ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、ギルドマスター

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「ギルドマスターが重体というならば特級ポーションをお渡しするのは構いませんが、対価はいただけるんですか?」
「ああ、あの人がそれを払い渋りすることはねぇ。約束する。きちんとした対価を用意してくれるだろうし、それでもし無理だというならば俺が必ず払うよ。だからあの人を助けてくれ」

取り敢えず考えた俺の結論は渡してもいいけどちゃんと代金を貰おうというものだ。困っている人からお金を取るのもなんだけど『あいつはタダで特級ポーションをあげた?てことはたくさん持っているはず。狙えー!』とかで襲われても困るので貴重感は出しておこうと思う。

だけど銀髪はそれでも構わないからポーションが欲しいという。ここまで言われれば断る理由もありませんね。コメット袋からポーションを取り出して銀髪に渡す。

「はい、どうぞ。ただしめっちゃ苦いです 」
「ありがとう、すげえ助かったぜ。すぐに渡してくる」

特級ポーションを持って銀髪は奥に消えた。ただ待っているのもなんだし情報収集でもしようかな。

「ギルドマスターが重症だなんてよっぽどですね。何があったんですか?」
「とんでもなく強いモンスターが出てギルドマスターが直接出向くことになったんだが、他のメンバーが庇ってやられちまったんだよ。モンスターも倒せてないかやばい状況だせ」

ビアーに尋ねるとこの近辺に強大なモンスターが現れたそうだ。普通、脅威に思えるモンスターが現れたら冒険者を募って討伐に行かせるのにギルドマスターじきじきに討伐に向かうなんてよっぽどの相手なのだろう。

「因みにモンスターは?」
「火竜だ。まだ若い個体のようでその分気性がかなり荒かったぜ」

あちゃー、と顔に手を当てる。よりによって竜種なのかよ。そりゃギルドマスターで出張りますわ。

世の中には色々な種類のモンスターがいるが最強の種族は何かと聞かれれば恐らく皆こう答えるだろう。ドラゴンだと。

何せ竜は巨大だ。本当に大きい個体になると小山くらいの大きさになるらしいく小さいものでも人間の10倍くらいの大きさはある。やはり体が大きいというのはそれだけで有利だ。力が強くなり攻撃範囲も広くなる。

さらに竜は空を飛ぶことができる。機動力があり狙われれば何処までも追われることになるだろう。また戦況が不利になった時に逃げやすくもある。特殊なスキルや技能を持っている人もいるだろけど基本人間は空中戦は苦手だ。一度空を飛んだ竜を追うのは困難である。

そして竜は攻撃力が高い。爪や牙は鋭いし尾も太く逞しい。そして何より竜にはブレスがあるのだ。種族によってその特性は違うのだけれどどれも当たれば一撃で容赦なく命を奪っていく。先代の魔王も竜種だったくらいだもんね。そりゃギルドマスターが出て来ますよ。

「火竜は状態は?」
「ギルドマスターが翼をやったから暫く動くことはできないとは思う。だが傷が回復すれば必ず報復にくるだろう。今朝領主様と他の街に応援を飛ばしたがどうなるかわからねえよ」

ガリガリとビアーが頭を掻く。あー、なるほど。それだけ状況悪ければイライラしてしまうのも仕方ないだろう。

竜は執念深い。戦闘を仕掛けて仕留めきれなかったのならば必ず街を襲いにくるだろう。竜に襲われた街は瓦礫の海に沈む。この街は生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

領主様や他の街からの応援が1週間で間に合わなければ本格的にまずいなぁ、と考えていると鬱蒼としたギルド内を打ち破るようにバンッと大きな音がしてドアが開く。見ると背が高い豊満な身体の女性がそこに立っていた。

「ふっかぁつ!私の為に貴重な特級ポーションをくれた冒険者はどいつだ!」

女性が高らかにそう叫ぶとギルド中の視線が俺に集まる。それを見ると女性はズンズンと俺の前まで来た。

「君か。いやぁ、実に助かったよ!竜爪にやられて内臓まで飛び出していた傷が綺麗さっぱり治ってくれた。私はローレン、このギルドのマスターを務めている」

にこやかな顔で差し出された手を握り返す。この人がギルドマスターなんだ、女性のギルドマスターとは珍しな。にしてもこの人むっちゃ背が高いですわ。俺の顔がローレンさんの胸元までしかありませんよ。おかげで目の前には小玉スイカがでんっと2つ乗っている。

まあ、それにはさして関心はないんだけど。本物の小玉スイカなら興味をそそられたんだけどそれは食べれないからね。俺は食欲がすべての男です。

「エアトです。お役に立てて何よりです」
「エアトくん、君には是非礼をしたい。私の権限で出来ることならばなんでもしてあげよう。命を救ってもらった礼だ、何か私の力になれることがあれば是非とも言ってくれ。勿論金銭を支払って欲しいというのならばそれにも応じる」

ギルドマスターが気前よく対価を払うという。ギルドマスターは街の形態にもよるが実質の街の支配者である。つまりこの街で俺の望むことはなんでも叶えるというのだ。

こんなチャンスは滅多にないだろう。最高権力者に頼んでも叶えたい願いが俺にはあった。頼むならこれしかない。

「なんでも良いのですね?」
「ああ構わん」
「ならこの街1番のスライム職人を紹介して下さい!」

ファイのちびスラを俺は調理できずにいる。屋台のおっさんを真似して火をつけたら消し炭にしてしまったのだ。今後このようなことがないようにきっちりレッドスライムの調理法を学んでおきたい。

俺の言葉にギルドマスターは鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。予想外の内容だったのだろうか?いやでもおいしいスライム料理の作り方は皆も知りたいよね?

「本当にそれでいいのか?」
「それがいいのです」
「そうか。君は変わっているな。だがそれが願いだというならば約束通り叶えてやろう。恐らくこの街で1番スライムの扱いに長けているのはジェイだから彼に会いに行くといい。案内役もつけよう。シルバー、ジェイの家にエアトを連れて行ってくれ」

シルバーと呼ばれて前に出て来たのは先ほどの銀髪だった。シルバーに連れられギルドを出る。

「なぁ、なんであのギルド長になんでもしてやると言われて頼むのがスライムなんだよ。もっと言いたいことがあるだろ」

スライム職人のジェイさんの家に向かって歩いていると不満顔でシルバーがそういってくる。言いたいこと?何のことだろう?

「いや、特にないですけど?」
「はぁ?お前本気で言っているのか?あのギルドマスターの身体つきを見てみろよ。こう、男として湧き上がってくる欲求があるだろ!」

シルバーが手をわきわきと動かしながらそういう。湧き上がる欲求?特になかったけど。あ、いや、待て。確かに思ったことがあるわ。

「確かに、胸部に思うことがありましたわ」
「だろだろ!あの人、本当に美人だし胸なんかボタンが弾け飛びそうだし凄ぇそそられるよなっ!あの胸にダイブできるのなら死んでもいいわ!」

何やら夢想しているようでシルバーの表情が光悦としたものに変わる。正直彼の言っていることはあんまり同意できないけど共感できることもある。ギルドマスターの胸は大きかった。だから、

「小玉スイカが食べたくなりましたね」
「お前は何を言っているんだ?」

真顔でシルバーがこちらを向く。いや、だってあの大きさみたらスイカを連想するだろ?俺はスライムが好きだけどおいしい物も大好きなのです。

「ひょっとしてメロンの方でしたか?確かにメロンもおいしいですよね。以前レストラルドという土地で食べたメロンはもう最高においしくて、スプーンを入れるとするする滑っていって口に入れると砂糖のように溶けてなくなるんです。未だレストラルドのメロンよりおいしいメロンには出会えてません」
「いや、知らねえよ。なんで急にメロンの話になっているんだ?ローレンさんを見てどう思うかって話食い物について語るなんておかしいだろ。お前、ちゃんと下に付いているのか?」

シルバーが疑惑の目で俺を見てくる。失礼な、俺の下半身にはちゃんと男の証がついていますよ。ただ、下半身よりは胃袋で物事を考える人間だというだけだ。

「勿論ついてますよ」
「じゃあさ、お前超可愛い巨乳の連れがいるじゃんか。あの子ならどう?あの胸に飛び付きたいと思うか?」

うん?リンのこと?

思わず振り返り少し後ろを歩くリンを凝視する。

リンもこちらに気付くとニコリと笑いかけて来た。リンの胸に飛びつきたい?そんなの勿論、

「是非とも齧り付きたいですね」
「!!そうか!そうだよな!男ならデカい胸に飛び込むのは野望だよな!いやぁ、良かった。俺の横を歩いているのが下半身不能野郎じゃなくてよぉ。単に好きな女の胸がいいってことか。それなら納得だ!」

シルバーが安心したように笑みを浮かべる。ホッとしたような空気出しているところ悪いけど多分シルバーが考えている意味とは違うと思うぞ?

リンはスライムだ。つまりあの巨乳はすべてスライムなのだ。

顔を埋め尽くすほどのスライム、そんなの食べてみたいに決まっているだろ?

だけれどもシルバーとの誤解は解かずにおく。たぶん、その方が互いに幸せだろう。
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