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第1話 高嶺の花1
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「まー、がんばんなよ。向こうだってカレシ居ないし、気が変わるかもしれないし」
放課後、机に突っ伏した彼に声をかけているのは貴島 加奈子。当然のように突っ伏している理由も知っているみたいだし、この中学では彼といちばん仲がいい。彼女は明るくて美人だと思うし友達も多い。そんな彼女が傍に居るのに彼、鷹野原 暁は私に告白をしてきた。
「で、何で今日にしたの? バレンタイン当日だよ?」
そう、私、新宮 円花はバレンタインデーに二度目の告白をされた。
「だって欧米では男が告白する日だって……」
そうだったんだ。友達同士ではチョコを贈り合ったりはしていたけれどそんなこと、考えても居なかった。本命なんていきなり贈ったりする子も見ないし。
「で? 何て言って振られたの? 親友が聞いてあげようじゃない」
「貴島とは別に親友という程の間柄ではない……」
「あーっ、ひっどい。夜明けまで殴り合った仲じゃない!」
えっ!? 加奈子、どういうこと!? 加奈子は交友関係が広く、クラスは別だったけれど私もそこそこ目立っていたみたいで彼女からは一学期の早いうちに声を掛けられ、仲良くなった。ただ、鷹野原くんのことに関してはほとんど聞いたことが無かった。というよりは聞けなかった。
「で、何て言われた?」
「顔だけの男には靡くつもりはないって……」
彼は確かにかっこよくはあった。話しかけられたときはちょっとドキっとしたけれど、あまり真面目そうな感じではなかったからそこまで好きにはならなかったし、遊ばれそうって思った。
「それは前にも聞いた。だから頑張ってたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ」
「それでもダメって?」
そう。彼はこの半年ほど、バレー部に入部し、さらに勉強も頑張っている。勉強も悪くないけど、バレー部での上達具合とあの跳躍力はすごい才能だった。私と同じバスケットボール部だったらってどれだけ思ったことか。
「まだまだだって……」
「円花に並び立つのは容易じゃないよね」
ごっ、ごめんなさい! 私は本当はもう恋に落ちている。だからこんな所で聞き耳を立てている。彼はすごい。見た目なんて当てにならない。私も努力家の自信があったけれど、彼はそれ以上だ。
――本当は謝って告白を受け入れようと思って来たんだけれど、加奈子に愚痴を聞いてもらっているみたいで話しかけられず、今に至っている。
「――そういえばさ、どうして男バスに入らなかったの?」
「いやだって、面子が怖かったし……」
ええっ、そんな理由で!? 私は男バスの先輩たちを恨んだ。理不尽な恨みかもしれないけれど。
「はぁ、そんなんで大丈夫かね。あっ、そろそろ行くね。葵サマを拝んでこないと!」
加奈子は橘 葵という一年上の先輩の熱狂的なファンで、ファンの集まりのようなものに参加している。彼女は校内の情報に詳しいのだけれど、そのファンのネットワークみたいなものを使っているみたい。ちょっと怖い。
◇◇◇◇◇
二年に上がると、加奈子と鷹野原くんは隣のクラスになった。なったのは私も嬉しかったのだけれど、その日のうちに隣のクラスからやってきて、皆の前で告白なんてしたものだから、こっちも心の準備ができてなくて思わず断ってしまった。どうしていつも私を驚かせるの!?
突然とはいえ、やってしまったことを後悔した私は、ときおり隣のクラスの加奈子に会いに行きつつ、鷹野原くんの様子を伺っていた。彼は落ち込んでいるように見えた。心配で何度も見ていたら、うっかり目が合ってしまったので私は慌てて顔を逸らしてしまった。何をやっているんだろう……。
◇◇◇◇◇
二学期に入ると体育祭があった。いつもなら体育祭に向けて体を調整したり、自分の順位にしか興味はなかったのに、今年は鷹野原くんの様子ばかり気になる。実際の競技でも、それ以外の時間でも彼を目で追ってしまう。彼が視界内に居なくても、今はあの辺だろうかなんて競技場の周囲ぐるりを見渡してしまう。
そして成績。彼は二学期の最初の校内試験でついに成績上位者として貼り出された! 何てすごいんだろう。加奈子から少し聞いた限りでは、一年の一学期なんてゲームしてばかりで成績も悪かったという話だったのに。
◇◇◇◇◇
そして二年生のバレンタインデーがやってきた。臆病でずるい私は、結局それまで彼に告白することはできないでいた。だけど、だけど――。
朝、まだSHRが始まる前、隣のクラスでは加奈子と鷹野原くんが仲良さそうに話していた。この二人、本当に付き合ってないのよね!?
「ちょっといいかしら?」
そこに声をかけた。鷹野原くんが情熱的な視線を浴びせてくる。私は目を合わせないようにするので精一杯だった。そして加奈子を昇降口とは逆の階段の踊り場まで連れ出した。
「加奈子、あなた本当に鷹野原くんとは付き合ってないのよね?」
「えっ!?」
「加奈子がもう付き合ってて、二股かけようってことじゃないのよね??」
「ええっ!? そんな風に思われてたの私!? 無いから無いから」
「そ、そうなのね。わかった。あの、鷹野原くん……呼んできてくれないかな?」
「ア……ハイ……」
◇◇◇◇◇
「あ、朝からごめんなさい。できれば早い方がいいと思って」
「あっはい……」
彼は加奈子みたいな返事をした。本当に仲がいい……。
「おのれ貴島……」
そして何故か加奈子の名前を出す彼。
「貴島さん? 加奈子にも聞いたけど、貴方たち本当に付き合ってないのよね?」
大事なことなので本人からも確認を取る。
「えっ、貴島と? ないない。天地がひっくり返っても無いです」
「そ、よかった」
つい顔が綻びそうになるのを我慢して、そっけない返事を返す。
「えっと、この一年半、私は鷹野原くんの頑張りを見てきました」
「えっ……」
「――んんっ。頑張りを見てきました。バレーボールもレギュラー入りするくらい頑張ったし、この前の体育祭では400m走とリレーで活躍してました。勉強も頑張ってこの前の校内試験では13番だったし――」
「え……」
彼は呆れたのか返事もできないでいる。
そ、そうよね。ずっと見てたなんて知ったらびっくりするわよね。
私は慌てて取り繕うも、あまり改善できてない言葉しか出ない。
「――あっ、できればバスケに興味を持って欲しかったなとか、あでも400m走とリレーで活躍ってなかなかできるものでも無いのですよ。勉強だって……えっ、えっ、どうしたんですか!?」
鷹野原くんは突然、涙を流し始めた。
私はどうしていいかわからず、戸惑っていた。
「そんなに褒められたの初めてで……」
「お、お父さまとかお母さまは?」
「父は居ません。母は仕事で忙しいので……や、放置とかでは無いのですが、なかなか時間も合わなくて……」
「そうだったのですね。いえ、鷹野原くんはそれだけ頑張ったんです。褒められるのは当然です」
「ありがとう……」
彼の感謝の言葉に、ちょっと恥ずかしくなって微笑むことしかできなかった。
「嬉しかったよ。じゃあ」
彼はそういうと立ち去ろうとした。違うの、待って!
「ちょ、ちょっと待ってください! 本題がまだです!」
「……何でしょう?」
「んんっ。そういう訳ですので、貴方の一年前の……を受け入れようと思います」
「えっ? なに?」
「告白! を受け入れようと……いえ、そうじゃなく……私が告白すべきですね――」
私の悪い癖が出た。これではいけない。
「――鷹野原くん、貴方のことが好きです。付き合ってください!」
やっと言えた。やっと言えた!
ちょっと涙が零れていたかもしれない。
「えっ、き、君は新宮さんだよね? 中に別の人が入ってるわけじゃない? 嘘告とか? いや、僕を誰かと間違えてないよね? 僕、顔だけ入れ替わってるとか無い?」
ただ、鷹野原くんはおかしなことを言い始める。そんなわけないでしょう?
「一年前と気持ちが変わりましたか?」
「変わらず、新宮さんが好きです」
「そ、それなら」
私は廊下の方に人が居ないか確認すると、意を決して彼に近づき――。
不意打ちは成功した。歯がぶつかることもなくてホッとした。
触れ合った唇はピリピリと敏感だった。
味はわからない。彼の唇に触れただけだったから。
そして冬場でしっかりめに塗ってあったリップクリームの感触がこそばゆい後味を残した。
自分の行動に恥ずかしくなった私は彼の脇をすり抜け廊下に逃げた。
逃げた先には加奈子をはじめ、二つのクラスの女の子たち何人かが集まっていた。
居ないと思ったのに!
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えっ!? 加奈子、どういうこと!? 加奈子は交友関係が広く、クラスは別だったけれど私もそこそこ目立っていたみたいで彼女からは一学期の早いうちに声を掛けられ、仲良くなった。ただ、鷹野原くんのことに関してはほとんど聞いたことが無かった。というよりは聞けなかった。
「で、何て言われた?」
「顔だけの男には靡くつもりはないって……」
彼は確かにかっこよくはあった。話しかけられたときはちょっとドキっとしたけれど、あまり真面目そうな感じではなかったからそこまで好きにはならなかったし、遊ばれそうって思った。
「それは前にも聞いた。だから頑張ってたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ」
「それでもダメって?」
そう。彼はこの半年ほど、バレー部に入部し、さらに勉強も頑張っている。勉強も悪くないけど、バレー部での上達具合とあの跳躍力はすごい才能だった。私と同じバスケットボール部だったらってどれだけ思ったことか。
「まだまだだって……」
「円花に並び立つのは容易じゃないよね」
ごっ、ごめんなさい! 私は本当はもう恋に落ちている。だからこんな所で聞き耳を立てている。彼はすごい。見た目なんて当てにならない。私も努力家の自信があったけれど、彼はそれ以上だ。
――本当は謝って告白を受け入れようと思って来たんだけれど、加奈子に愚痴を聞いてもらっているみたいで話しかけられず、今に至っている。
「――そういえばさ、どうして男バスに入らなかったの?」
「いやだって、面子が怖かったし……」
ええっ、そんな理由で!? 私は男バスの先輩たちを恨んだ。理不尽な恨みかもしれないけれど。
「はぁ、そんなんで大丈夫かね。あっ、そろそろ行くね。葵サマを拝んでこないと!」
加奈子は橘 葵という一年上の先輩の熱狂的なファンで、ファンの集まりのようなものに参加している。彼女は校内の情報に詳しいのだけれど、そのファンのネットワークみたいなものを使っているみたい。ちょっと怖い。
◇◇◇◇◇
二年に上がると、加奈子と鷹野原くんは隣のクラスになった。なったのは私も嬉しかったのだけれど、その日のうちに隣のクラスからやってきて、皆の前で告白なんてしたものだから、こっちも心の準備ができてなくて思わず断ってしまった。どうしていつも私を驚かせるの!?
突然とはいえ、やってしまったことを後悔した私は、ときおり隣のクラスの加奈子に会いに行きつつ、鷹野原くんの様子を伺っていた。彼は落ち込んでいるように見えた。心配で何度も見ていたら、うっかり目が合ってしまったので私は慌てて顔を逸らしてしまった。何をやっているんだろう……。
◇◇◇◇◇
二学期に入ると体育祭があった。いつもなら体育祭に向けて体を調整したり、自分の順位にしか興味はなかったのに、今年は鷹野原くんの様子ばかり気になる。実際の競技でも、それ以外の時間でも彼を目で追ってしまう。彼が視界内に居なくても、今はあの辺だろうかなんて競技場の周囲ぐるりを見渡してしまう。
そして成績。彼は二学期の最初の校内試験でついに成績上位者として貼り出された! 何てすごいんだろう。加奈子から少し聞いた限りでは、一年の一学期なんてゲームしてばかりで成績も悪かったという話だったのに。
◇◇◇◇◇
そして二年生のバレンタインデーがやってきた。臆病でずるい私は、結局それまで彼に告白することはできないでいた。だけど、だけど――。
朝、まだSHRが始まる前、隣のクラスでは加奈子と鷹野原くんが仲良さそうに話していた。この二人、本当に付き合ってないのよね!?
「ちょっといいかしら?」
そこに声をかけた。鷹野原くんが情熱的な視線を浴びせてくる。私は目を合わせないようにするので精一杯だった。そして加奈子を昇降口とは逆の階段の踊り場まで連れ出した。
「加奈子、あなた本当に鷹野原くんとは付き合ってないのよね?」
「えっ!?」
「加奈子がもう付き合ってて、二股かけようってことじゃないのよね??」
「ええっ!? そんな風に思われてたの私!? 無いから無いから」
「そ、そうなのね。わかった。あの、鷹野原くん……呼んできてくれないかな?」
「ア……ハイ……」
◇◇◇◇◇
「あ、朝からごめんなさい。できれば早い方がいいと思って」
「あっはい……」
彼は加奈子みたいな返事をした。本当に仲がいい……。
「おのれ貴島……」
そして何故か加奈子の名前を出す彼。
「貴島さん? 加奈子にも聞いたけど、貴方たち本当に付き合ってないのよね?」
大事なことなので本人からも確認を取る。
「えっ、貴島と? ないない。天地がひっくり返っても無いです」
「そ、よかった」
つい顔が綻びそうになるのを我慢して、そっけない返事を返す。
「えっと、この一年半、私は鷹野原くんの頑張りを見てきました」
「えっ……」
「――んんっ。頑張りを見てきました。バレーボールもレギュラー入りするくらい頑張ったし、この前の体育祭では400m走とリレーで活躍してました。勉強も頑張ってこの前の校内試験では13番だったし――」
「え……」
彼は呆れたのか返事もできないでいる。
そ、そうよね。ずっと見てたなんて知ったらびっくりするわよね。
私は慌てて取り繕うも、あまり改善できてない言葉しか出ない。
「――あっ、できればバスケに興味を持って欲しかったなとか、あでも400m走とリレーで活躍ってなかなかできるものでも無いのですよ。勉強だって……えっ、えっ、どうしたんですか!?」
鷹野原くんは突然、涙を流し始めた。
私はどうしていいかわからず、戸惑っていた。
「そんなに褒められたの初めてで……」
「お、お父さまとかお母さまは?」
「父は居ません。母は仕事で忙しいので……や、放置とかでは無いのですが、なかなか時間も合わなくて……」
「そうだったのですね。いえ、鷹野原くんはそれだけ頑張ったんです。褒められるのは当然です」
「ありがとう……」
彼の感謝の言葉に、ちょっと恥ずかしくなって微笑むことしかできなかった。
「嬉しかったよ。じゃあ」
彼はそういうと立ち去ろうとした。違うの、待って!
「ちょ、ちょっと待ってください! 本題がまだです!」
「……何でしょう?」
「んんっ。そういう訳ですので、貴方の一年前の……を受け入れようと思います」
「えっ? なに?」
「告白! を受け入れようと……いえ、そうじゃなく……私が告白すべきですね――」
私の悪い癖が出た。これではいけない。
「――鷹野原くん、貴方のことが好きです。付き合ってください!」
やっと言えた。やっと言えた!
ちょっと涙が零れていたかもしれない。
「えっ、き、君は新宮さんだよね? 中に別の人が入ってるわけじゃない? 嘘告とか? いや、僕を誰かと間違えてないよね? 僕、顔だけ入れ替わってるとか無い?」
ただ、鷹野原くんはおかしなことを言い始める。そんなわけないでしょう?
「一年前と気持ちが変わりましたか?」
「変わらず、新宮さんが好きです」
「そ、それなら」
私は廊下の方に人が居ないか確認すると、意を決して彼に近づき――。
不意打ちは成功した。歯がぶつかることもなくてホッとした。
触れ合った唇はピリピリと敏感だった。
味はわからない。彼の唇に触れただけだったから。
そして冬場でしっかりめに塗ってあったリップクリームの感触がこそばゆい後味を残した。
自分の行動に恥ずかしくなった私は彼の脇をすり抜け廊下に逃げた。
逃げた先には加奈子をはじめ、二つのクラスの女の子たち何人かが集まっていた。
居ないと思ったのに!
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