ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、チンピラ

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戻ってファイア・ウォールの街。すぐにさっきのおっちゃんを探しに行ったんだけどもう店ごと影も形もなくなっていた。まあそりゃ、売る商品がなくなったら店仕舞いするよね。でも困ったなぁ。レッドスライムの調理法がわからないんだけど誰に聞けばいいんだろう?

取り敢えずしばらくはこの街を拠点とするわけだし情報収集がてらギルドに行く。道中作ったポーションもかなりあるからこれも売っ払いたい。露天開くにはどうしたらいいかギルドで教えてくれないかなぁ。

ギルドは街の入り口のすぐ側にあった。確かに外への出入りが多い冒険者にとってギルドは入り口に近い方が良いよね。実に便利なところにあります。

中に入ると作りはラスク・ハーゲンと同じだったが何故か全体的にギルド内が暗いように感じた。空気が重いですね。何かあったのかな?

ふと辺りを見渡すと大柄の男と目があった。そいつはズンズンこちらに近づいてくる。

「あ゛?この忙しい時の女連れの冒険者?舐めてんのかよ。おい、クソガキ、その細い腕で何しに来やがった。痛い目見る前にとっとと帰りやがれ」

銀髪を後ろに掻き上げた目付きの悪いお兄さんにいきなり怒鳴られる。え、何この人怖い。目付きが鷹でもここまで鋭くないよってくらいギラギラしていますよ。やばい人に目をつけられちゃいましたか?

いやでも言っている内容は乱暴な言い方だけれど危ないから帰れってことだし何か事件が起きたところだと考えたら別におかしなことではない。単にタイミングが悪かっただけかもしれないな。何か忙しないし一旦出ようか。

「俺はCランク冒険者でこの周辺の情報とクエストを確認しに来たのですが……忙しそうですね。出直します」
「ご主人様への侮辱を見過ごすことは出来ません。万死に値します」

じゃあ先に宿でも取りに行こうか、という言葉を言う前にリンが足払いをし銀髪に飛びかかる。

銀髪は完全に不意を突かれたようであっさりリンに押し倒された。美少女に押し倒される……字面だけ見たら野郎をぶち殺してやるとなるかもしれんが状況にラブコメ要素はありません。

えええっ!?ちょ、リンさん何してるの!?いや、確かに腹が立つのはわかるけどでもいきなり選択肢で戦闘をチョイスするのはやめてもらっていいですか?俺は平和を愛する男なので展開に心臓が持ちません。

「てめぇ、何する、もがっ…」
「これ以上ご主人様に不快な音をお伝えするわけにはいけません。2度と喋れないようにして差し上げましょう」

リンが銀髪の口元を手のひらで押さえ付ける。あれ、わかりにくいけどおそらく手の中はスライム化しているのだろう。このままだと銀髪は息ができなくなり窒息してしまう。

ん?じゃあなんで銀髪は抵抗しないんだ?リンはスライムだから筋力はあまりない。一般的な成人男性ならリンを押し返すことくらい簡単だろう。まさか美少女との窒息プレイを楽しんでいるのだろうか?そんな変態に慈悲はないのでそのまま昇天していただこう。

でも見ているとどうやら違うようだ。銀髪の足元にはウゴウゴと蠢くスライムの姿が見える。おそらく足払いをした時に仕掛けたのだろうけど、なるほど。足元にスライムがいたんなら滑って踏ん張ることが出来ないよね。銀髪はドMのど変態出ないことがわかって安心しました。

でも状況は最悪だよね。リンが人殺しの真っ最中ってことなんだから。……うわあああっ!!リンさんやめてぇぇーーー!!!もっと穏便にことを済まそうよぉぉおー!!

「リン!俺気にしてないから!だからその手を離して下さいお願いします。人殺しはよくないよ!」
「ご主人様がそう仰るのならば承知いたしました」

リンが手を離して銀髪の上から退く。銀髪はその瞬間ゲホゲホと勢いよく咳き込んだ。結構長い間抑えられていたし本当に窒息一歩手前だったのだろう。うちのリンさんがすいません。

「テメェら、よくも兄貴をッ…!絶対に許さねえ!!!」

銀髪の後ろからスキンヘッドの黒い革の装備の兄ちゃんがワナワナと身体を震わせながら前に出る。どうやら銀髪のお仲間さんらしい。ほらぉ、次々とトラブルが巻き起こるじゃないですか。だから平和が1番なんだよ!

どうすればいいんだろコレ。俺がスライディング土下座かましたら許してくれないだろうか。

「兄貴の仇は俺が討つ!うおおおぉっーー!!くらえぇッッ!!」

スキンヘッドが拳を握りしめながら俺の方へ向かってくる。だけれどスキンヘッドと俺の間にはファイがいた。

「アァ?スライム?なんでこんなところにいやがるんだ?チッ、邪魔だ。雑魚は死にやがれッ!」

スキンヘッドがファイに向けて足を振り下ろす。進行先にいたファイが邪魔だったのだろうがその選択はマズかった。

俺の中で何かがプツンと切れた。

この時は光よりも速いと言われるレインの輝剣よりも速く動いた自信がある。

スキンヘッドの足がファイに届くよりも前にスキンヘッドの胸元を掴みそのまま勢いに任せて地面に叩きつけつけた。

ドン゛ッと鈍い音が辺りに響きスキンヘッドの身体が地面に沈む。ギルドの床がひび割れスキンヘッドを中心としてバキバキに沈む。古いギルドで建物が老朽化していたのだろうか?何にしても言いたいことはただ1つ、

「俺のスライム達に手を出したら殺すぞ」

リンやファイに手を出すなら戦争です。

真顔のマジトーンに周りが静まりかえる。うん、やり過ぎましたか?いやでも他に選択肢はなかったよ。俺の愛すべきスライム達を奪う奴らは全力で排除するしかありません。

「ゲホッ、っ、悪かったッ。あんた達を軽んじる発言をして悪かったよ。謝罪するから許してくれ」

リンのダメージから復活した銀髪が咳き込みながらそういう。ふむ、ファイ達に危害を加えないのであれば俺としても和解に応じるのは吝かではない。いや、吝かではないどころかめちゃくちゃ有難いです。

コレだけやらかした後にいうのも信憑性かけるかもしれないけど俺は本当に平和主義なんですよ。戦いとかトラブルとか好きじゃないしおいしいもの食べながらのんびり過ごせれば本当にそれでいいです。

むしろ全力で赦しをこうのは俺の方だ。全力で地面に頭擦り付けるので許して下さい。

「いやいや、こちらこそ手を出してしまってすいません!俺スライムが好きで3度の飯がスライムになるほど好きで、ちょっとそこに寛容になれなかったというか…、とにかくすいません許して下さい」
「ならあいこってことで互いに手打ちにしてくれ。冒険者は見た目で判断できないってわかっていたのに抜かったぜ。俺はこれでもBランク冒険者で、あっちの寝っ転がってるビアーだってCランクはある。それをこんなに簡単倒してくれるなんてお前ら化け物かよ」

銀髪はぐしゃぐしゃと頭を掻きむしった後地面に伸びているスキンヘッドに近づく。その瞬間スキンヘッドはうう゛っ、と唸り声をあげたのでとりあえず生きているようだ。よかった死んでなくて。人殺しとしての人生を歩むのは嫌です。

「大丈夫かよ、ビアー」
「あ、兄貴。なんで俺…身体がいてぇ…」
「互いに喧嘩売る相手をミスったな。ポーションは数がないから悪りぃが自力でその怪我は治してくれ」
「わかってますぜ。迷惑かけてすんません」

スキンヘッド……ビアーさんが『イテテッ』と言いながら身体を起こす。どうやら無傷ではすまなかったらしい。昔から力は結構ある方なんです、本当にすいません。償いになるかはわからないけどポーションならたくさんあるしお渡ししましょう。

「あの、その怪我は俺のせいですしよかったらこのポーション使ってくれませんか?」
「本当か、すまないな。今怪我人が多くてポーションが不足しているんだ。素直に助かるぜ。ほら、ビアー、礼いっとけよ」
「兄貴に手を出したとはいえ先に口を出したのはこっちだったな。すまんかった。ポーション、有り難くもらうぜ」

ビアーさんにスライムの蓋がついたポーションを渡す。『お前どんだけスライム好きなんだよ』と若干呆れ顔でビアーさんは蓋をあけると一気に中身を煽った。その瞬間ぶはっと噎せる。

「グハッ、ハッ…、げぇっ」
「うわっ、汚っ!何すんだビアー」
「すんません、兄貴。あんまりにも不味くて……え?」

ビアーさんが勢いよく起き上がり手を握ったり身体を捻ったりする。そして信じられないといった顔で呆然と自分の身体を見る。

「な、治っている。あんなに痛かったのにもう何処も痛くないですぜ?」
「はぁ?お前どう見ても肋骨いっていただろ?そんなの上級ポーション以上じゃねえと治らないぞ?」
「あ、それ特級ポーションです」

ビアーさんに渡したのはリンがくれた特濃ちびスラで作ったポーションだ。効力は特級ポーションと変わらないはずだ。

そういうとバッと勢いおく2人がこちらを向く。

「特級ポーションってそんなクソ貴重なポーションを俺にくれたのか!?」
「おいビアー、お前何吹き出しているだよ!その雫一滴で金貨が飛んでいく代物じゃねえか!」
「マジっすか兄貴!?え、これ床舐めといた方がいいんすか?」

2人が何やら騒いでいるけど取り敢えず元気になってくれたのならそれでいいです。これで俺のやらかしたことはチャラにしてくださいな。

「なぁ、あんたこんな気軽にビアーに特級ポーションをくれるってことは他にもポーションを持っているのか?」

銀髪が期待を込めた目で俺を見てくる。道中作りまくったから特級ポーションはあと100個くらいあるんだけれどそれを正直にいうのはまずいよね。特級ポーションってひとつ5000sの価値があるんだからどう考えてもトラブルが起こる未来しか見えません。

どう答えるか考えると銀髪がバッと頭を下げる。その様子には茶化した感じはなく真剣そのものだった。

「頼む、特級ポーションをひとつ譲ってくれ!このギルドマスターのローレンさんが重症なんだ!」

ギルドマスターが重症?理由はわからないがそのギルドのトップが特級ポーションが必要になるほどの怪我をしているならばただ事ではないだろう。

どうやらこのギルドで起こった騒動に俺も巻き込まれてしまうようだ。
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