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どろ子
しおりを挟む黒い泥とは呼びにくいから名前を決める。どろ子と呼ぼう。
どろ子に赤くなったリンゴをあげてみた。するとリンゴに包み込むように覆いかぶさりきゅもきゅと身体を動かして食べていく。うん、かわいい。
あー、癒しだわ。どろ子癒しだわ。なんだかどろ子の色も落ちて来てもう灰色くらいになっているなぁ。最終的には白くなるのかな?
どろ子という仲間が出来てちょっと元気になった。じゃあもう一度トライ!この森からの脱出を試みてみましょうか。
りんごを食べ終わってまた俺にすり寄ってくるどろ子を抱いて黒い湖を背に森の中へと入っていく。右見ても左見ても黒い木。そして歩き出して10分後くらい、また湖に戻って来ました。うそやん。
え、さっきよりも早く戻ってきただ、と…?俺実は方向音痴だったの?それともマジでこの森空間が歪んでループ現象が起こっているの?どちらにしろはよなんとかせな俺が死ぬ。マジで死ぬ。肉体より先に精神が滅びる。
うん、だってもう何時間女の子に会っていないんだよぉ!
どろ子はかわいい。可愛いけどそれでも俺にはどうしても女の子が必要なの!いやだって女の子可愛いじゃん。本能的に欲しているです。禁煙している父さんがニコチン欲しているよりも恋しいのが女の子なんです。一生童貞予備軍だろうが関係ない、女の子のいない生活とか耐えられません。
もういっそどろ子が女の子になってくれないかな。だってそれって最高のシチュエーションですよね?女の子と森でふたりきりなのだぞ?どう見てもラブコメが始まる3秒前ですよ!
世間では鉄道や城やはてに細胞まで擬人化しているのだから泥が擬人化してもいいんじゃないの?どろ子が女の子になってボーイ・ミーツ・ガールが始まって欲しい。
「どろ子が女の子にならないかなぁ」
「人間、だとうれし…?」
……え?
自分の都合の良い妄想していると突然予想外のところから声が降ってくる。
声は目の前泥の中から聞こえてきた。驚いて呆然としてると手の中のぐにゅぐにゅとした粘土のような感触が消え柔らかい体温のあるものに変わった。
俺の腕の中にいたのはもう灰色の泥の塊ではない。そこには灰色の髪に灰色のワンピースを纏った目の縁が黒い女の子がいた。
「へ?あ、え……、どろ子?」
「どろ子……?そう、どろ子」
灰色の髪の女の子がこくりと頷く。この子はやはりあのどろ子であるらしい。マジで?どろ子が本当に人間の女の子になっちゃったの?そうか、奇跡も魔法もあったのか、うん。
よっしゃああああっ!!!俺大勝利ぃぃーーーー!!!!誰もいない森の中で、どうも、ぼっちです、オワタ。と思っていたら女の子が出現しましたよ!なんで急にどろ子が女の子になったのかわからんけどそんなことは大したことじゃない。世の中の非リア充の皆様方すいませんねぇ、俺は一足先に女の子とのいちゃラブライフを送りにいってきます!
そんなわけでニヤケながらどろ子を見上げていたがふと思う。でもここからどうしたらいいの?
童貞の俺は彼女がいたことはもちろん、女の子とろくに触れ合ったこともない。そんな中女の子と2人っきりになったからと言って何をすればいいの?あれ?これ詰んでね?どうやら俺はまだリア充の世界には行くことができないようだ。
取り敢えずどろ子を下ろして前に向き直る。コミュ力が低くて何を言ったら良いかわからないけどこれだけは言っておかなければならない。
「あ、どうも。柊野陽向です」
「ひなた……?ひなた、どろ子だよ」
頭を下げてそういうとどろ子もぺこりとお辞儀をする。うん、自己紹介はしておかないとこれからお互いなんて呼び合えばいいか困るよね。
だけどもマジそれしか言えてないです。こういう時にコミュ力高い人がうらやましい、俺も会話力あげて女の子と楽しくきゃっきゃっお喋りできるようになりたいです。
さて、どろ子が来てくれたのでこの黒の森での生活も今までよりは遥かに楽しく過ごすことのできるのは確定したがそれでもいつまでもここにいたいわけではない。毎日リンゴばかり食べるのも嫌なのです。この森にずっといたどろ子なら何か知っているかもしれない。
「どろ子、この森から出たいんだけどどうしたらいいか知っている?」
「ひなたはここから出たいの?」
どろ子が首をこてんと傾けてそう聞いてくる。いちいち仕草が可愛いんだが、これは俺を萌え殺しにきているのだろうか?よろしい、ならば受けてたとう。可愛い女の子にキュン死させてもらえるなら本望です。
「うん、外に出て色んな物を見て回りたいんだ。だからいつまでもこの森にいるわけにはいかないや」
「どろ子も連れて行ってくれる?」
首を傾けたままどろ子がそう聞いてくる。え?何言っているの?どろ子を連れて行かないという選択肢はありませんよ?例え水食料を持って行かなくともどろ子は持っていきますから。この世のあらゆるものより女の子は優先されるべき物なのです。
「それはもう地面に頭擦り付けるレベルでついてきて欲しいです。どろ子がいないとか考えられないのでお願いだからついてきてもらえないでしょうか?」
「ん、わかった。どろ子ひなたについて行く」
どろ子がこくりと頷いてくれたのでその場で思わずガッツポーズする。よっしゃぁー!どろ子が付いてきてくれることが確定しましたぞー!やっぱり女の子がいるのといないのでは心の潤いに大きな隔たりがありますからね!癒しは大事なのです。いや~、どろ子が付いてきてくれて実に嬉しいです。
「ん、ひなた、こっち」
「え?どろ子どこ行くの?」
トテトテとどろ子が歩き始めたので慌てて付いて行く。そうして景色の代わり映えしない黒の森を歩くこと10分、気付けば緑の草木の広がる草原に出ていました。……あれ?
え、こんなに早く森を抜けることができたの?マジで?さっきまで俺、何時間も森を彷徨っていたのにどういうことなの?そうでないと思っていたけど実は俺方向音痴だったのだろうか。まあ何にせよ出れたならいいか。
黒の森を抜けどろ子というパートナーを得て今、俺の冒険が始まる。俺の目的は変わらない。
モンスター相手に無双して女の子にモテモテになる。俺はやるぞ!
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