ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、説得

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「火竜を倒しましょう。全力で支援するのでもう一度討伐に向かいませんか?」

ギルドに戻りギルドマスターのローレンさんに直訴する。恩人ということもあり快く俺の話を聞いてくれたローレンさんだが眉間に皺を寄せ渋い顔をしている。

「エアトくん、我々も火竜を倒していると思っているが状況が悪い。足りない物があまりにも多過ぎる」
「何が足りないのですか?」

そう尋ねるとローレンさんは頭に手をやって考える素振りを見せた後1つずつ指を折っていく。

「まず、ポーションが足りないな。怪我人が多過ぎてこのままではとてもじゃないが再戦は望めない」
「ポーション1000本、上級ポーション100本、特級ポーション1本ありますのでこれで何とかなりますよね」

嘘じゃないことを証明するためにコメット袋をひっくり返して机の上にざばざばとポーションの瓶を落としていく。あっという間に机の上に小山が出来上がった。それを見てローレンさんの顔色も変わった。

「な、これは凄いな。だがまだ足りん。前回失敗した理由の1つに火竜に辿り着くまでに他のモンスターを相手にし過ぎたことがあげられる。この辺りのモンスターは好戦的だからな。せめて雑魚を蹴散らしてくれる別部隊が必要だ」
「魔除けのポプリです。Dランクくらいまでのモンスターなら近寄って来なくなりますよ」

ドンッと机の横白い袋に詰められた香草を置く。これだけあれば数十人に行き渡るだろう。

「……まだだ。まだ肝心な物が足りない。相手は何と言っても最強種族のドラゴンだ。戦ってみた感じ若い種とはいえかなり身体が硬い。これだけ条件を整ってもらっても恐らく五分といったところだ。戦力に不安がある」
「それについては俺に考えがあります。実は新しい武器を開発したので見てくれませんか?うまくいけば火竜に対して有効打になるでしょう」

そういってローレンさんに付いてきて欲しいとお願いする。新しい武器のお披露目をギルドの中でするのは危ないだろう。街の外に出たいというとローレンさんは『君は命の恩人だ。その武器とやらも見たいし付いて行こう』と言って外に出てくれた。シルバーも『お供しますぜ!』といってついて来る。

3人で街を出て周りに誰もいないことを確認して俺はコメット袋に手を入れ、水のベールに包まれた小さな石を取り出す。

この石は爆弾石といって爆撃山で常に爆発し続けている石だ。かなり危険なもので少しの刺激でもすぐに爆発してしまう。

今も水のベールに包んでいなければ俺の俺の手の中で爆発していただろう。爆弾石ともうひとつ、錬金するためのアイテムを出してもらう。

「ファイ、ちびスラだして」

うごうごと動いてファイが小さなレッドスライムを出してくれた。ありがとう、といってそれを拾い上げてスキルを使う。

「《-錬金-》」

ポンと音を立てて爆弾石とちびスラが錬金された。ちびスラの中に小石が浮いているようなそんな見た目だ。うん、これでいいだろう。

爆弾石入りちびスラを握りしめ振りかぶり、そして思いっきり遠くの地面に向けて投げ飛ばした。

爆弾石入りちびスラが地面にぶつかる。途端大きな音と共に爆発が起こり爆風が巻き上がる。

砂埃が辺りを覆った。目を擦りながらちびスラを投げた先を見るとそこには直径1メートルほどのクレーターが出来ていた。うん、大成功だ。

後ろから『な、なんだこのアイテムは!?』と驚いた声が聞こえてくるからローレンさん達から見ても充分な威力なのだろう。

爆弾石は爆撃山という超過激な山から取れる鉱物なのだけど、触れば爆発。落とせば爆発。転がせば爆発。という感じで何しても爆発する非常に扱いにくい鉱物だった。

衝撃を与えると爆発するので水のような液体の中に入れとかないと持ち運ぶことすらできないものだが、ここで思い付いたのがスライムだ。

スライムは体内の99%が水分で出来ているモンスターなので爆弾石を閉じ込めておくにはまさにぴったり。

しかもレッドスライムは燃えるんでしょ?爆弾石の威力を上げる上でもこれ以上ない素材だ。うん、よしスライム爆弾と名付けよう。

「このスライム爆弾なら竜に効率的にダメージを与えられます。竜の鱗は斬撃には強いけど衝撃には意外と弱いんです。これで竜を弱らせるんで皆さんで倒しちゃってください」

これで竜を倒す材料は提示した。あとはローレンさんがどう判断するかだ。

「……本当にこれだけの物資を提供してくれるのか?」
「あ、勿論ただじゃないですよ?」

結構貴重な素材も使っているしただではあげれません。

「何が望みだ?こちらにできることならば何でもしよう」
「何でもですか?」
「ああ、女に二言はない」

ローレンさんが肯く。小玉も揺れる。なんかすごい形相でシルバーがこっち見てきてるけどなんだろう?お腹でも空いたのだろうか?

勿体ぶった言い方をしたが俺の望みはひとつしかない。食欲を満たす、それだけだ。ということで、

「この地域のスライムの生息域の確保に協力して下さい。増えるまではスライムは狩らないとかスライムを攻撃するモンスターがいたら積極的に倒すとかそういうことをして欲しいんです」
「……それでいいのか?」

ローレンさんが訝しげな顔で聞いてくる。後ろではシルバーが信じられないといった顔で『馬鹿野郎!なんでローレンさん見て頼む願いがそれなんだッ!』と囁いてくる。え、他に何か頼むことあったっけ?俺はスライムがあれば満足する男です。

「後は使ったポーション代を払ってもらえると嬉しいですね」
「そんなことは当たり前だ。必要経費は全て請求してくれ。エアト、君の願いがスライムの保護だというならばギルドマスターの私の権限を使って必ず叶えよう。だから火竜を倒すことに協力してくれるか?」

ローレンさんが真剣な顔でこちらを見つめてくる。そんなのお願いされるまでもないことだ。俺からスライムを奪う全てのものを許しませんから。ギルドが動かなくても俺1人で討伐に向かってましたよ。

「勿論です。共にスライムの楽園を守りましょう」
「う、うむ。我々の目的はそうではないのだが、まあ共に火竜を倒そう」

若干ぎこちなく差し出されたローレンさんの手を握り返す。動機は様々だけど目的はひとつ、火竜を倒すこと!スライムの住処は俺が守りますから!

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