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スライム、火竜討伐へ

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ギルドには30人くらいの人が集まっている。ギルドマスターが招集をかけたファイア•ウォールの冒険者達だ。全員Cランク以上はある。このメンバーで今から火竜を討伐に行くのだ。

「皆集まったな。今から火竜との再戦にいく」

ローレンさんの声がギルドに響く。皆真剣にローレンさんの言葉に耳を傾けていた。1度負けた火竜との戦闘だ、心なしか皆の表情が硬い気がする。

「我々は1度敗北した。奴の火に焼かれ爪に切り裂かれ無念ながら撤退した。無傷であの場を去れた者はほとんどいない。だから再戦と聞いて不安に思う者も多いだろう。
だが、奴は今傷を負っている。飛べない今こそ火竜を屠る絶好の好機なのだ。
傷ついた奴と引き換え我々は万全の状態にある。傷は治った。ポーションは充分にあるし低ランクを寄せ付けない魔法アイテムや火竜にダメージを与える切り札もある。我々が負ける要素はどこにもない。勝つぞ!この街は我々の手で守るのだッ!!!!」
「おおおおっ!!!ローレン、俺はあんたについて行くぜ!!」
「怪我もすっかり治ったもんな。こんだけポーションがありゃ火竜とだって一戦できるぜ!!」
「低ランクモンスターを寄せ付けない?つまり火竜だけに専念できるってことか!?」
「火竜への切り札もあるのか!そいつはすげえ!今回の討伐はもらったようなもんだな!!」

わああああっ!!!と歓声が上がる。めっちゃテンションの上がる演説でした。なんだか俺までやる気に満ち溢れているぞ。よし、火竜を倒してスライムの楽園を取り戻すぞ!!

魔除けのポプリを一掴みずつ冒険者に配りいよいよ出発する。俺の渡したポーションも冒険者達に平等に配分されているようだ。準備は万端ですね。いざ、ドラゴン退治!

そんなわけで冒険者の一団の最後部に紛れながら火竜のいるという火山に向かって進む。ここから火山までは割と遠いそうだ。あー、あの岩肌の山までか。途中でおやつタイム挟んでくれないかな。

「今回の期待の戦力様がなんでこんな後方にいるんだ」
「あ、シルバー。シルバーこそなんでこんな後方にいるんだよ」

目付きの鋭すぎる銀髪冒険者、シルバーが現れた。ギルドマスター大好きマンだから前の方にいると思ったのになんでここにいるんだ?

「俺はローランさんに仕事を頼まれてるんだよ。で、なんでこんな後ろにいるんだ?今回はお前の戦闘力をアテにしてるんだからとっとと前行って働けよ」

シルバーがギロリと睨む。リンがスゥーと絶対零度の目でシルバーを見つめる。落ち着いてリンさん。今から竜退治なのに戦力を減らすのはよくありませんよ。

で、なんで前方部隊に行かないのかって?え、行くわけないじゃん。俺戦闘できないぞ?

「俺、錬金術師だから戦えないぞ?」
「は?」

シルバーが何言ってんだこいつといった表情でこっちを見てくる。いやそんな顔されても事実ですし。

「錬金術師?それってちょいっと便利なアイテム作れる奴のことだろ?思いっきり技術職じゃねえか」
「そうそう。だから俺は戦えないよ」
「ふざけんな!ただの錬金術師なんかに戦士である俺がやられてたまるかァ!」

シルバーがクワッと目を向いてそういう。見開いても目は小さいけど。

戦士ってことはスキル《-武撃-》を持っているということかな?《-武撃-》は武器を持っていると攻撃力が上がるスキルだ。冒険者向きのスキルだなぁ。

バチ切れしているようだが、まあ、落ち着いてシルバー。お前倒したの俺じゃないから。リンだから。ということでシルバーが倒されたことに俺の実力は関係ありません。

「いや俺は錬金術師ですよ?だからあれだけのポーションを用意できたのです」
「あのポーションお前が作ったのかよ。まさか特級ポーションもか?」

あ、しまった。それはバレない方が良かったかも。

上級ポーションですら不足しているこの状況で特級ポーション作れるなんて知られたら面倒ごとに巻き込まれるんじゃないか?でもここで否定するのも変だな。しょうがないから正直に答えよう。

「うん、そうだよ」
「上級ポーション以上は薬師じゃないと作れないじゃねえのかよ。なんで錬金術師が特級ポーションなんてもん作れるんだ?」

シルバーが怪訝そうな顔でそう聞く。それはスライムをテイムしたからじゃない?皆もスライムをテイムして育成したらきっと特級ポーションを作れるよ。

あとは、そうだな

「錬金術師は作れる物がレベルに依存しているんだよ。だからレベルを上げたら特級ポーションだって作れるよ」

初めから中級以上のポーションを作れる薬師のスキル《-調合-》と違い錬金術師はレベルが低ければ何も作れない。自分が扱う素材以上の実力を持っていないといけないのだ。

浅く広く色んな物を作れるのが錬金術師、薬に特化しているのが薬師というわけだ。

「《-錬金-》は育成スキル、《-調合-》は特化スキルってことだね」
「まあ俺の《-武撃-》も他の《-剣術-》に比べたら剣での威力は落ちるもんな。スキルによって特色があるってことか」

シルバーは納得してくれたようだ。

ああ、やっぱり《-武撃-》を持っているんだ。《-武撃-》はどんな武器を使っても攻撃力が上がる代わりに剣士とかに比べると能力上昇率が落ちる。まあスキルには良し悪しがあるのだ。

その時、前から『刺岩蜥蜴バルザックが出たぞ!盾を構えろ!』と声が聞こえてきたのでちょいと前に移動する。あー、Bランクモンスターが出ちゃったか。怪我人が出たらポーションが足りなくなるかとしれないから準備はしとこう。

うん、だから後ろから『ん?じゃあエアトはレベルが高いのか。てことはやっぱり強いじゃねえか!』という声は聞こえてません。

俺は強くないよ。ただちょっと強い仲間がいるだけだ。仲間に恵まれているだけのちょっと運のいい錬金術師です。
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