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べティアとアイリーン
しおりを挟む街に着いたのでまっすぐギルドへ向かう。まずは手持ちの兎を貢献とお金に替えてもらいたいので熊耳のお姉さんを探しましょう。
ギルドに入るとそこそこ混んでいるように思えた。夕方は混み時なんですかね。
「ヒナタ、まずは査定カウンターでその荷物を引き取ってもらおう」
「あ、そういう仕組みなのね。了解」
狩った獲物は受付に持っていくのではなく引き取ってくれるところがあるようだ。そりゃ書類書くカウンターに血生臭いもの置くのは嫌ですよね。
査定カウンターにいって錬鍛兎等を渡す。受付の人は数人がかりで中を見るとサラサラと何か紙を書いて俺達に渡した。
「錬鍛兎1体と丸兎29体ですわん。素晴らしい成果ですわん。お支払いの方は受付カウンターでお願いしますわん」
垂れ耳のお兄さんが渡してくれた紙は俺には読めないけどイージスいわく『モンスターの名前と数が書かれてる』とのこと。取り敢えずこれを受付に持っていけば貢献とお金になるらしい。
「じゃあ俺が受付カウンター並んでくるよ」
「ああ、頼んだ」
「ん。まってる」
受付の熊耳のお姉さんのカウンターに並んで(1番混んでいたけどやはり美人のお姉さんがいい)さっきもらった紙を渡す。
「すいません、これお願いします」
「ギルドカードの提示もお願いします、くま」
「あ、はい」
「ヒナタ様は今回錬鍛兎を倒されたのですか?素晴らしい貢献です、くま。では早速お手続きさせていただきます、くま」
そういうと熊耳のお姉さんはジャラリと大人する袋とくすんだ青色のカードを取り出した。あれ?ギルドカード変わった?
「報奨金の銀貨1枚大銅貨1枚中銅貨4枚です、くま。ヒナタ様は現在のランクより3つ上のランクのモンスターを倒されましたのでランクを2つ上げさせてDランクのギルドカードをお渡しします、くま」
「え?まじ?」
なんとランクが上がるらしい。自分より上のランクのモンスターを倒すと一気にランクが上がるんだね。3つ上ってことは錬鍛兎はCランクのモンスターか。どおりで強いわけだよ。
何にしてもこれで俺もDランク、ダンジョンの資格を得るまであとひとつだ。
「じゃああとひとつランクを上げればダンジョンに行けるんですね!」
「ヒナタ様は本気でダンジョンに行きたいんですか?くま」
熊耳のお姉さんが驚いた顔でそういう。本気も本気、ガチで行きたいですよ?だってダンジョン攻略したら魔王を倒した勇者様的な扱いになるんでしょ?ロマンしかないじゃん。絶対に行きたい。
「本気で行きたいと思っているんですけど何か問題があるのですか?」
「この国のダンジョンである『狂喜の魅檻』は生還率が10%と言われてます、くま」
その言葉に浮ついていた心がピシャリと冷める。え?10%?つまり10人にひとりしか帰ってこれないってこと?それやばくない?
「戻ってきた者も取り憑かれたようにまたダンジョンへと向かってしまいます。実際の生還率は限りなく0に近いでしょう。
「え、じゃあなんで皆ダンジョンに行くの?」
ダンジョンってめちゃくちゃ危ない所じゃん。それなのに行くのはなんで?
「国の依頼、腕試し、訳はたくさんありますが1番の理由は黒の結晶の為でしょう、くま」
「黒の結晶?」
なにそれ?ダンジョンの中では綺麗な石が取れるってこと?
「黒の結晶はダンジョン内のモンスターを倒すと手に入る宝石で食べると格段に強くなれます」
「え、食べるの?」
それは予想外。クリスタルっていうくらいだから魔石的な物を想像していたのにまさか食べ物らしい。
「食べます、くま。食べるとギルドランクで1ランクほど強くなれると言われています、くま」
「え、すご。めっちゃ強くなるじゃん」
「ただし中毒性があり1度食べるとそれなしでは生きていられないほど依存します、くま。ギルドでは推奨しておりません」
熊耳のお姉さんが真剣な顔でいう。まあ確かに強くなる代わりに廃人になるんじゃ意味ないよね。黒の結晶は食べない方向でいこう。
「わかりました。じゃあ黒の結晶はやめといてダンジョン攻略をがんばります」
「まだダンジョンに行きたいと思うのですか?」
熊耳のお姉さんが驚いた顔でそういう。え、行きたいよ?だってその方がかっこいいもん。ダンジョン攻略してSランク冒険者になりたいです。
「行きたいです。俺はダンジョン攻略してSランク冒険者になりたいので」
「ダンジョンはヒナタ様の考えられている場所よりずっと危険な場所です。それに、」
その瞬間、バンッ!と大きな音がして勢いよく扉が開かれる。そしてそこには背の低い金色の耳と尻尾を持つ女の子が立っていた。
「ベティア、いくぞ。ダンジョン攻略だ」
その子はズンズンとカウンターに向かって歩いてくる。何故だろう、それだけのことなのに道を開けなければならない気持ちになる。
小柄な身体なのにその全身からはなんとも言えない重量感が伝わってきた。
「アイリーン、前にも言ったけど私は行かない、くま」
「どうしてもダメか?お前達姉弟がついてきてくれれば非常に心強いのだが?」
「ごめんなさい、」
熊耳のお姉さんことベティアさんが頭を下げる。ここに来てやっと熊耳のお姉さんのお名前がわかりましたね。で、このアイリーンって呼ばれている美少女は誰?
「そうか、残念だ。お前が来てくれたら最高の盾を手にすることができたのにな」
「……」
「いい。意志なき者を連れて行っても意味はないからな。気にするな」
「……弟をよろしくね、アイリーン」
「うむ。だが助けぬぞ?彼奴も強者だ。自分でなんとかするだろうよ」
その時こちらを向いたアイリーンと目が合う。ドキリとした。意思の強そうな目だ。燃えるような赤い瞳がこちらに向いて心臓がバクバク脈打つ。たぶん獅子を目の前にした草食動物はこんな気分なのだろう。捕食者の前に立たされた気分だ。
やがてアイリーンが口を開く。
「お前、弱いな」
ドドドッ、ドッカーン!
心臓をバズーカで吹き飛ばされたような衝撃が走る。
ちょ、女の子に弱いとか言われるとめっちゃ傷付くんですけどッ!?てかなんで俺弱いって言われたの!?
「ええっ!?ちょ、何でですか?!」
「目に力がない。身体を鍛えている様子もない。意志も肉体も脆弱だ。どうみても弱者であろう」
アイリーンがあっさりそういう。いやまあそうだけど。超一般的男子高校生の陽向くんの生身のスペックだけ見られたら仕方ないけど、でも傷つく。ううっ、俺も変身したら凄くなるんだよ!
「アイリーン、ヒナタ様は錬鍛兎を倒され先ほどDランクに昇格しました、くま。けして弱くはないです」
「何?錬鍛兎を倒したのか?この男が?」
アイリーンがジロジロと俺を見る。あ、あんまり見ないで下さい。女の子に見られると照れちゃいますので。
まあ今はあんまりそんな気分にならないけど。どちらかというと蛇に睨まれたカエルの気分です。
「そうは見えないがな。まあどうでもいい話だ。
アイリーン、出立は一週間後だ。気が変わったらいつでもこい」
「何度言われても行かないですよ、くま」
そういうとアイリーンは去って行った。なんか嵐に巻き込まれたような気分だね。俺の精神HPに100のダメージです。
「気にしないで下さいね、ヒナタ様。アイリーンに比べたら弱いのは皆同じなのですから」
「え、あの子強いの?」
めっちゃオーラ出てたけどやっぱり強いの?
「アイリーンはこの世界最強の獣です。最強種と呼ばれるライガー族の中でも彼女が1番強いのです、くま」
「ええっ、世界最強なんですか?やばっ、めっちゃ凄い人やん」
「そのアイリーンが自身の選んだ7人の戦士と共にダンジョン攻略に向かいます。このアルキテア国史上最高の戦力と言われてますので『狂喜の魅檻』もきっと攻略されるでしょう、くま」
アイリーンは世界最強の獣と言われる人らしい。道理でめちゃめちゃオーラ出てるわけですよ。ダダ者じゃない感半端なかったもんな。
で、今さらりととんでもないこと言われたぞ?え、あのむちゃんこ強いという話のアイリーンがダンジョン攻略にいく?待って、それやばいんじゃね?先に攻略されるんじゃね?
「え、困ります。俺もダンジョン攻略したいのに!」
「ヒナタ様はDランクなのでダンジョンにはいけないです、くま。でもこれでよかったと思います。アイリーンならきっとダンジョンを攻略してくれるので、くま」
ベティアさんがにっこりと笑う。いやいや、俺は困る!ダンジョン攻略してSランク冒険者になって勇者になるという夢が崩れるじゃないですか!ダンジョン行きたい!
うん、こうなったら仕方ない。1週間以内にCランクに上がってダンジョンを攻略しよう!
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