ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、VS火竜①

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荒野を越えて来ました、火山の麓です。ここに火竜がいるらしい。いよいよ、決戦というわけですね。スライムの楽園を守る為にも全力で援護しましょう。

取り敢えずゴツゴツした岩肌を登るのだがまあ感想してはとにかく熱いですね。火山地帯だもの、仕方ないとは思うけどこれって噴火したりしないよね?火竜との戦闘中にドカンとなったら皆お陀仏ですよ?フラグにならないと信じてます。

前方部隊はもう先にこの山を登っている。竜のブレスで一網打尽にされないように部隊は分けているそうだ。ひょっとしたらもう戦闘が始まっているってこともあるかもしれないから急ぎましょうか。いざ戦闘になったら特級ポーションも出し惜しみしませんよ。火竜を倒すのに全力を尽くします。

そんなわけでゴツゴツとした岩肌を登っていると前方の岩の上から火の手が上がる。うわ、あれきっと火竜のブレスだわ。やっぱり戦闘が始まっているよ。早く追い付いて援護せねば!

「そっちにブレスが行くぞ!避けろぉぉ!!!」

と思ったらこっちにもブレスが飛んできた。俺達の存在もばっちり火竜に認知されていたらしい。援護どころかこっちがピンチだわ。

上から丸い火の塊が降ってくる。吐息ブレスというよりは火の弾丸ですね。当たれば熱いでは済まされないわ。

え、これどうやって避ければいいの?ブレスまあまあでかいしこっちは斜面で岩肌で足場が安定しなくて避けにくい。あ、やばいわこれ。もろ直撃だ。

その瞬間前にいたマッチョな2人が盾を構える。

「ふんぬぅッ」
「ムキんっ!」

2人が斜めに盾を構えた瞬間ブンッと盾が青白く光る。あ、スキルだわ、と思った瞬間ブレスが盾にぶつかる。

衝撃に土埃が舞う。かなりの衝撃だったはずなのに2人は微動だにせずそこに立っていた。

「我等の盾に」
「隙はなし」

ムキッと効果音が聞こえてきそうな感じで2人が筋肉を見せつけてくる。隣からそんな2人に対して声が聞こえてきた。

「すげえ、さすがキムキム兄弟だぜ。あの竜のブレスも無傷で防げるのかよ」
「2人の構えが揃えばどんな攻撃でも防げるんだろ?さすがBランク冒険者のことだけあるぜ」
「でもなんでこんな後方にいるんだ?」
「ほら、あいつら身体重すぎて速く動けないらしいんだよ」
「ギルドマスターに『遅い!置いていくぞ!』って言われてマジで置いてかれたんだよ」
「本人達も気にしていて毎日走り込みしているらしいぜ」
「ああ、あの5歳のトビーに抜かれているやつだろ」
「なにそれ悲しすぎる」

皆の話を聞いていると何とも言えない個性的な兄弟らしい。どんな攻撃でも防げる盾スキルを持つ代わり速度が遅いとのこと。盾職がスピードないのは仕方ないことだと思うけど5歳の子に走り込みで負けるのかぁ。強く生きてください。

「さぁ、急ぐぞ」
「我等のギルドマスターがお待ちだ」

ズシンズシンと何とも重量感のある歩き方でキムキム兄弟が進んでいく。何はともあれマッチョなお二人のおかげで助かったのは事実だ。ありがとうございます!さあ、ギルドマスターと合流しましょう。

ブレスが飛んでくるくらいだからそれほど遠い場所ではなかった。ひとつ岩の塊を超えるとそこは決戦の場だった。火竜と前方部隊が戦いを繰り広げている。

「よし、こちらが押している!慌てず各自の仕事を全うしろ!」
「うおおおっ、このスライムすげえ!投げたら爆発するぞ!!」
「スライムって爆発するのかよ。やべえ、俺スライム焼きめっちゃ食ったぞ」

火竜は全長10メートルくらいの大きさで赤黒い肌を晒している。竜の中では小さめの個体だ。それでもひとつの街を滅ぼすかもしれないっていうんだからやっぱり竜はやばい。

で、そんな火竜さんはあちこち爆発してめっちゃ怯んでいる。あ、あれスライム爆弾だ。早速役に立っているようで良かったです。

ちなみにスライム爆弾は50個ほど作ってローレンさんにあげた。本当はもっと作りたかったんだけどファイが限界でした。ごめんね、ファイ。火竜倒したらおいしい物たくさん食べさせてあげるから許して下さい。

さあ、合流したんだから働きましょう。俺も攻撃しよう。いくつかスライム爆弾を手に取って火竜に向かって投げる。

『クギャアアアッッ!!!』
「おおっ、誰かの投げたスライム爆弾が火竜の目に当たったぞ!」
「怯んだ!今だ、押し込め!」

あ、ラッキー。右目に当たったわ。

目元が爆発した火竜は痛みに悶えている。そりゃいきなり目に衝撃が走ったらビビりますよね。でもその代わり火竜の怒りを買ったみたいでギョロリと光る金色の瞳をこちらに向けながら(ただし左眼のみ。右眼からは煙が上がっているわ)咆哮をあげた。

『グォガガガァァアアアッーーッ!!!』

ガンガンガンと3連打ブレスがくる。ちょ、やめてください、死んでしまいます。あの火竜むちゃむちゃ怒っているじゃん。スライム爆弾当てた人は他にもいるだろ。げせぬ。

「ふんぬゥ!」
「ムンンっ!」

だが俺に当たるはずのブレスは大きな盾によって防がれた。

「大丈夫か。錬金術師殿」
「先程は見事な一撃であった。ブレスは我等が防ぐ故錬金術師殿は攻撃を続けよ」

俺に届くはずだった3連打ブレスは見事キムキム兄弟によって防がれたらしい。おおお、度々すいません、お二人とも。おかげでヴェルダン仕上げにならなくて済みました。

「すいません、助かりました」
「何、錬金術師殿には恩がありますからな」
「ギルドマスターを救い火竜との再戦の機会を頂いた。この程度大したことではない」

2人がムキッと筋肉を見せつけてくる。あ、はい。筋肉にこだわりのある人達なのですね。でも確か筋肉って結構重いんじゃなかったっけ?俊敏に動けない理由のひとつはそこにありそう。

その後もキムキム兄弟の後ろに隠れてスライム爆弾を投げまくった。火竜は何故かこちらばかり気にしてブレスを何度も吐いて来たが全て2人が防いでくれる。

いやぁ、これは快適だわ。今盾職の有り難さを改めて実感しているよ。

前のパーティは俺以外全員超攻撃型で、『……向こうより先に斬ればいい』『ふはははっ、僕の魔法でそんなもん吹き飛ばしてやるさ!』『向こうの攻撃ごと弾き返せば良いのだろ?」って感じで攻撃を攻撃で返していたからね。盾職?何それおいしいの?レベルだったわ。いやぁ、防御って大事だよ。

ブレスを全てガードされるのに焦れたらしい。火竜は雄叫びを上げるとこちらに向けて突進して来た。

牙を剥き鋭く尖った爪を振り上げる。10mもある巨大が風を切るように向かってくるのは大迫力だ。めっちゃ怖い。思わず全力で逃げたくなる。

でも火竜、その選択は間違っていると思うよ?向けてはいけない人に背を向けた。

火竜の後ろで青い何かが光る。

「いくぞ、腹の傷の借りはここで返す!蒼燐セイク•絶闘槍ウィンディーネ!!!」

ローレンさんの手から青く輝く槍が放たれた。火竜もそれに気付いたらしく振り向きガードするように前脚を身体の前に突き出す。

だけれどもそれは意味をなさなかった。青い槍はそのまま火竜を突き抜け地面に刺さる。

火竜の身体がぐらりと揺れる。槍が身体の中心を貫通した。火竜に致命的な一撃を与えたのだ。

「今だ!総員総攻撃!!!」

ローレンさんの声と共に矢が打ち込まれ武器を持った冒険者達が火竜に向かって走る。火竜にトドメを刺すのだ。

だけれども火竜もそうはさせない。仰け反ったと思ったら横なぎにブレスを吐き出す。

先程までの炎の弾丸と違って赤黒い炎が口から吐かれ続けた。炎の壁だ、地面が燃えて火竜に近づけない。

俺達冒険者と火竜との間に赤黒い炎が燃え盛る。トドメを刺せない。膠着状態に陥る。

そう思った瞬間だった。

「行け!シルバー!火竜にトドメを刺すのだッ!!」
「おう!よくも俺達のギルドマスターを傷付けてくれたなァ!《-武撃-》双乱舞!!!」

火竜の後ろから冒険者の一団が現れた。先頭に立っているのはシルバーである。どうやら周りこんで火竜の背後を取ったらしい。シルバーの言っていたギルドマスターに頼まれた仕事というのはこれだったのだろう。

冒険者達はそれぞれスキルを唱えながら火竜に斬り込んでいく。シルバーは両手に剣を構えていた。そして青く光る両手剣を持って火竜に飛び込む。

2つの剣は火竜の喉元を切り裂いた。十字に斬り裂かれた火竜の首元から赤黒い血が吹き上がる。

どうやらおいしいところはシルバーに持っていかれたらしい。火竜の身体がぐらりと倒れた動かなくなった。


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