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懐かしいご主人様

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 「僕はチャッピー。茶色のチビでチャッビーとするところが鈍って語感も良いチャッビーになった」今は亡きご主人様がつけてくれた大切な名前だ。僕が親と逸れ、路頭に迷っていたところを原付で通り掛かったご主人様のスクーターのステップの上に乗ると家まで連れて行ってくれたのが縁でそのまま居候した。スクーターは走り出すととても速い乗り物だった。見た目にそぐわない不思議な乗り物だ。その気になれば飛び降りれないこともなかったが楽ちんな乗り心地に任せて流れる風景を楽しんだ。
 今日は懐かしい匂いがするので気紛れに散歩に出てみた。ここはいつも通る道で散歩するには特に面白いコースじゃなかった。
でも、不思議と気が変わって家に戻ることはしなかった。ボクがそこに迷ったのは車道に沿って敷設された歩道に、コンクリートの隙間から顔を覗かせる猫じゃらしに導かれたからである。それほど、コンクリート敷の道にも関わらず、多くの猫じゃらしが何本も生えていた。今は亡きご主人様が生前、よく猫じゃらしを使ってボクと遊んでくれた。時間を忘れて夢中になった日々を思い出し、ご主人様がそこにいるような気がしてフラフラと駆け出したそのとき、思い出も一瞬で吹き飛ぶような大きな音でボクは我に返った。黒いトラックが器用にパッシングをしながらクラクションを鳴らして猛速で近付いて来る。「ああ、あれに轢かれたらご主人様の所へ行ける。また遊んでもらえる」痛いのは一瞬だけだ。それでもう辛い毎日を過ごさなくていい。無償の愛を一身に受けて幸せだったあの頃に戻れるなら、何でも我慢しよう。ご主人様に会えるなら。お腹が空けば美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせてくれる優しい笑顔に甘えられた日々、うっとりするまで頭を撫でてくれた。そんな日々を思い出す。「ああ、ご主人様、」「ああ、ご主人様、叶うならもう一度会いたい」幸せはある日突然終わりを迎えた。かくれんぼというのか、姿をくらませたご主人様。意地悪しないでほしい、悪戯は猫の特許であって人間がすべきじゃない。どこにいるんだと何時間も探したけどいなくて途方に暮れた。お腹が空いてお腹が空いてひもじくて泣いた。もう力が出なくて鳴く元気も出ない。。死んだとわかるまで何日も何日も探し続けた。ご主人様は天国へ行ったらしい ご主人様のガールフレンドが教えてくれるまで気が狂いそうだった。。もう、あんな悲しい思いをするのは二度と御免だ。「ニャア」という自分の声を聞いて気が遠くなる。涙で周りがよく見えない。これが死ぬということかご主人様がいる。「会いたかった」ボクを轢いたトラックの運転手にお礼を言いたくなった。だけど、黒いトラックはエンジンも沈黙して路肩に車体を寄せて停車している。ボクを強く抱きしめてくれるご主人様が「良かったな」と言って手に力を込めた。涙で周りがよく見えない。夢かどうかご主人様の腕を思いっ切り噛んでみた。
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