※ただし童貞を失ったら死ぬ

空兎

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黒い森でお散歩

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少し時間が経ち心が落ち着いてきたので現状について考える。いや、童貞を捨てられなくなった事実には全く納得はいってないのだけれどもそれはともかく今の状況も結構ヤバいのだ。

うん、だってここどこだよ。この森葉っぱが黒くて薄暗いし人気もなくて近くに人がいるようにも思えない。このままだと童貞捨てる前に飢え死にします。せめて死ぬのなら童貞捨てて死にたいのでなんとかこの森を脱出しなければならない。

こういうのは体力あるうちに動いた方がいいだろう。そんなわけですぐ様立ち上がり適当に森の外目指して歩き始める。

周りにあるのは木ばかり、あてもなく歩き続ける。そして体感時間でおそらく1時間、元の黒い湖のあるところにもどってきました。終わった。詰んだ。

嘘だろ?俺別に方向音痴ではないはずなのに元の場所に戻ってくるとかどうなっているんだよ。ここはよくラノベとかである迷いの森的な場所でいくら歩いても同じ場所をぐるぐる歩かされる的な効果がついているんですか?なんという鬼畜設定、世界が俺を殺しに来てます。どうせ死ぬなら童貞卒業させて下さいよ。女の子とイチャラブせずに死ぬとか絶対に嫌です。

ぐったりとしてその場に座り込む。1時間も歩けば喉も乾くし小腹もすく。このままだと干からびて死ぬ未来が見えますね。どうする?

ふと目に入るのは黒い湖だ。一応目の前に水場はあるわけだがどう見てもあれは身体に悪いだろう。だって黒だぞ黒。どうやったらあんな色に染まるんだよ。筆を突っ込んだらそのまま墨として活用出来そうなほど真っ黒です。

だけれども他に水場はない。歩き回っている時もそんな場所は見つからなかった。俺に与えられた選択肢は飲むか飲まないかだ。

これはもう覚悟を決めるしかないな。飲まずに干からびるくらいならワンチャン俺の身体の丈夫さに賭けるしかない。大丈夫、家族全員が牡蠣にあたってダウンしている時に俺だけ平気だったからね。胃の丈夫さには自信がありますよ!

とはいえいきなり口をつける勇気はないのでおそるおそる右手を湖に向けて伸ばす。入れた瞬間手が溶けたりしないよな、と思いながら黒い水に触れた瞬間、わっと黒が消えた。

俺が触れたところから黒い水が透明に変わっていくのだ。何これすごい。昔洗剤のCMでこんな感じの光景見たことあるな。我が社の洗剤を使うと油汚れがするする消えていきます的な奴。

俺に洗浄作用があるなんて知らなかったわ。これで一生浄水器を買わなくても大丈夫でしょう。これだけ真っ黒な水を透明に出来るのなら泥水だってろ過しちゃえますよ。

と、まあアホなことばかり考えていたが一応心当たりはある。【童帝ヴァージンロード】の能力のひとつに浄化作用があると書かれていた。これはその効果だろう。

なんてこった、黒く染まったものを白に変えるなんてまるで聖女様のようではないか。童貞とは穢れなき純白の存在だったんだね。

いやまあ嬉しいかというと微妙なんだけど。使用済みパンツのように汚れて構わないから今すぐ俺から童貞を剥奪してくれませんかね。清く正しくなくて良いので俺の息子に活躍の機会を与えて下さい。

取り敢えずこれで水の心配はもうしなくて良いだろう。両手で黒い湖を掬い上げると瞬間透明に変わったのでそのまま口に入れる。そして驚く。なにこれうまっ。

ペットボトルに詰めて売れば間違いなく飛ぶように売れるだろう。本気でうまい。マジでうまい。水ってこんなにおいしいんだね。見た目はアレだがこの黒の水って実はうまいんだろうか?なんにしても干からびなくて済んだようでよかったよ。

ついでに食べる物はないかと辺りを見渡すと黒い木の実がなっているのが見えた。ひとつもぎ取りしばらく待っていると黒が剥がれるように赤く変化しリンゴのような色合いに変わった。

試しにかじってみて驚く。リンゴの味だ、しかもうまい。びっくりするくらい美味しい。こんなヘンテコな森なのに何もかもむちゃくちゃおいしいな。まあ取り敢えずこれで食べ物にも困らないだろう。

ふーっと息を吐きその場に座り込む。その瞬間、グニャリとした感触がお尻に当たって慌てて飛び上がる。何?俺なに踏んじゃったの!?

俺が座っていたところを見る。そこにあったのは……泥だ。黒くてドロリとした泥が溜まっていた。

こんなのあったっけ?と首を傾げるがまあそこにあるのならあったのだろう。もう一度踏んでしまうのもイヤだし少し移動して腰を下ろす。

再びぐにゅっとした感触。なんかこのちょっとこんにゃくに近い感覚に覚えがあるぞ?と思って後ろを見ると黒い泥があった。ファッ!?

思わずさっきまでいたところに視線をやる。でもそこには泥がない。ちょっとまて、まさかこいつ……。バッと起き上がりその場を駆け出す。するとさっきまで俺の尻にひかれていた泥がにゅちゅにゅちゅと追いかけてきたのだ。わーっ!!

やっぱりこの黒い泥動いていたのかよぉー!なんなのこいつ。生きているの?モンスターなの?しかも結構速い。これは引き離せないぞ!?

体力的に逃げ続けてもおそらく勝ち目がないだろう。ならば闇雲に逃げるより向かい合った方がマシだ、と足を止めて黒い泥を待ち受ける。

スキルの使い方はイマイチわかっていないけど童貞を捨てたら死ぬという悲しすぎる代償払って得た能力だから弱くはないだろう。弱かったら泣く。

構える俺に黒い泥はゆっくりと近付いてくる。ぬっぬっとその身体を引きずり俺のすぐ側までくると……俺の足にスリスリと身体を擦り付けたい。あら、やだかわいい。

え、ちょ、普通に可愛いんだけどどういうこと?なんかわからんが俺はこの黒い泥に懐かれているらしい。ハートが飛びそうな勢いで俺にベタベタしてくる黒い泥に胸のときめきが止まりません。

なんというか、こう、小動物に好かれた的な嬉しさがあるわ。よし、決めた。この子も連れて行こう。

相変わらず俺に身体を擦り付けてくる黒い泥をひょいっと捕まえ抱き寄せる。それでも黒い泥は俺に嬉しそうに身体を寄せる。

誰もいない黒の森に飛ばされた時はどうしようかと思ったが俺にも仲間ができたらしい。癒し系黒泥を抱きしめながらぼっちでなくなったことにちょっと喜ぶのだった。
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