RED LOTUS MAN

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里沙の災難

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また酔ってるの?辺りには誰もいないが周囲を見回してジェフからの電話の受話口に鼻を近づけて里沙はアルコール臭を嗅ぐ真似をする。「それどころじゃないんだ。今話の分かる奴とさ、意気投合しちゃってお互いの運命的な出会いに祝杯を重ねているところだ。里沙の話をしたら大いに感激して是非会ってみたいってお前も来ないか?」「アンタ今何時か知ってる?」

しかし里沙は鈴付きのキーホルダーを手に取りそわそわと出掛ける支度を始める。野菜のイラストが賑やかなエコバッグに財布を放り込み、鏡を見ながらスカートのシワを伸ばし、髪を整えると形のいいヒップを突き出して前のめりに玄関に向かいパンプスのアッパーを踏み付けて体勢を整えよろめきながらドアノブを掴んで立った。鈴を鳴らして施錠するとエレベーターに向かって外を伺いタクシーなどを探した。なぜ拒否られるのか分からないが数台は減速もせず走り去る5台ほどやり過ごしてやっと捕まえたハイヤーのように黒いタクシーに乗り込みジェフが説明した居酒屋の名前を運転手に告げる。乗車拒否もあってかあまりいい予感がしなかった。「お客さん着きましたよ」『王手金鳥』障子のようなガラス窓に賑やかそうな影が映っている規則的な音と共に運転手が降車を促すワイパーがフロントガラスを擦っている気が付くと小雨が降り始めていた。既に駐車していた黄色いタクシーの後ろに停車したタクシーは「降ってきましたねえ」といかにも他人事然とした呟きでドアミラーを覗き込む折り畳み傘をエコバッグに常備していたが店の入り口までは僅か十メートル位しかなかった。足早に入り口に向かう里沙を目で追う黄色いタクシーの客の男2人木製に模したアルミサッシの引き戸を開けると鼻を突くアルコール臭に思わず顔を背けた私への合図では無かろうが丁度グラスかジョッキかガラス製の容器をぶつけ合う音が響く。
店員の来店を歓迎する威勢のいい掛け声とは対照的に焦点の合わない目で手招きする2人の男が締まらない顔を向けて手を振る。
「早かったなとりあえずビールでいいか?」「店員さん生中ひとつ」言うが早いかお通しの乗ったトレーにジョッキ片手に制服らしきポロシャツにエプロン姿の青年が近づいてくる。「来た来た来たカンパ~イ!」「里沙こちらは北村大和氏だ」「初めまァ!ヨロシクこう見えてビジュアル系バンドのギター兼ボーカル担当ってねA大の大和って言やあ知らねえ奴は潜りだ。今はメイク落としてるけど」「砕けた奴だろ里沙もバンドやってるって話したら是非トーク全開で盛り上がりたいって今夜の勘定を任せてくださいなんて懇願するもんだから」「こっこっこここう見えてふっふふふシーふっふっフーふふふたっフタっったーむむむももむたーふたー二桁むママ二桁又掛けてたーっ十股掛けてたんだっんだ十人の女と同時に付き合ってらんだらっらら!そっそそそひーっれっれれでっででも私をーその記録に入れてちょっちょちょちょうだいなんて娘もいたいたいたーけどその娘のいうことにゃあっあああなたみたいな人っは追っかけに手を出すために音楽やってるような男だから照れるヌァ煽てられて舞い上がる輩でないが褒められるのぁ苦手だニャー。ああなたみたいな人が女に手出すのやめたらバンドやめるんじゃないかと思って私付き合ってあげるって何君はちょっちょっ超能力者かひぃ?十又掛けてもまだモテるリッリッリサさんだったっけうっ噂通りのビビ美人にマイマイ舞い上がるマイガール」「こっこのっナイナイナイナイナイスバババディモテモテモテルルでしょ持て余し甘しバディ今夜は返さないナイナイナイなんて人の女噂の女浮気はナイナイナイ」里沙は品を作らないまでも警戒することもなく呂律の回らない話の通じそうのない北村大和に近付いて酌などの真似をした。そもそも夜遅くの外出と咎めだてようとした筈の彼女が何故泥酔者達の席と知りながら参加に訪れたのか。「今日の出会いと俺の就職祝いに乾杯」明らかにジェフの顔色が変わった。こういう表情がみてとれた「就職すんのかよ」「先輩のコネで何とか一流企業に入れそうなんだ」水滴が滴るジョッキに目を落として大和は空振りに終わった乾杯を求めて里沙を見詰めた。「アルコール入ると体に異変が起こるとかそういう体質って言われたことある?」「ないわどうして?」「里沙さんだっけ僕はあなたみたいな不思議な唇にお目にかかったことがない。メタリックピンクに輝くルージュとか塗ってる?」「いいえ」「じゃ医者から何か言われたことある?」「そんなに見詰めないで」「彼氏の前だもんなゴメンゴメン」「大和氏、立てるか?」「何のまだ宵の口だぜ。そいじゃそろそろお暇するとしようか」「里沙、ちょっと彼を玄関までお送りしてあげてくれないか」よろめいて肩を抱く自称ビジュアル系バンドの男がジェフにアイコンタクトする。アルコールの分解に精一杯で息が上がる赤い顔に光る卑猥な目を向けて唇などを尖らしてどう言い繕うか口実ばかりが頭を擡げる男のセリフが「車を待たせているんだけどな里沙さん」なるほど自分が店に着いた時からここに陣取っていた。タクシーを待たせるなんてどこのお坊ちゃんなのだろうこちらに気付いたタクシーは小雨程度の雨にしかし濡れないように玄関まで近付いて停車しドアを開ける。「あなたの飲酒の友グリホタクシーグループ」そんなコピーのステッカーが貼ってあるリアウインドーの座席に滑り込み数分後雑居ビルともビジネスホテルとも付かない建物の駐車場で車は止まった。「嫌なら始めから来なかったよねえ。操を立てる相手でもなかったが位置情報付きのメールをあの男へ送信した。
嫌な予感というものが最近当たるように思えてきた。そうアイツに会った前後くらいから
鳴沢だったか勝てもしないケンカを買う上に奇策で応じて動じない変な男だ。今まで生きてきてあんな取っ組み合いは初めてだこれもモンサン党に関わったせいか
「空きビルになってますねレジャー施設の建設が流れて所有者が二転三転して今ではペーパーカンパニーとかに名義貸しなどで利益を出すような物件です。そこがどうかしたんですか?「いや、何でもない助かった礼を言うユルポフ」閻魔大王の如き鬼面を鎮ませて終話ボタンをマンバが押すのを確認してから能面のような表情のユルポフが終話ボタンを押して息を飲み込んだ。
フルサイズデジタル一眼レフの小型モニターを何度も確認して男はひとりごちた。マンバが溺愛する里沙がジェフとも違う誰かとどう見てもラブホテルにしか見えない場所へ体を密着させて入って行く。「成功だ。筋肉馬鹿殺すにゃ力は要らないせいぜい地団駄踏んでぶち切れた血管から致死量の血でも流しやがれ」してやったり!とほくそ笑む彼の心臓はしかし興奮の余り脈が上がり続けて鼓動が天井知らずになり喉はカラカラに乾いて手が震え相方にカメラを手渡して懐のタバコを探る有様僅かに傾けたパッケージはしかし一度に吸えないほどの本数のタバコをコンクリートの床に振り出した。捕虫網を川に差し込みメダカを追った時同様タバコはリズムを刻んで離れていくまるで自分の早まる鼓動が遠ざけているかのようだ。そうではない頭の血管でも切れて鈍くなった聴覚の持ち主が
運転する車から流れるカーオーディオのような大音量が接近してくるさながら動くディスコだ離れた場所に落ちたタバコを振動で遠ざけるなんて只者じゃないああとてもじゃないが両手で耳を塞がないとやかましくてしょうがないくらいの音だ既に耳から入ってしまった騒音が体内で反響するように体がジンジンする。黒いオールペンに黒のガラスフィルム趣味の悪いピックアップトラックが地下駐車場という場所も弁えることなく疾走してくる。資料にあった
あのピックアップはブラックマンバの所有する改造車だ。シボレー製8.4リッターV8エンジンのフルチューンカーで700馬力以上絞り出すモンスターマシンだ。
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