45 / 65
三章 呪い
第42話 地下の主 2
しおりを挟む
更に下の階は自然の洞窟に近い、穴掘り妖精が掘り進んだような洞窟だった。こんな場所では影がより深くなる。横穴も目視しやすい高さにある物だけではない。十尺以上も上から襲われるかもしれないし、足元だって平坦じゃない。不意打ちも恐ろしいため、お兄さんと二人で四つの鬼火を呼び出す。
「魔法の光弾も用意しておきますね」
「ああ、その方がいい」
既に左手には盾の魔法が添えられていた。
何度かの襲撃を受けていたのだ。
敵は乳飲み子という妖精、それから装甲犬と呼ばれる妖精犬。
乳飲み子は暗色の小さな人型の妖精。明るい場所で見れば緑色の肌をしているらしいが、松明の灯りの混ざる地下では色までは判別し辛い。耳はロバのよう。毛に覆われた長い尾。青銅や黒曜石のナイフを手に襲い掛かってくる。厄介なのが、跳躍という位相ずらしで瞬間移動してくるところ。
装甲犬は頭から肩、背に沿って尾までを硬い皮甲で覆われた犬の姿をした妖精。魔法の照明にキラキラと反射する美しい皮甲は小さな竜にも見える。厄介なことにこちらも跳躍してくる。
そしてさらに厄介なのが装甲犬を飼いならしている乳飲み子。それらの襲撃を受け、時には乱戦になりながらも私たちは洞窟内を探索していた。ただ、どちらも怪物と言うほどのものではない。数も知れているので脅威では無かった。
「休息所でやすね」
ゲインヴの言う通り洞窟の奥が明るい。
この洞窟内にはところどころに輝く泉の湧く広間がある。苔がむし、壁に沿って蔦や木が生え実まで成している。地上と同じように足元には草が生い茂り、虫がいて小動物がいる不思議な場所。そんないくつかの『休息所』と名付けた場所を経由しながら複雑な洞窟を探索する。
「助かりますね。これがないと地図が作りづらいです」
「この休息所も不自然だがな」
「地下は辛いですけど、わたくしは休息所のお陰で落ち着けます」
お兄さんの横にぴとっとくっついて座る。
正直、こんな秘密の癒し場でお兄さんと二人きりで居られるのはちょっと嬉しい。
ゲインヴは居ないことにして襲っちゃいたいくらい。
ビクッ――とお兄さんが反応する。
私に対してかと思ったけれど、それは違った。
耳を澄ますお兄さんとゲインヴ。
「どっちだ?」
「こちらの横穴でやすかね?」
荷物を抱え上げる二人、私も続く。
横穴を、鬼火を先行させて進むと確かに物音が響いてくる。
結構な距離なのか、ゲインヴが先行して早足で進む。
明るい……別の休息所が見えてくると、ミルゴサの騒ぐ声が聞こえてきた。多い気がする。
くい――と休息所の手前でゲインヴがお兄さんを手招きする。
私も続くと、その先ではミルゴサ同士が争っていた。ただ、内輪揉めとは違う。その中に人が居たのだ。その人はお兄さんと同じ悪意への服従を詠唱し乳飲み子に放っていたが、まだ未熟なのか、お兄さんのように乳飲み子に通じていない。
「助けよう」――お兄さんが小さく呟く。
お兄さんは眠りの魔法を一団に向かって詠唱した。
見事なまでに全てのミルゴサがふらふらと倒れ、眠りにつく。
ただ一人を除いて。
人は十歳くらいの少女だった。真っすぐの黒髪、くりくりした目、貫頭衣を腰のところで縛っていた。お兄さんの魔法が人に効かなかったのをエリン様以外で始めて見た。少女はこちらを見据える。
「もしやルメルカ様でいらっしゃいますか?」
お兄さんは片膝をつき、目線を下げて問いかける。
私とゲインヴも倣う。
「いかにも、吾がルメルカなり。敬称をつけるということは、ヌシ、吾が民ではないのだな?」
我々ノレンディルの民は、母神たる神にはその名に敬称を付けない。我々ヴィーリヤの民は女神様と呼ぶことはあってもヴィーリヤ様とは決して呼ばない。同じく、ルメルカ様の民は皆、地母神様とは呼んでもルメルカ様とは呼ばない。理由はわからない。声に出すと自然とそうしてしまう。
「はい、戦女神ヴィーリヤの民となります」
「吾が娘の危機と聞いた」
「おそらくは」
「そうか。だがまだ依代は生まれたばかりで修練が足りぬ。神託も経由できぬ」
「地上までお連れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「事を為したあと、またここに連れ帰ってくれるか?」
「お望みのままに」
「ふむ、吾が依代が、人と話せるままで地上に赴くのは初めてじゃ」
「幼子の姿の女神様など、伝説にさえ残っておりません」
「重畳重畳。――ところで、ヌシは大輪の虚栄の花を咲かせておるな」
「えっ、わたくし? ですか?」
ルメルカ様は私に視線を移してそう言われた。
「そうじゃ。ナホバレクの領土となりつつある。よく抑えておるな」
「わかるのですか?」
お兄さんが聞くと、ルメルカ様はお兄さんに視線を移す。
「この娘を眠らせてみよ」
「えっ!?」
「ルハカ、泉の方へ離れてみてくれ」
「本当にやるんですか?」
「そこで横になってみなさい」
お兄さんの言葉のまま横になると、お兄さんは私に魔法をかけた。
◇◇◇◇◇
「よくやったぞ、シグルズ」
声が聞こえた。私を揺り起こしたのはお兄さん。
目を覚ますと、目の前に青紫の白っぽく透けた花があった。
「え……これは。ひっ!」
花を持っていたのはミルゴサだった。
ミルゴサは自慢げに、そのリコリスに似た大輪の花を見せていた。
「シグルズを褒めてやれ。あとで構わん。ミルクの一杯を礼に与えよ」
「あっ、ありがとうございますシグルズ……さん……」
あっ――私がその花に触れると、ほろほろと崩れていった。
シグルズと呼ばれた小さなミルゴサはルメルカ様の元へと戻っていく。
ルメルカ様の周りには四体のミルゴサが居た。
他のミルゴサは止めを差されていた。――えっ、いいの……?。
「儚い領土じゃが、心のうちにある間は強固な領土じゃ。眠る間だけ無防備になる」
「これがナホバレクの領土……」
「判別する方法も教わった」
お兄さんがルメルカ様から教わった話を聞かせてもらった。
ちなみに私の胸元のお兄さんの宝石は……無くなっていた……少し寂しい。
虚栄の花は小さな小さな種から生じ、人の虚栄心を増大させ、魔力を元に人の魂に根を張り、妖精界に虚栄の花を咲かせる。強い自制心だけがこの花の成長を封じる。つまりは、私は我慢強いと思っていただけで、自制心など欠片もなかったということ。
妖精界に咲いた花は、妖精の目と呼ばれる異界を見通す三つの目のうちのひとつを開く魔法で見ることができるのだという。虚栄心は身の丈に合わない激しい要求を生じさせ、鬱屈した感情を爆発させるほど大輪の花が咲き、やがてはナホバレクの民として自由を奪われる。
「人では妖精界に容易に手出しができない。そこでルメルカ様の眷属たる乳飲み子にお願いする。要は寝る前に一皿のミルクを用意し、――私の虚栄を摘んでおくれ――とでもお願いするだけだ。伝承ではミルゴサは地母神様の国ならほとんどの家に棲みついている」
そこからは帰還の準備をしながら話を続けてもらった。
虚栄の花の種、虚栄の種は神々の世界の植物で、本来は地上に在ってはならない物。かつて、幾度か自惚れナホバレクが地上に持ち出したが、いずれも少量だったという。しかし今回、ナホバレクは地母神様の遺物を神の国から盗み出したらしい。
神々の穀倉というその遺物からはあらゆる種類の植物の種を無限に湧き出させることができる。ただ、人の手にある間はその遺物は同じ種しか生み出し続けられないという。
遺物は人には破壊できない。ボロボロの麻袋は容易に破れそうに見えても決して破れない。その麻袋の巾着状の口は強い力――人の手の及ぶところではない――によって常に閉じようとしているが、それを星海の大海獣の、しなやかで決して折れないヒゲを口に通すことに依って開いているのだそうだ。
「つまりはその神々の穀倉を奪い返さなければ国は飲まれる」
「それ! その袋、見たことがあります!」
「なんだって!?」
「以前、ジルコワルが持っていたと話していた袋ですよ! まさかあんな小さな麻袋から全てのタニラが生じていたなんて思いもしなかったんです! 白い紐が美しく輝いて見えました。きっとそれが星海の大海獣のヒゲです」
しかもジルコワルはあれを高額で売りさばいていた。
ただバラまくだけで恐ろしい種なのに!
◇◇◇◇◇
我々は洞窟を抜け、地下墓所を抜け――地下墓所ではあの棚にずらりと人らしきモノがいつの間にか並んでいたけれど、見ないようにして素通りし――朱の人食い鬼の間へと入った。するとルメルカ様は、あの朱の人食い鬼と会話を始める。神々の言葉は理解できないけれど、終始平和に話し合われていた。
「あ……の……、彼は何と?」
「ふむ。長く外の世界を見ていないのでと土産を頼まれた」
「土産……で、ございますか。そもそも彼は何のためにここにいらっしゃるのでしょう?」
「あれは吾が修練のため、そこにおる」
この地下迷宮の構造のおかしな点はそれだった。
入口ほど強敵が居る? そうじゃない、あれは出口だった。
もっとずっと奥に地母神様の寝所があるのだろう。
修練を重ねて登ってくるのだ。
「そのためだけにずっとお一人で?」
「ああ。あれは吾が百万の民を滅ぼした罪を償うとてそこにおり続ける」
「ひゃ、百万でございますか……」
「あたしら、ずいぶんと手加減されてたんでやすね……」
その後、黄泉の門番でさえ頭を撫でるだけで通り過ぎていき、地上へと戻った。ただ、地上が近くなるとミルゴサたちは姿を消した。
「神殿は乳飲み子が嫌うでの。シグルズはヌシにつけてやろう」
そう言って私に視線を投げるルメルカ様。
「グズルーンはヌシに、ブリュンヒルドはヌシにつけてやろう」
そう言ってお兄さん、ゲインヴへと視線を移していくルメルカ様。
地上へ出るとあの神官がひとり、やってきた。
「なんじゃ、大きさの割には寂しい神殿じゃの」
ひと目でルメルカ様と理解した年老いた神官は、そのあまりに多くの衝撃に五体投地していました……。
ただ、ルメルカ様はどこか遠くに視線を移されておりました。
「そうか、愛しき娘は行ったのか……」
少しだけ寂しそうな表情を見せたルメルカ様は、そう、呟かれました。
--
Wizardry IVって逆ダンジョンがありましてね……。
関係ないですけど、ミーハーなネーミングが好きな地母神様でした。
スケリゴはブリンクドックだと思います。
「魔法の光弾も用意しておきますね」
「ああ、その方がいい」
既に左手には盾の魔法が添えられていた。
何度かの襲撃を受けていたのだ。
敵は乳飲み子という妖精、それから装甲犬と呼ばれる妖精犬。
乳飲み子は暗色の小さな人型の妖精。明るい場所で見れば緑色の肌をしているらしいが、松明の灯りの混ざる地下では色までは判別し辛い。耳はロバのよう。毛に覆われた長い尾。青銅や黒曜石のナイフを手に襲い掛かってくる。厄介なのが、跳躍という位相ずらしで瞬間移動してくるところ。
装甲犬は頭から肩、背に沿って尾までを硬い皮甲で覆われた犬の姿をした妖精。魔法の照明にキラキラと反射する美しい皮甲は小さな竜にも見える。厄介なことにこちらも跳躍してくる。
そしてさらに厄介なのが装甲犬を飼いならしている乳飲み子。それらの襲撃を受け、時には乱戦になりながらも私たちは洞窟内を探索していた。ただ、どちらも怪物と言うほどのものではない。数も知れているので脅威では無かった。
「休息所でやすね」
ゲインヴの言う通り洞窟の奥が明るい。
この洞窟内にはところどころに輝く泉の湧く広間がある。苔がむし、壁に沿って蔦や木が生え実まで成している。地上と同じように足元には草が生い茂り、虫がいて小動物がいる不思議な場所。そんないくつかの『休息所』と名付けた場所を経由しながら複雑な洞窟を探索する。
「助かりますね。これがないと地図が作りづらいです」
「この休息所も不自然だがな」
「地下は辛いですけど、わたくしは休息所のお陰で落ち着けます」
お兄さんの横にぴとっとくっついて座る。
正直、こんな秘密の癒し場でお兄さんと二人きりで居られるのはちょっと嬉しい。
ゲインヴは居ないことにして襲っちゃいたいくらい。
ビクッ――とお兄さんが反応する。
私に対してかと思ったけれど、それは違った。
耳を澄ますお兄さんとゲインヴ。
「どっちだ?」
「こちらの横穴でやすかね?」
荷物を抱え上げる二人、私も続く。
横穴を、鬼火を先行させて進むと確かに物音が響いてくる。
結構な距離なのか、ゲインヴが先行して早足で進む。
明るい……別の休息所が見えてくると、ミルゴサの騒ぐ声が聞こえてきた。多い気がする。
くい――と休息所の手前でゲインヴがお兄さんを手招きする。
私も続くと、その先ではミルゴサ同士が争っていた。ただ、内輪揉めとは違う。その中に人が居たのだ。その人はお兄さんと同じ悪意への服従を詠唱し乳飲み子に放っていたが、まだ未熟なのか、お兄さんのように乳飲み子に通じていない。
「助けよう」――お兄さんが小さく呟く。
お兄さんは眠りの魔法を一団に向かって詠唱した。
見事なまでに全てのミルゴサがふらふらと倒れ、眠りにつく。
ただ一人を除いて。
人は十歳くらいの少女だった。真っすぐの黒髪、くりくりした目、貫頭衣を腰のところで縛っていた。お兄さんの魔法が人に効かなかったのをエリン様以外で始めて見た。少女はこちらを見据える。
「もしやルメルカ様でいらっしゃいますか?」
お兄さんは片膝をつき、目線を下げて問いかける。
私とゲインヴも倣う。
「いかにも、吾がルメルカなり。敬称をつけるということは、ヌシ、吾が民ではないのだな?」
我々ノレンディルの民は、母神たる神にはその名に敬称を付けない。我々ヴィーリヤの民は女神様と呼ぶことはあってもヴィーリヤ様とは決して呼ばない。同じく、ルメルカ様の民は皆、地母神様とは呼んでもルメルカ様とは呼ばない。理由はわからない。声に出すと自然とそうしてしまう。
「はい、戦女神ヴィーリヤの民となります」
「吾が娘の危機と聞いた」
「おそらくは」
「そうか。だがまだ依代は生まれたばかりで修練が足りぬ。神託も経由できぬ」
「地上までお連れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「事を為したあと、またここに連れ帰ってくれるか?」
「お望みのままに」
「ふむ、吾が依代が、人と話せるままで地上に赴くのは初めてじゃ」
「幼子の姿の女神様など、伝説にさえ残っておりません」
「重畳重畳。――ところで、ヌシは大輪の虚栄の花を咲かせておるな」
「えっ、わたくし? ですか?」
ルメルカ様は私に視線を移してそう言われた。
「そうじゃ。ナホバレクの領土となりつつある。よく抑えておるな」
「わかるのですか?」
お兄さんが聞くと、ルメルカ様はお兄さんに視線を移す。
「この娘を眠らせてみよ」
「えっ!?」
「ルハカ、泉の方へ離れてみてくれ」
「本当にやるんですか?」
「そこで横になってみなさい」
お兄さんの言葉のまま横になると、お兄さんは私に魔法をかけた。
◇◇◇◇◇
「よくやったぞ、シグルズ」
声が聞こえた。私を揺り起こしたのはお兄さん。
目を覚ますと、目の前に青紫の白っぽく透けた花があった。
「え……これは。ひっ!」
花を持っていたのはミルゴサだった。
ミルゴサは自慢げに、そのリコリスに似た大輪の花を見せていた。
「シグルズを褒めてやれ。あとで構わん。ミルクの一杯を礼に与えよ」
「あっ、ありがとうございますシグルズ……さん……」
あっ――私がその花に触れると、ほろほろと崩れていった。
シグルズと呼ばれた小さなミルゴサはルメルカ様の元へと戻っていく。
ルメルカ様の周りには四体のミルゴサが居た。
他のミルゴサは止めを差されていた。――えっ、いいの……?。
「儚い領土じゃが、心のうちにある間は強固な領土じゃ。眠る間だけ無防備になる」
「これがナホバレクの領土……」
「判別する方法も教わった」
お兄さんがルメルカ様から教わった話を聞かせてもらった。
ちなみに私の胸元のお兄さんの宝石は……無くなっていた……少し寂しい。
虚栄の花は小さな小さな種から生じ、人の虚栄心を増大させ、魔力を元に人の魂に根を張り、妖精界に虚栄の花を咲かせる。強い自制心だけがこの花の成長を封じる。つまりは、私は我慢強いと思っていただけで、自制心など欠片もなかったということ。
妖精界に咲いた花は、妖精の目と呼ばれる異界を見通す三つの目のうちのひとつを開く魔法で見ることができるのだという。虚栄心は身の丈に合わない激しい要求を生じさせ、鬱屈した感情を爆発させるほど大輪の花が咲き、やがてはナホバレクの民として自由を奪われる。
「人では妖精界に容易に手出しができない。そこでルメルカ様の眷属たる乳飲み子にお願いする。要は寝る前に一皿のミルクを用意し、――私の虚栄を摘んでおくれ――とでもお願いするだけだ。伝承ではミルゴサは地母神様の国ならほとんどの家に棲みついている」
そこからは帰還の準備をしながら話を続けてもらった。
虚栄の花の種、虚栄の種は神々の世界の植物で、本来は地上に在ってはならない物。かつて、幾度か自惚れナホバレクが地上に持ち出したが、いずれも少量だったという。しかし今回、ナホバレクは地母神様の遺物を神の国から盗み出したらしい。
神々の穀倉というその遺物からはあらゆる種類の植物の種を無限に湧き出させることができる。ただ、人の手にある間はその遺物は同じ種しか生み出し続けられないという。
遺物は人には破壊できない。ボロボロの麻袋は容易に破れそうに見えても決して破れない。その麻袋の巾着状の口は強い力――人の手の及ぶところではない――によって常に閉じようとしているが、それを星海の大海獣の、しなやかで決して折れないヒゲを口に通すことに依って開いているのだそうだ。
「つまりはその神々の穀倉を奪い返さなければ国は飲まれる」
「それ! その袋、見たことがあります!」
「なんだって!?」
「以前、ジルコワルが持っていたと話していた袋ですよ! まさかあんな小さな麻袋から全てのタニラが生じていたなんて思いもしなかったんです! 白い紐が美しく輝いて見えました。きっとそれが星海の大海獣のヒゲです」
しかもジルコワルはあれを高額で売りさばいていた。
ただバラまくだけで恐ろしい種なのに!
◇◇◇◇◇
我々は洞窟を抜け、地下墓所を抜け――地下墓所ではあの棚にずらりと人らしきモノがいつの間にか並んでいたけれど、見ないようにして素通りし――朱の人食い鬼の間へと入った。するとルメルカ様は、あの朱の人食い鬼と会話を始める。神々の言葉は理解できないけれど、終始平和に話し合われていた。
「あ……の……、彼は何と?」
「ふむ。長く外の世界を見ていないのでと土産を頼まれた」
「土産……で、ございますか。そもそも彼は何のためにここにいらっしゃるのでしょう?」
「あれは吾が修練のため、そこにおる」
この地下迷宮の構造のおかしな点はそれだった。
入口ほど強敵が居る? そうじゃない、あれは出口だった。
もっとずっと奥に地母神様の寝所があるのだろう。
修練を重ねて登ってくるのだ。
「そのためだけにずっとお一人で?」
「ああ。あれは吾が百万の民を滅ぼした罪を償うとてそこにおり続ける」
「ひゃ、百万でございますか……」
「あたしら、ずいぶんと手加減されてたんでやすね……」
その後、黄泉の門番でさえ頭を撫でるだけで通り過ぎていき、地上へと戻った。ただ、地上が近くなるとミルゴサたちは姿を消した。
「神殿は乳飲み子が嫌うでの。シグルズはヌシにつけてやろう」
そう言って私に視線を投げるルメルカ様。
「グズルーンはヌシに、ブリュンヒルドはヌシにつけてやろう」
そう言ってお兄さん、ゲインヴへと視線を移していくルメルカ様。
地上へ出るとあの神官がひとり、やってきた。
「なんじゃ、大きさの割には寂しい神殿じゃの」
ひと目でルメルカ様と理解した年老いた神官は、そのあまりに多くの衝撃に五体投地していました……。
ただ、ルメルカ様はどこか遠くに視線を移されておりました。
「そうか、愛しき娘は行ったのか……」
少しだけ寂しそうな表情を見せたルメルカ様は、そう、呟かれました。
--
Wizardry IVって逆ダンジョンがありましてね……。
関係ないですけど、ミーハーなネーミングが好きな地母神様でした。
スケリゴはブリンクドックだと思います。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる