を這うような野太いエキゾーストノートに掻き消されないように。「いいか、適当に車停めるから後ろの荷物を纏めてあの橋の欄干から川に放り投げてこい」その勢いには反論を許さぬ圧力に満ちていた。見れば周囲の車は泥水に浮かぶ悠長なカバの如く緩慢な流れになっていた。左ハンドルの、優に国産車より一回りはデカい男の車はヘビーな車重の分容易に停車し、エンジンの停止したマッスルカーはすぐに静寂を呼んで沈黙に怯んだ女は否応なくトランクまで走らされた。低くないヒールがアスファルトを突く音が遠く無いホーンの音に掻き消されて猟銃の束と銃弾は女の思い切りのいいスローイングで風を切り新たに環境汚染の種となった。同時に長靴や合羽に身を包む鑑識係の仕事を増やすことにもだ。72年式の白いマスタングマッハ1は
派手なスキール音とクラクション更に言えばホイールスピンさせて出た白煙という交通法規のどこにも書いてない合図で対向車線に出ると男は先だってと同様押し殺した声で短く「なあ、腹は空いてないか」と問う。大きな銀色の壁の如きトラックの巨体が群を成すガゼルのような車の列が並ぶ風景を裂き我が物顔で疾走してきてそのデカい図体一杯に溜め込んだホーンの音をこれでもかと言わんばかりに響かせるのが早いか女が首を竦めて縮こまるのが早いか。とにかく男は何ごともなかったようにトラックの巨体を回避し縦列駐車よろしく連なる元の車線を睨んで顎で促した。「この先で検問をやっている。だから急に混みだした
「なぜ俺と出会ったか、それをしつこく聞かれるなんて先が思いやられるだろう。嫌なら上手く立ち回れ」ピザでも取るように電話したあの晩のこととかハンドバッグの色だとかパンプスの色が赤いけど赤が好きな色なのかだとか聞いてくるんだぜあいつらはさらにお前のティーンエイジャーの想い出だとか家庭環境だとか関係ないことを根掘り葉掘り聞かれるんだ。ウンザリしたくなけりゃ俺の言う通り動いて連中の追及を躱す為に努力しろ」「大体警察なんて信用が大事だから今まで道を踏み外したことのないネクタイの緩みさえ減点に繋がるポイント制の職場で働いてるやつだ。「その持論はともかく
アンタがしでかしたヤバイことは関係ないでしょ」川に捨てたアレが魚の餌にならないのと同じくらいアンタのやったことの正当性なんか微塵も緩がないんだからね」
のことしか
「俺の下宿時代と冷蔵庫の中身がそっくりなんだ」親近感でも湧いたように彼は顔をほころばせた。おもむろに腕時計に目を落とすと藤原は「もうかかってもいい頃なんだがな」と渋滞の先頭で立つ車止めと警官を舐めるように見た。
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